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ソーシャル・キャピタルは、ビジネスや社会生活において重要な役割を果たす概念である。この概念は、個々の人間関係やネットワークが持つ価値を指し、その存在がビジネスの成功や社会的な結束に直結する。
ビジネスにおいて、ソーシャル・キャピタルを理解し活用することは、関係構築や信頼の構築に不可欠となる。本記事では、ソーシャル・キャピタルの意味や具体例について言及し、ビジネスや社会生活におけるその重要性とメリットを解説する。
ソーシャル・キャピタルとは
ソーシャル・キャピタルとは、「社会関係資本」ともよばれ、個々の人間関係やネットワークが持つ価値を指す概念だ。この概念は、経済的な資産や物理的な資源だけでなく、信頼や相互依存関係などの社会的要素も含まれる。
■ソーシャル・キャピタルの定義
パットナムは、1993年に出版された著書『Making Democracy Work』で、ソーシャル・キャピタルを次のように定義した。
人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴
信頼
個人や組織間での信頼関係。例えば、地域の住民がお互いに信頼し合い、困ったときに助け合うような関係があることなどが挙げられる。
規範
社会的なルールや行動規範。例えば、ある地域では、交通ルールを守ることや、公共の場でのマナーを守ることが一般的な規範とされる。
ネットワーク
人々や組織間のつながりやつながりの強さ。例えば、地域のビジネスコミュニティが相互に連携し、情報共有やビジネスのパートナーシップを築くことなどである。
■ソーシャル・キャピタルの展開
ビジネスにおけるソーシャル・キャピタルの展開は、パートナーシップ構築、顧客関係構築、社内コミュニケーションの促進、地域社会への貢献活動などさまざまな形で行われる。これらの取り組みにより、ビジネスは信頼性や持続可能性を高め、競争力を強化することができるだろう。
ソーシャル・キャピタルの重要性とメリット
ここでは、ソーシャル・キャピタルの重要性とメリットについて解説する。
■ソーシャル・キャピタルの重要性
現代のビジネス環境において、成功するためには単なる優れた製品やサービスを提供するだけでなく、人間関係の質が極めて重要だ。ここで注目すべきなのが、ソーシャル・キャピタルという概念である。
ソーシャル・キャピタルは、人々の相互関係やネットワークが持つ信頼や協力の要素を指し、ビジネスの成果や社会的な結束に大きな影響を与えている。
■ソーシャル・キャピタルのメリット
ソーシャル・キャピタルが高い組織やコミュニティでは、従業員同士の信頼関係が築かれ、効果的な協力関係が実現する。
例えば、チームメンバーが互いを信頼し、協力してプロジェクトを遂行することで、生産性が向上し、成果が最大化されることは想像に難くない。Googleは、従業員同士の信頼関係が高いチームがより効果的に業務を遂行できることを示す研究結果を発表している。
ソーシャル・キャピタルの具体例
ソーシャル・キャピタルの具体例として、まちづくりや地域づくりについて、保健対策や企業・起業活動における例を具体的に以下に示す。
■まちづくりや地域づくりにおけるソーシャル・キャピタル
まちづくりや地域づくりにおけるソーシャル・キャピタルは、地域の発展や持続可能な成長に不可欠な要素として位置づけられている。地域住民が共通の目標や価値観を持ち、地域の課題解決や発展に向けて協力し合うことで、地域コミュニティが形成されるのだ。
例えば、地域住民が自治会や地域団体を通じて集まり、地域の安全や清潔を守るための活動を行うことがあるだろう。このような活動は、地域住民が互いに信頼し合い、協力して地域の魅力や賑わいを高めることにつながる。
※出典:国土交通政策研究所「まちづくり・地域づくりとソーシャル・キャピタル」
■保健対策におけるソーシャル・キャピタル
国立保健医療科学院の報告書によれば、保健対策におけるソーシャル・キャピタルの活用は、地域の健康増進や疾病予防に重要な役割を果たす。
地域住民が共同で健康増進活動を行うことで、ソーシャル・キャピタルが形成される。例えば、地域のウォーキンググループや健康教室などの活動に参加し、健康意識の向上や運動習慣の定着を図ることがある。地域住民が協力し合い、健康を維持するための行動を共有することで、地域全体の健康水準が向上するだろう。
実際に、兵庫県豊岡市では、歩くことによって他者との間に新しい関係性が生まれる「歩きたくなるまちづくり」を提案し、その推進が人のつながりを開放的にした上で、ソーシャル・キャピタルを高めるかどうかの実証実験が行われた。これにより、ソーシャル・ネットワークインセンティブ(人のつながりの力)は身体活動量の増進に有効であったという結果が得られている。
※出典:国立保健医療科学院「ソーシャルキャピタルを活用した地域保健対策の推進について」
※出典:大阪産業大学分野別研究組織中間報告(2017年度):佐藤真治・著『「歩きたくなるまちづくり」がソーシャルキャピタルに及ぼす影響 』
■起業・企業活用におけるソーシャル・キャピタル
企業における事例として、Googleの例を紹介する。Googleでは、社員の幸福度と生産性を向上させるために、ソーシャル・キャピタルの重要性に焦点をあてている。具体的には、オフィスのレイアウトや食堂のデザインを工夫して、社員同士の交流や協力を促進する魅力的な空間を提供している。
また、社員のスキルアップを支援し、相互学習のプラットフォームを提供していることにも注目したい。社員による社内コミュニティグループやクラブ活動を活発化させ、個人の成長だけでなく、コミュニティ全体で共に成長できる機会を構築しているのだ。
さらに起業家や企業が地域のコミュニティと協力して、地域社会に貢献する活動を行うことがあるだろう。例えば、地域の学校や団体と提携して教育プログラムやイベントを開催したり、地域の環境保全や社会貢献活動に参加したりすることなどだ。これにより、企業と地域住民との信頼関係が構築され、企業の地域での受容度やブランド価値が向上する。企業と起業家のコラボレーションに加えて、地域社会への貢献と、いわゆる“三方よし”の関係が実現する。
まとめ
本記事で紹介したように、ソーシャル・キャピタルの具体例は、ネットワークの活用、地域コミュニティとの連携、保健対策、まちづくり、企業・起業などさまざまだ。ソーシャル・キャピタルはビジネスにおいても、非常に重要な要素であり、これらの活動を通じて、信頼関係や協力関係が築かれ、企業の成長や地域の発展が支援される。これらの具体的なメリットを活かすことで、企業や組織の成長と繁栄を促進することが可能となる。
文/真南風文藝工房(まはえぶんげいこうぼう)
自動車メーカーでの先行開発エンジニアを経験した後、理系教科書編集(高校数学・中学校理科教科書編集)職に転向。近年は、サイエンスライティングに加え、理系・元エンジニアとしての経験を活かし、就職活動サイトコラム執筆や人事・広報ライティングなど、幅広い分野での執筆活動に取り組んでいる。