上を見て悔しがるのか下を見て満足するのか
働く男性にも適用されそうな「銀メダリスト効果」だが、もちろんトップアスリートであれば金メダルを目指すのはある意味で当然であり、銀メダルでは悔しい思いをすることになるだろう。
普通に考えれば銅メダルであればさらに残念であるように思えるが、なぜ銀メダリストが最も悔しい思いをしているのか。
それを説明する際に引き合いに出されるのが「反事実的思考(counterfactual thinking)」である。反事実的思考とはすでに起こった出来事に対して、事実とは反対の可能性を考えてしまうバイアスである。
銀メダリストにとっての反事実的思考は多くの場合、自分が優勝したシナリオであるだろう。しかしそうはできなかったという事実が銀メダルによって突きつけられ、後悔を味わうのだ。
一方で銅メダリストの多くが抱く反事実的思考はその逆で、自分がメダルを獲れなかったシナリオである。とすれば銅メダルを手にした事実はなかなか上出来なことになる。つまり銀メダリストは上を見て悔しがり、銅メダリストは下を見て満足しているのである。
オリンピックやワールドカップなどのビッグイベントではファンの期待も高まることから「銀メダリスト効果」もより強まると思われ、メンタルへの負荷もひときわ高まりそうだ。
したがって周囲にも当人にも期待値を上げ過ぎないことが求められるのだろう。そしてあまり上を見ない〝銅メダル志向〟を心がけると生き方がいろいろと楽になるのかもしれない。
高齢者も働くのが当たり前の時代を迎えている今日、働き方のマインドセットの見直しが求められていそうだ。ますます長くなる現役時代の中、キャリアは積み重ねられる一方ではなく、どこかで〝一兵卒〟に戻ることも考慮すべきなのだろう。
それは決してキャリアを諦めることではなく、上昇志向をいい意味で捨て去ることで、〝思いがけない銅メダル〟をゲットする用意が整えられるのかもしれない。
※研究論文
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167268122004024
※参考記事
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-13417365/Men-medium-status-jobs-satisfied-lives.html
文/仲田しんじ