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変形労働時間制って何?1日の勤務時間によって変わる年間休日の最低ライン

2024.12.25

年間休日の最低ラインは105日と考えられているが、変形労働時間制などケースによってはひと口に105日とは言えない。自身の場合、休日の最低ラインは何日が当てはまるのか、社労士としての勤務経験を持つ筆者が解説する。

年間休日の最低ラインは「105」日だといわれている。求人サイトの会社情報でも、見かけることのある日数だ。しかし、105日は一般的な年間休日数なのだろうか。そもそも、法的に問題はないのか、気になるところである。

この記事では、年間休日の最低ラインが105日で正解なのかを、根拠となる法律にも触れながら、検証する。また、変形労働時間制などのケースでは最低ラインはどうなるのかも、わかりやすく解説する。

年間休日の最低ライン

さっそく、年間休日の定義から解説しよう。

■年間休日とは

年間休日とは、会社の1年間の休日の合計日数のことだ。休日には、1週間に1日以上、または4週間に4日以上の法定休日のほか、国民の祝日、年末年始、夏季休暇など、会社独自の休日も含まれる。

なお、有給休暇やアニバーサリー休暇など、個人で付与日数や時期が違う休日は除く。

■年間休日の最低ラインと考え方

年間休日の最低ライン、つまり、1年間に最低限保障しなければならない休日数は、法律で許された、1年間の労働時間の最大時間数から算出できる。順に見ていこう。

労働基準法では、会社は従業員に、休憩時間を除き、1週間について40時間、1日について8時間を超えて働かせてはいけないという「法定労働時間」の規定がある。(労働基準法第32条)

この40時間が、1週間の最大労働時間数だ。次に、これを1年で考える。1年間の週数は約52週だ。

  • 365日÷7日≒52週

年間最大労働時間数はこのようになる。

  • 52週×40時間=約2080時間。

さらに、ここから年間最大労働日数が算出できる。1日の法定労働時間、8時間を当てはめるのだ。

  • 2080時間÷8時間=260日。

したがって、1日8時間勤務の場合、年間最大労働日数は260日となる。あとは、1年間の暦日数365日から260日を引くと、105日となる。

これが年間休日の最低ラインが105日である根拠だ。

■年間休日の最低ラインの例

では、年間休日が105日の場合の、具体的な働き方の例を挙げよう。年間休日105日は、ひと月単位では、毎月の休日数は8日~9日ぐらいになる。

  • 105日÷12か月=8.75日

つまり週休2日の計算だ。週休2日といえば、休日が多い印象である。しかし、1年間、毎週2日の休みを確保していくと、それだけで105日に達してしまい、夏期休暇や年末年始休暇などの長期休暇を確保しづらい。

このケースでは、休日を活用して、心身ともにリフレッシュする余裕はなさそうだ。では、他の会社の年間休日数は、何日ぐらいなのだろうか。

厚生労働省の調査によると、令和4年1年間の年間休日数の1企業平均は、110.7日だった。会社の規模別では、次の通りだ。

会社の規模

平均年間休日数

1,000人以上

116.3日

300~999人

115.7日

100~299人

111.6日

30~99人

109.8日

以上のように、年間休日105日は平均以下の日数であり、決して多くない。

※出典:厚生労働省「労働基準法」

※出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況 」

変形労働時間制の年間休日の最低ライン

年間休日の最低ライン105日だが、会社が「変形労働時間制」を採用している場合、この日数は変わるのだろうか。変形労働時間制の意味から解説していこう。

■変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、月末だけ忙しい、夏季が繁忙期、といった業務に繁閑がある会社において、一定期間を平均して法定労働時間を超えないならば、特定の日や週に、法定労働時間を超えて長く働くことを認める制度である。

変形労働時間制を採用することによって、たとえば、閑散期の労働時間を短く設定し、繁忙期の労働時間を長く設定することが可能となる。製造業や運輸業、飲食サービス業など、1か月や1年で業務の忙しさに差がある会社には、ありがたい制度だ。

種類は1か月単位、1年単位、1週間単位もある。また、あらかじめ定めた総労働時間の枠内で、始業・終業時刻や労働時間を自由に決めることができるフレックスタイム制も、変形労働時間制の一種だ。

■年間休日の最低ラインと考え方

このように、変形労働時間制は、会社の実態に即して、法定労働時間の枠組みを柔軟に運用する制度であるが、採用することで年間休日の最低ラインがさらに下がる可能性がある。具体的には次の通りだ。

1年単位の労働時間制では、年間最大労働日数を原則280日としている。

先ほど見た260日より多いのは、1年間の総労働時間の枠を暦日数で考えるためだ。

暦日数で考え、平均すると週の法定労働時間40時間を超えない総労働時間数

  • 40時間×365日÷7≒2085時間

週で考えた場合の1年間の総労働時間数

  • 52週×40時間=2080時間

この2085時間を、平均して週の法定労働時間を超えないよう最大限働かせることができる日数が、280日なのである。よって、年間休日は、365日-280日=85日となる。

最低ラインは、1日の勤務時間によって変わる。次の表を参照してほしい。

対象期間

最大労働時間数

1日の勤務時間と年間休日の最低ライン

8時間

7時間45分

7時間30分

7時間15分

7時間

1年

365日

約2085時間

105日

96日

87日

85日

85日

366日

約2091時間

105日

97日

88日

86日

86日

■105日のラインが下がる「高度プロフェッショナル制度」

ところで、105日のラインが下がるケースとして、「高度プロフェッショナル制度」の対象労働者となる場合も考えられる。

高度プロフェッショナル制度とは、ファンドマネージャーやディーラーなど、「高度な専門的知識を持ち」、「業務の範囲が明確」で、「年収1075万円以上」という3つの条件を満たす従業員に対して、健康や福祉を確保する措置などの実施を条件に、年間休日の最低ラインを104日とすることができる制度である。働き方改革の一環として、2019年4月に導入された。

しかし、この条件に合致する従業員はごく少数だと思われるため、104日の最低ラインとなるのは、レアケースといえるだろう。

■年間休日の最低ラインの例

では、変形労働時間制での年間休日最低ラインの働き方の例を見てみよう。

例:1年単位の変形労働時間制を採用している会社

  対象期間は2024年1月から12月

  1日の勤務時間は、7時間と設定。

2024年の歴日数は366日であるため、この場合の年間休日最低ラインは86日。ひと月単位の休日数となると、7日~8日となり、月の出勤日数は22日~24日である。

勤務時間が法定労働時間より1時間少ない7時間といえども、趣味などプライベートを充実させるには、場合によっては難しい部分もあるかもしれない。

※出典:岩手労働局「労働時間チェックカレンダー」

まとめ

年間休日の最低ライン105日は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を前提とした日数で違法ではない。しかし、一般的な企業平均からすると多い日数とはいえず、体の疲れは軽減しても、プライベートの充実が可能かどうかは、個人の考え方次第だろう。

さらに、変形労働時間制を採用している会社では、年間休日の最低ラインも変わるので、注意が必要だ。その一方で、年間休日は、自社や転職先の現状を知る材料にもなる。この記事が、読者にとって、自らの働き方を考えるきっかけとなれば、幸いである。

文/木戸史(きどふみ)

立命館大学文学部卒業後、営業、事務職、編集アシスタントなどを経て、社会保険労務士事務所で社労士として勤務。現在はライターとして活動しており、社労士として多くの中小企業に携わった経験を生かし、ビジネスマンに役立つ法律知識をできるだけわかりやすく発信している。

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