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労働者には、法律で保障された権利として有給休暇がある。原則として希望する日に有給休暇を取得してリフレッシュすることが可能だ。
しかし、事業の運営を妨げる場合をはじめ、やむを得ない事情がある場合は使用者(勤務先)による時季変更権が認められる。つまり、場合によっては労働者自身が希望している日に有給休暇を取得できない可能性がある。
こちらの記事では、使用者に認められている時季変更権や、労働者に時季変更の拒否が認められているかを解説する。
時季変更権とは
時季変更権とは、労働者が有給休暇の申請をしたときに使用者が「別の日に変えてほしい」という要請をすることだ。
以下で、時季変更権の概要や必要性について解説する。
■時季変更権の概要
時季変更権とは使用者が行使できる権利で、労働者が年次有給休暇を取得する日を変更できるものだ。労働基準法第39条5項において「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」と定められている。
原則として、有給休暇は労働者が希望する日に与える必要があるが、例外的な事情がある場合は使用者に時季変更権の行使が認められている。
使用者が時季変更権を行使したにもかかわらず、労働者が一方的に拒否して出勤しなかった場合、賃金が欠勤控除される可能性がある。つまり、収入を減らされることになるため注意が必要だ。
「正常な運営を妨げる場合」は、一般的に個別具体的な判断が求められる。単に「繁忙期だから」という理由だけでは足らず、安易な時季変更権の行使は認められていない。
■有給休暇制度における時季変更権の必要性
時季変更権は、有給休暇制度における例外的な扱いだ。例えば、同じ日に多くの労働者が有給休暇を申請した場合、事業運営が困難になるケースが想定される。
代替人員の確保が困難だと、事業の正常な運営が困難に陥る。経済活動に支障が出てしまう事態は好ましくないことから、やむを得ない事情があるときは使用者に時季変更権が認められているのだ。
ただし、時季変更権はあくまでも例外的な取り扱いである点に留意しよう。使用者は労働者が希望日に有給休暇が取得できるように合理的な努力をする必要があるため、最終的には使用者と労働者で折り合いをつける必要がある。
時季変更権が拒否されるケースと認められるケース
過去には時季変更権をめぐり、裁判所を通じて争ったケースがある。時季変更権の行使が適法と認められるかどうかは、以下の要素を勘案してトータルで判断する。
- 事業所の規模や業務内容
- 労働者の担当する職務内容
- 職務の繁閑
- 代替要員確保の難しさ
- 有給休暇を同時季に指定した労働者の人数
- これまでの労働慣行
以下で、労働者が時季変更権を拒否できるケースと、拒否できないケースについてそれぞれ解説する。
■時季変更権を拒否できるケース(希望通り有給休暇を取得できるケース)
使用者が代替人員を確保するための合理的な努力を行っていない場合、時季変更権を拒否できる。使用者は、労働者の休暇を見越したうえで業務体制の構築を行う必要があるため、組織体制を維持するための努力を行うのは当然といえる。
そのため、単に「繁忙期だから」という理由だけ伝えられた場合は、時季変更権を拒否する余地があるだろう。
また、退職を予定している場合も時季変更権は拒否できる。退職を予定している場合は退職までの時間が限られているため、使用者は時季変更権を行使できない。
つまり、有給休暇が20日残っており、退職日から逆算して20日間の有給休暇を申請した場合は希望通り取得できることになる。
■時季変更権が認められるケース(希望通り有給休暇を取得できないケース)
合理的な理由がある場合は、使用者による時季変更権が認められるケースもある。例えば、繁忙期において使用者が代替人員を確保するための努力を行っても、なお困難である状況であるようなケースだ。
この場合、事業の正常な運営が妨げられてしまう合理的な事情があることから、時季変更権の行使が認められる。
繁忙期において、有給休暇を取得する労働者が重なってしまった場合も「事業の正常な運営を妨げる」として、時季変更権が認められる。労働者の有給休暇を取得するタイミングが重複してしまった場合、使用者としては代替人員の確保が困難なので時季変更権の行使は適法と認められる公算が高い。
ほかにも、研修が行われる日への有給休暇の申請に対して、時季変更権を行使したときも適法とされる。代替人員を研修に参加させたところで、当該労働者の代わりに知識や技能を習得できるわけではない。
※個別のケースでは、具体的な状況によって判断が異なる可能性がある
※法律の解釈や適用は、裁判所や労働局によって最終的に判断される
※労使間の合意や就業規則など、職場ごとの規定も考慮する必要がある
まとめ
研修や訓練を受ける日に有給休暇を申請すると、時季変更権を行使される可能性が高いだろう。
長期かつ連続の年次有給休暇の申請に対する時季変更権の行使も、適法とされる。実際に、報道記者が24日間連続の有給休暇を申請したのに対し、会社が後半の10日間について時季変更権を行使したことは適法であるという判例がある。
退職を控えている場合を除いて、長期かつ連続の年次有給休暇を申請しても、時季変更権を行使される可能性を織り込むべきだろう。
文/柴田充輝
厚生労働省にて5年勤務したあと、保険業界へ転職。労働保険全般の事務や助成金関係の事務に携わった経験を持つ。社会保険労務士とFP1級資格を活かして、人事・転職関係や金融関係の記事執筆を行っている。