減少幅がPlayStation 4を上回る見込み
2022年からは日米の金利差を背景として、急速な円安が進みました。ソニーのように海外、特にアメリカやヨーロッパの販売比率が高い会社は恩恵を受けることができます。
しかし、円安の進行がストップすると押し上げ効果が働きません。正にそれが今の状況です。減収予想を出しているのは、為替が大きく影響しているでしょう。
2020年11月12日に発売したPlayStation 5は堅調に売れているものの、PlayStation 4と比較すると見劣りがするのも事実。ソニーは2024年3月期のPlayStation 5の販売見通しを2500万台としていましたが、2100万台に引き下げました。着地は見通しを更に下回る2080万台。
2025年3月期は1800万台で、13.5%減少する予想を出しています。
※ビジネス経緯より筆者作成
PlayStationは発売から4年経過すると販売台数が縮小する傾向があります。減少に転じたPlayStation 4の減少幅は5.0%。PlayStation 5はそれを上回るスピードで落ち込む見込みなのです。
ただし、これはソニーが意図的に行っているのも事実。ソニーは2022年3月に人気シリーズの最新作である「グランツーリスモ 7」を発売しています。このゲームはPlayStation 4と5の両方に対応しています。
KADOKAWAの子会社でフロム・ソフトウェアが開発した2000万本突破の大ヒット作「ELDEN RING」も両方の機種に対応。ソニーの関連会社だけでなく、サードパーティーと呼ばれる外部の開発会社の多くが、4と5に対応してソフト開発を行っているのです。
巨額買収したバンジーの増益効果はいかに
ソニーはPlayStation 4のユーザーが、未だに半分以上占めていることを明かしています。無理やりPlayStation 5への以降を促すのではなく、PlayStationというプラットフォーム全体のユーザーを注視し、最適な環境を整備することに力を注いでいるわけです。
そうなると、ソニーのビジネスモデルが大きく転換していることに気づきます。
これまではゲーム機を販売してソフトを送り込み、消費意欲が一巡するとまた新たなゲーム機を世に送り出すというモデルでした。
今後はソフトの比重が高まると予想できます。
その兆候はありました。アメリカのゲーム会社バンジーの買収です。「デスティニー」などの人気ゲームを持つ会社で、取得には5000億円を投じました。
ソニーのゲーム事業の業績推移を見ると、2023年3月期から利益率が急激に落ちています。2022年3月期の営業利益率は12.6%、2023年3月期は6.9%。2024年3月期は6.8%でした。
これは買収によって無形資産の償却負担が増えたため。しかも、バンジーは買収後の2024年3月期に至っても利益貢献をしていません。新作のリリースを温めている段階だからです。
バンジーは2023年5月に新作「Marathon」の動画を公開しました。ソニーはゲーム事業の第五次中計期間(2025年3月期から2027年3月期)において、過去最高益を更新すると発表しています。
PlayStation 5の勢いが落ちる中で最高益を達成するのは簡単ではありません。期待をかけているのはバンジーの新作でしょう。
ソニーのリストラ策が利益率向上であることは間違いないとはいえ、ハード脱却に向けたポジティブな事業構造の改革だと捉えると、筋の通ったものになります。
ゲームはPCやスマートフォンが主役になりつつあります。ゲーム機依存が高いことは、中長期的な経営上のリスクでもあります。ソニーの業績が停滞しているのは、次の飛躍に向けた準備期間であると見ることもできるのです。
取材・文/不破聡