問われる組織の在り方
その背景として、ゲーム開発や技術開発に対する投資意欲に欠けていることが開示資料から見えてきます。
まず、ゲームの開発は効率化や自動化が難しく、開発者の存在が最も重要です。モニター越しに繰り広げられる空想の世界は、大量の人員を投入して作られているのです。
スクウェアは2023年3月末時点で、グループ全体での従業員(正規雇用)が4712名います。この期のスクウェアの売上高は3432億円でした。従業員1人で7200万円の売上を作っている計算です。
現在、業績好調の会社にカプコンがあります。4期連続の2桁増収、9期連続で2桁営業増益を成し遂げています。モンスターハンター、バイオハザードといった人気シリーズを持っています。
この会社の2023年3月末時点での従業員数は3332名。売上高は1259億円で、1人当たりの売上高は3700万円。開発にかけている人員数がスクウェアと全く異なるのです。
なお、カプコンの2023年3月期の営業利益率は40.3%。スクウェアは12.9%で、カプコンの収益性が悪いわけではありません。むしろスクウェアを大幅に上回っています。
公式ホームページによると、スクウェアの平均勤続年数は7.2年。カプコンの有価証券報告書に記載されている平均勤続年数は11.0年。スクウェアの離職率が高い様子も見えてきます。
スクウェアは業務負担が軽い権利関係の収入が150~200億円程度あります。しかし、それを加味しても1人当たりの売上高は7000万円近くあります。1人当たりの売上高が大きいことと、営業利益率が低いこと、そして離職率が高いことが無関係であるとは考えづらいでしょう。
設備投資などの研究開発費にも違いがあります。2023年3月期のスクウェアのデジタルエンタテインメント事業の研究開発費は11億2600万円。2022年3月期は51億400万円でした。2023年3月期の売上高に対する研究開発費の割合は0.3%、2022年3月期は1.4%ほどしかありません。
一方、カプコンの2023年3月期の研究開発費は377億1900万円、2022年3月期は298億6200万円でした。2023年3月期の対売上比率は30.0%、2022年3月期は27.1%。スクウェアと比較できないレベルで開発費を投じています。
カプコンはアミューズメント機器などの開発も行っていますが、研究開発費の大部分はゲーム開発が占めています。
スクウェアは2025年3月期からの新中期経営計画において、PlayStation依存を脱してXboxや任天堂プラットフォームにもソフトの幅を広げると発表しました。
しかし、業績不振の主要因は、特定のプラットフォームに依存していたことではないように見えます。
組織の在り方そのものを見直すタイミングが訪れているのではないでしょうか。
取材・文/不破聡