競うと同時に情報共有できるのが多レーベル体制の強み
──邦楽だけでも現在6つのレーベルがありますが、カラーの異なるレーベルを率いていく難しさはありますか。
「メリットのほうが大きいですね。同業他社ではなく、社内で競争し、切磋琢磨できるというのは、ユニバーサル ミュージックの強さだと感じます。各レーベルのトップ会議は、業績の伸びないレーベルにとって、スーパーヒットを連発するレーベルの隣に座ることに、肩身の狭さや悔しさがあるかもしれません。でも情報を共有することでそこに多くの学びもあるんです。なぜこのアーティストがうまくいったのか、なぜ伸び悩んだのか、刻々と変わる効果的なマーケティングについてなど、様々な情報を共有できるので、レーベル全体が、年々ブラッシュアップされていく手ごたえを感じます」
──順風満帆な10年だと感じましたが、社長就任後に、挫折などはありましたか。
「今パッと頭に浮かんだのが、宇多田ヒカルさんと米津玄師さんの他社への移籍です。これはショックでした。誤解をしないでいただきたいのは、アーティストをリスペクトする気持ちに何ら変わりはありませんし、本心からさらなる飛躍を期待しています。どうしてアーティストや周りの方を満足させられなかったんだろうと、当社がアーティストに選ばれるために足りなかったと再考する大きなきっかけとなりました」
日本のアーティストが世界の頂点に立つ日に向け全力伴走
──これからの10年に向け、新たな目標を教えてください。
「最近は事あるごとに〝ビー・アヘッド、ビー・クリエイティブ、ビー・ア・チェンジメーカー〟(先んじて考え、先んじて行動し、創造していく変革者となれ)と言っていて、社訓同様に社内では有名なワードになっています。私は着任した10年前から、日本のアーティストを世界でNo.1にしたいという夢があります。ここ数年でかなり前進していると思います。Ado、藤井風、久石譲をはじめ、国籍や言語の壁を越えていけるアーティストがたくさん出てきて、もう夢でも目標でもなく、プランの段階までこぎ着けました。今年実施したAdo初のワールドツアーの盛り上がりを見ても、国を超えてヒットを出す瞬間が、すぐそこまで来ています。今後もしっかりアーティストと寄り添いながらバックアップしていきます」
──竹下通りにオープンしたグループ初のコンセプトストア『UNIVERSAL MUSIC STORE HARAJUKU』。アメリカのキャピトル・スタジオや英国のアビーロードスタジオと同じ機材を揃え、一元的につながりながら、オンタイムで楽曲を聴き意見交換などのできるレコーディングスタジオも社内に新設されました。この先も攻めの姿勢は変わりませんね。
「ショップ、スタジオともに、アーティストがさらに輝くために作りました。ユニバーサル ミュージックの一番の強みは世界中に拠点があることです。この強みを最大限に生かして、日本から世界トップクラスのアーティストを生み出せればと思います」
──週末も所属アーティストのライブをはしごすると伺いました。多忙な日々の中でどのようにリフレッシュされていますか。
「責任のある立場にいる人は、常に未来に対する決断を下さなければならず、いつも正解を探して悩んでいると思います。私は体を動かすと心身がリセットされるので、ゴルフ、サーフィン、ジョギングをすることが多いですね。無心になっているのに、ふとした弾みでアイデアや課題解決策が浮かぶこともあります。あと、朝だけが自分の成長や思考の栄養補給に使える時間ですから、4時、5時に起床して読書をしていますね。偉人伝が好きですが、哲学書なども読みます。その多くに〝人は正しいやり方で仕事をしなければ長続きしない〟と書いてあります。これからも邪心を捨て、正攻法で結果を出していきたいですね」
トップアーティストを生み出し続ける
Ado
2020年『うっせぇわ』でメジャーデビュー。シングル『新時代』は世界的ヒットに。2024年2月から世界ツアー「Wish」を敢行。4月には初の武道館公演を映像化したAdo LIVE Blu-ray & DVD『マーズ』が発売された。
藤井 風
2020年にリリースした1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』収録「死ぬのがいいわ」がタイやアジア各国でヒット。今年1月、Spotifyで全世界5億回再生を突破。2024年5月には初のアメリカツアーが決定した。
ずっと真夜中でいいのに。
作詞作曲ボーカルのACAねを中心とした音楽ユニット。3rdアルバム『沈香学』がBillboard JAPANダウンロード・アルバム・チャートで首位を獲得した。
「Be ahead, Be creative, Be a changemaker」
この精神で変化を起こす──
仕事をするうえで大切にしている言葉
直筆の文字に思いがにじむ。「アーティストとの出会いは一期一会。一瞬からずっと仕事が続くこともあります。一瞬を大切にしたいです」
取材・文/安藤政弘 撮影/タナカヨシトモ