ずっと気になっていたことがある。
『タリーズコーヒーを病院でよく見かけるのは何故なのか?』…ということ。
数年前、総合病院でタリーズに出会って以来、他の病院でも度々見かけ、ずっと疑問に思っていた。
現在では全国の病院内に88店舗を展開
あくまで個人的なイメージだが、病院にあるお店と言えば、コンビニ風の名もなき売店や区役所にあるような食堂でしかなかった。良く言えば穏やかな佇まいであり、悪く言えば殺風景。そんな古いイメージを覆してくれたのがタリーズだった。
気になって調べてみると、病院にカフェなどなかった2004年、タリーズは東大病院に初出店。その成功を受けて、現在では全国の病院内に88店舗を展開している。
このタリーズの出店を皮切りに他のカフェチェーンやコンビニなども併設されるようになってきたという。
「病院内カフェ」は今や珍しくない風景だが、通常店舗との違いは?そもそもなぜ病院への出店に至ったのか?
今回、タリーズの出店戦略を始め、コーヒー業界でも話題になったコロナ以降のV字回復秘話について、タリーズコーヒー広報の須﨑さんに話を聞いた。
――病院への出店理由、狙いを教えてください
「2004年当時、病院内に喫茶店は多く併設されていたのですが、カフェはほとんどありませんでした。しかし、患者さんや病院内で働く方々、近隣住民の方々など、病院内でのカフェのニーズがあり、弊社の経営理念のひとつである『地域社会に根ざしたコミュニティーカフェとなる』を体現できると考え、出店した経緯がございます」
「また、ホスピタリティを追求した店舗形態の位置づけとして患者さんやお見舞いの方々、職員の皆様がホッと一息つけるような憩い場所を提供したいという思いで、出店展開をしています」
そしてもう一つ、当時の創業者が病院内の売店や食堂を見て、『外出を制限された患者のために気持ちのやわらぐ場所を提供したかった』との思いもあったという。
それはまさに、どこか味気なく、心も塞ぎがちになりそうな場所に現れたオアシス。患者にとっては慣れ親しんだ日常の風景が病院内にあることで、平穏な生活との繋がりや安心感を感じるのかもしれない。
ちなみに2004年の東大病院出店のきっかけは病院側からカフェの公募があり、タリーズが応募、採用された。職員向けの福利厚生や近隣住民の方も使いやすい雰囲気づくりを目指したいという病院側の思いに応えた形だ。
――病院店と通常店舗との違いは?
「基本的には通常の日常生活と同じようなくつろぎの空間としてご利用いただきたく、街中にある店舗と同様の設計を心掛けています」
「こだわりとしては、車いすでのご利用に合わせてレジカウンターにくぼみをつける(高さも少し低めに設計)、客席の通路幅を広めにする、メニューボードの文字を少し大きくするなどの工夫を行っています。店内に病院の呼び出しモニターを付けている店舗もございます」
他にもこんな工夫が施されている。
「店内設計だけでなく、エプロンの色も工夫しています。病院では黒や赤の色は縁起がよくないとされていることもあり、通常タリーズでは黒エプロンを着用していますが、病院店用の茶色デザインを導入しています」
「また、基本メニューは他の店舗と同じですが、カフェインレスのエスプレッソを使ったドリンクを導入したきっかけとなったのは病院店でした」
さらに、病院内イベントも積極的に行われている。特に親子、子供向けイベントが多く、小児病棟では親子でお絵かきタンブラーを作るイベントを開催。タリーズのドリンクを飲みながら「マイタンブラー」を作る企画は好評を得た。
タリーズによる病院内出店は業界に大きな影響を与えた。東大病院出店と同じ年には、別の病院にドトールコーヒーが出店。また、ナチュラルローソンを始めコンビニの病院内店舗も増えていった。
かつてない場所への出店は苦労も大きかったというが、「患者さんやお見舞いに来られる方々はもちろん、職員の皆様から温かいお言葉を頂戴することが多く、非常に感謝しております」と広報の須﨑さんは話してくれた。