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OKR(Objectives and Key Results)は、組織の目標管理手法のひとつだ。OKRでは、「Objectives(達成すべき目標)」とその達成度を測る指標「Key Results(主要な成果)」を設定して、組織の目標管理を行う。
実は約50年前からある手法だが、GoogleやFacebook、メルカリ、Chatworkといった大手企業で導入され成果も出ていることから近年注目が集まっている。
ここでは、OKRの概要や導入事例、類似手法との違い、成功させるポイントなどをわかりやすく解説していく。
OKRとは
まずは、OKRの意味と具体例について解説していく。
■OKRの意味
OKRは、「Objectives and Key Results」の略称で、組織の目標管理手法のひとつだ。1970年代、アメリカのIntelで導入されたのがはじまりで、提唱したのは当時同社に在籍していたアンドルー・グローヴ氏である。
OKRの「O」は「Objectives」のことで「達成すべき目標」を意味している。OKRの「KR」は「Key Results」のことで「主要な結果」を意味している。OKRでは、このObjectivesとKey Resultsを設定して、組織の目標管理を行う。
■Objectives(達成すべき目標)の設定方法
Objectivesは、組織として達成すべき目標を定性的に定義したものである。その内容は、覚えやすくかつ社員のモチベーションを高めるものが望ましい。通常は1〜3個のObjectivesを設定する。
Objectivesの例:
- 自社商品のファンを増やす
- 月の売上を過去最高にする
- 県内で最も有名なチェーン店にする
■Key Results(主要な成果)の設定方法
Key Resultsは、Objectivesの達成度を測るための定量的な指標である。通常はひとつのObjectivesに対し2〜5個のKey Resultsを設定する。
Key Resultsの例:
※「自社商品のファンを増やす」というObjectivesを設定した場合
- 既存顧客のリピート数を〇倍にする
- メルマガ登録者数を〇〇人以上にする
- 口コミサイトでの自社商品の評価を〇〇以上にする
なお、OKRでは、「ストレッチ目標」が望ましいとされる。ストレッチ目標とは、「容易には達成できないが、最大限の努力をすれば実現不可能ではない」レベルの目標のことだ。具体的には達成率が60〜70%となるようなレベルである。
これは、「高い目標を設定すれば、自身の能力を最大限に発揮したり、それまでにないアプローチを試したりするようになるだろう」という考えに基づいている。
■OKRを導入するメリット
OKRの導入にはどのようなメリットがあるのだろうか。
まず、OKRを設定すると、取り組むべきタスクやそのタスクの優先順位が明確になるため、業務の生産性が高まりやすくなる。
また、OKRを設定すると、「遅れが生じていないか」「方向性を間違えていないか」といった内容を把握しやすくなるため、進捗管理が行いやすくなる。
さらには、OKRの設定内容が社内の共通言語となるため、異なる部署間・異なる役職間でもコミュニケーションがとりやすくなり、社内の連携力が高まりやすくなる。
■OKRの導入手順
OKRの一般的な導入手順は次の通りである。
①導入範囲・時期を決める
まず、OKRを導入する範囲と時期を決めよう。限定的な範囲でテスト的に導入するのもひとつの手である。導入する時期は、基本的には通常業務に差し支えないタイミングがベター。
②社員教育を行う
自社社員がOKRを適切に設定・運用できるよう教育を行う。内容としては、OKRの基本的知識、導入の狙い、参考導入事例などである。
③組織全体のOKRを設定する
組織全体のObjectivesとKey Resultsを設定する。
※その方法は前述した通り
④各部署・各社員のOKRを設定する
全体のOKRと連動するようにして各部署のOKRを設定し、また各部署のOKRと連動するようにして各社員のOKRを設定する。
⑤導入する
実際にOKRを導入する。導入後は定期的に進捗報告・評価を行い、必要に応じて設定内容の調整も行う。
■OKRの代表事例
ここで、OKR導入の代表事例を2つ紹介する。
Googleでは、2000年代初期からOKRを導入している。
