目次
「ひいては」を、一文の始めに使ったり、「または」と混同して使ったりしていないだろうか。また、「しいては」という言葉と混同し、誤認しているケースも見られる。
そこで本記事では、「ひいては」の意味や使い方を解説する。似た言葉を選ばないための注意点や類義語についても補足していく。
「ひいては」の言葉の意味
ひいては」とは、事柄をより強調したい時に使う言葉だ。辞書では「ひいて」について以下のように解釈している。
[副]《動詞「ひ(引)く」の連用形に接続助詞「て」の付いた「ひきて」の音変化》前文を受けて接続詞的に用いて、事柄の範囲がさらに広がることを表す。ある事だけにとどまらず、さらに進んで。それが原因となって、その結果。 「旧制を捨てて此制を採用し、—今日の世界に到ったものである」〈啄木・葬列〉 引用:デジタル大辞泉(小学館) |
「前文を受け」とあるので、「ひいては」は前文と後文の間に接続詞的に含めて使う。
また、「さらに広がる」にあるように、後半に強調部分を持ってくることを意識したい。なお、漢字では「延(ひ)いて」となるが、当て字であるためにひらがなで表現しよう。
「ひいては」の使い方とは?
「ひいては」の使い方は、「さらに広がる」「一つに留まらず別の問題が出る」「一つの要因を元に、その結果起きること」などで表現できる。以下に3種類の例文を紹介する。
■事柄の範囲が広がり影響を及ぼした際の例文
事柄の範囲が広がり、影響を及ぼす場合の「ひいては」の例文は以下の通り。
・今回の失態は部長の辞職だけでは収拾がつかず、ひいては役員の引責辞任にも及ぶだろう。
失態(事柄)が、範囲(部長)から役員まで影響(役員の引責辞任)に及ぶ懸念を示している。このようにネガティブな事柄にマッチするが、強調することでさらに深刻な影響を及ぼしたことも表現できる。
■1つの原因にとどまらず別の問題が出た際の例文
1つの原因から別のトラブルが発生した際の「ひいては」の例文は以下の通り。
・得意先で破損を起こした件は、新人を担当させた中間管理職のミスですが、ひいては会社の教育体制自体に問題があったと外部顧問は指摘しています。
中間管理職が槍玉に上がったが、根本的要因が会社の体制にあることを指摘されたケースだ。こちらも後文で強調しているため、事の重大性が伝わるだろう。
■事柄を崩さずに関連した結果を示す例文
事柄を維持したまま、関連する結果を示す「ひいては」の例文は以下の通り。
・ノー残業デーを維持した結果、社員の生産性が向上し、ひいては弊社の過去最大の売上高に繋がった。
「ひいては」は上の例文のように、ポジティブな使い方もできる。例えば、「生産性」のほかに「皆勤賞の増加」といった要素を加えることで「売上高アップ」に繋げることもできる。
「ひいては」を使う際の注意点
「ひいては」を使う際は、似た言葉と誤解されることがある。以下では、間違えやすい「しいては」と「せいては」について紹介する。
■「しいては」と誤用しない
非常に間違えやすいのが、「ひいては」と「しいては」の混同だ。「しいては」という言葉は、実は存在しない。
誤用が見られるのは、「しいて」という言葉があるためだ。「しいて」の意味は「困難や反対などを押し切って物事を行うさま」を指す。
また、「敢えて」の意味合いも持っており、「強いて言えば」といった形で使われる。
したがって、「強いて言えば」を使う場合は「しいて」を選び、「しいては」という言葉は存在しないため、誤りだと覚えておこう。
■「せいては」とも混同しない
「しいては」には、「せいては」という文字の似た単語がある。しかし、「せいては」の言葉は存在するものの、意味は全く共通していない。
まず、「急く」という動詞があり、意味は「焦る」「慌てる」などだ。そして「急く」の連用形である「急き」に接続助詞の「て」が付き、「急いて」となる。
「急いては事を仕損じる」ということわざがあり、「焦った行動はかえって失敗を招く」という意味なので、「ひいては」と全く異なることがわかるだろう。