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「アーティストと世界を目指す。そのために必要なのは社員ひとりひとりの輝き」ユニバーサル ミュージック藤倉 尚CEOインタビュー

2024.06.28

変化の激しい音楽業界でヒットを連発し、成長を続けるユニバーサル ミュージック。同社を率いる藤倉尚(なおし)さんは、46歳で社長に抜擢されて以来、10年連続で最高業績を達成し、売り上げを2.6倍に成長させた。現場出身のリーダーが挑んだ変革とは──。

藤倉 尚氏ユニバーサル ミュージック
社長兼最高経営責任者(CEO)
藤倉 尚
1967年生まれ。92年にポリドール(現ユニバーサル ミュージック)入社。2008年に執行役員、12年に副社長兼執行役員就任、邦楽事業を統括。2014年1月より現職。各国の音楽ビジネスの成功を牽引するリーダーを称える「ビルボード インターナショナル パワー プレイヤーズ」に4度選出(2019年、2021年から3年連続)。

成長を続ける原動力は人との出会い

──世界60以上の国と地域に拠点を持つユニバーサル ミュージック グループ。藤倉さんは2014年、46歳で日本法人であるユニバーサル ミュージック合同会社のトップに就任されました。以前から抜擢の予感はあったのでしょうか。

「全くありません(笑)。来日したグローバルのCOOから突然打診されました。『あなた以外に任せられる人物はいない!』といった情熱的なものではなくて、『準備をしていないなら、別の人に当たる』とも言われ、社外から入ってくる人が上に立つくらいなら、自分でやろうと決断しました。当時は邦楽部門のトップという立場でしたから、『邦楽の強化』を目的とした人事だったと考えています」

──社長に就任して最初に実施されたことは何だったのでしょう。

「まず社訓を作りました。『人を愛し、音楽を愛し、感動を届ける』と掲げています。ユニバーサル ミュージックは、ポリドール、キティ、マーキュリー、トーラス、ユニバーサル ビクター、EMIなどとの合併を繰り返して現在の形になりました。様々なDNAを持った才能が集まっていますから、目指す方向だけは共有しようと、会社として初めて作ったものです。当初は『音楽を愛し、人を愛し、感動を届ける』でしたが、人がすべてという私の体験的学びから、数年前に〝人を愛し〟を一番先にしました」

──社長就任以来、業績が右肩上がりに伸び続け、10年連続増収増益を達成しました。ヒットを生むコツやスキルはありますか。

「残念ながら方程式はないですね(笑)。もちろんヒットのデータ分析は行なっていますが、データだけで、人々を感動させるアーティストや楽曲を生み出し続けることは不可能です。この10年を振り返ると、何より人との出会いが、会社を良い環境に導いてくれました。大切なのは〝人〟だと実感しています。数々のヒットを生んだすばらしいアーティストはもちろん、社員の輝きも大事です。社員が輝いていなければ、アーティストは一緒に仕事するパートナーとして選んでくれませんから。アーティストを発掘して契約を結び、伴走してくれた社員のがんばりは大きいですね。良い出会いに恵まれなければ、10年連続増収は達成できなかったと思います」

現場のマインド改革により成長を続ける

デジタルとフィジカル(CDなどの物販)の両軸経営を推進。契約社員の正社員化を実現するなど、現場のマインドも変革し就任10年で売上高は2.6倍に伸長した。

現場のマインド改革により成長を続ける※日本レコード協会のデータによると、日本の音楽ソフト・配信市場の総合計は2014~2021年で1.04倍(2021年は2831億円)とほぼ横ばい

売り上げ拡大に結びついた〝正社員化〟

──2018年には契約社員330人の正社員化が大きなニュースとなりました。以降、売り上げも大きく伸びていますが、これにはどんな期待があったのでしょうか。

「それまで全社員の7割が1年契約の社員でした。1年で成果が出なければ契約は打ち切られます。この雇用形態では、翌年も契約を更新してもらうために、社員がアーティストファーストではなく、自分本位になる可能性があります。例えば、その年度の成績が振るわない社員が、少しでも売り上げを上げようと、担当アーティストのアルバムを機が熟していないのにリリースしたり、ヒットを出した人も、来年度の自分の成績に売り上げを持ち越そうと、リリースを先延ばししたり……。私も1年契約の社員でしたから、理解できる面もありますが、正社員化でこれらが変わりました」 

──アーティストにとってもより良い環境になったわけですね。

「そうですね。正社員化の理由としてもうひとつ、ストリーミングの台頭でビジネスが様変わりしたことも挙げられます。CDの販売は、多くの作品で発売日から1~2週間でおおよその販売予測が可能でしたが、ストリーミングではクチコミやSNSを通じ、楽曲の良さが徐々に広がり、リリースから半年後や1年後にチャートのトップを獲得することもあります。そんな時代に、短期間で結果を求め続けるというスタイルは合わないんです。一方、正社員化によって緊張感が緩まないよう、抜擢や降格制度の導入を含めて人事評価制度を見直しました。適度な刺激や緊張感は大事で、社員のモチベーションアップにつながっていると感じています」

──雇用文化の違うアメリカ本社に、日本の雇用形態を認めてもらった手腕もすごいですね。

「1年かけて説明し続けました。信頼を築き、業績を残したからこそ承認されたと思いますね。2014年、社長として初めてグローバルな会議に出席した時は、私の座席は末席でした。英語も得意ではなかったので名前も覚えてもらえず、全員ではありませんが、『Hey!』と呼ぶ方もいらして……。その時は『せめて名前で呼んでもらいたいな。人間なんだから』と思いました(苦笑)。正社員化に当たり〝10年後に売り上げを倍増させる〟と大見えを切った手前、それ以上の結果を出せてホッとしています」

──一部では〝オワコン〟とも言われるCD、DVDなどフィジカルの売り上げも好調ですね。

「パッケージ文化の強い日本では、手に触れることのできるものでアーティストを感じたいという文化があります。数年前から言われるようになった〝ファンダム〟と呼ばれる熱量の高いファンの存在、推し活の影響も大きいと感じます」

抜擢、降格など人事に緊張感を持たせる

抜擢、降格など人事に緊張感を持たせる年度の初めに行なわれる全社集会で、1年間で活躍したチームや社員を表彰する藤倉社長。

いいアーティスト、いい社員。成長のためには〝人〟がすべて

藤倉 尚氏

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