<具体的な取り組み内容>
- OKRのミーティングが当たり前のように実施される環境をつくる
- OKRに関する情報を社内で共有する
- 皆がベストを尽くせるようストレッチ目標を徹底する
同社では、OKR文化が深く根付いており、OKRこそがGoogleを世界的大企業に成長させた原動力とも言われている。
メルカリ
メルカリでは、2010年代中盤からOKRを導入している。
<具体的な取り組み内容>
- 定期的に上司と部下で1on1ミーティングを実施する
- OKRの設定はトップダウンだけでなく各社員の声を十分に反映させる
- OKRと人事評価を結びつけないようにする
短期間で急成長した同社では、社員の増加にともなって経営層と社員との間で意識や認識のズレが生じがちであった。しかし、OKRの導入によってそのズレの解消に成功したとのことである。
OKRとKPI・MBOの違い
OKRと類似する用語としてМBOとKPIがある。ここでは、それぞれの意味とOKRとの違いについて解説する。
■MBOの意味とOKRとの違い
MBOは、「Management by Objectives」の略称で、マネジメント手法のひとつだ。各社員の自主性を尊重しながら達成すべき目標を設定し、社員のスキルアップと企業の業績向上を目指していく。人事評価ツールとして用いられることも多い。
OKRと似ているが、OKRは組織の意思・目標達成に重きをおいているのに対し、MBOは個人の意思・目標達成に重きをおいている。また、OKRは組織全体で情報共有するのに対して、MBOは上司と社員のみで情報共有するのが一般的だ。
■KPIの意味とOKRとの違い
KPIは、「Key Performance Indicator」の略称で、組織の最終目標達成に必要なプロセスが適切に実施されているかを定量的に評価する中間指標である。例えば売上を上げたいとき、顧客訪問件数などがKPIの例となる。
OKRと似ているが、OKRは組織の意識統一やモチベーション向上のニュアンスが強く、KPIはプロセスチェックのニュアンスが強い。また、OKRでは達成率60〜70%となるストレッチ目標が望ましいとしているのに対し、KPIでは達成率100%を目指す。
「時代遅れ」「くだらない」と言われないためのOKRの運用を成功させるポイントとは
OKRは「時代遅れ」「くだらない」と言われることもあるという。しかし、実際にOKRの運用を成功させることができれば、そうは言われないだろう。ここでは、OKRの運用を成功させるポイントを3つ紹介する。
■目標設定数を最適化する
目標設定数は最適な数にしよう。あまりに少なすぎると効果が出にくい。逆にあまりに多すぎると、内容を覚えきれない、方向性がブレる、無駄な業務が増えやすいといった問題が起こりやすくなる。
■目標レベルを上げ過ぎない
目標レベルは上げ過ぎないようにしよう。OKRではストレッチ目標が望ましいとされるが、あまりに高すぎる目標は次のような問題が起こりやすくなるため、注意が必要だ。
- 「失敗するのが当たり前」という思考になってしまう
- 他人任せになってしまう
- 目標を意識することがストレスになってしまう
■目標をしっかりと共有する
OKRの設定内容は社内でしっかりと共有するようにしよう。お互いによい刺激になるし、コミュニケーションもスムーズになるだろう。具体的な手段としては次のようなものが考えられる。
- 共有フォルダに保管する
- 各種ミーティングの資料に記載する
- 掲示板に掲示する
- チャットツールで固定表示する
まとめ
OKRは、元Intelのアンドルー・グローヴ氏が提唱した目標管理手法である。ObjectivesとKey Resultsを設定して、組織の目標管理を行っていく。
古くからある手法だが、GoogleやFacebook、メルカリ、Chatworkといった大手企業で導入され成果が出ている点は大変興味深い。このOKR、あなたも自社の目標管理に活用してみてはいかがだろうか。導入イメージが湧かない場合は、各社の導入事例を参考にするとよいだろう。
文/松下一輝
大学院修了後、ITエンジニアとして大手システムインテグレータに入社。通信キャリアを顧客とする部署に配属され、業務システムやWebアプリケーションなどの設計・開発業務に従事する。その後、文章を書く仕事に興味を持ち、ライターに転身。ITやサイエンス、ビジネスといった分野の記事を執筆している。