部下と友達のように接することができる上司が「心理的安全性が高い上司」だと巷ではいわれることがあります。部下の求める「相談しやすい上司」という言葉をそのまま受け止めてしまうと、このような理解になってしまうのです。ところが、部下と友達のように接しているとマネジメント上の問題が生じることもあります。この記事では、部下と友達になってはいけない理由を識学的観点から解説します。
理想の上司像とは
人は過去に経験してきたことや、得た知識を基準に何が正しいかを自分の物差しで判断します。初めて部下を持つときには、過去に上司を経験したことがないため、見てきた経験や知識から理想の上司像を想像します。そして上司であることを経験していきます。
つまり、理想の上司像とはと聞かれると、自分の中での基準で判断するのです。
・では、部下だった時にどのような上司が理想だったでしょうか。
・部下がいる上司の立場になって理想の上司像は変化したでしょうか。
いずれにしても、その時の求められていることをベースに考えるでしょう。部下の立場であれば、自分が困った時に助けてくれる、また、自分が評価して欲しいことを見てくれて承認してくれる上司が理想の上司に感じることでしょう。つまり、常に自分のことを見てくれる上司かもしれません。
一方で、上司の立場になると上から求められることが業績に関わることが多くなります。結果を出すこと、育成をすることなどです。そのためには部下に対して結果を出してくれる部下が理想の部下かもしれません。とは言え、上司である立場で考えると、結果を出してもらうために役に立ってもらうためにどのようにすれば良いのかを考えて接するでしょう。
自分が部下だった時に、どのように接してもらえたら頑張れたか等です。困った時に助けてくれた出来事や自分のことを認めてくれた出来事があったとしたら、その行動が正しいとなります。困った時に助けることや認めてあげること、褒めたりしてモチベーションを上げることが自身の仕事だと考えると言うことです。
まとめると、理想の上司像は、自身のそれまでの経験や得てきた書籍やネット等の知識からできていることが多いということです。
部下だった時間が長く、これまでの話が当たり前だと思って読んでいる方には、常に部下のことを見て気をかけることが重要であることが大切であると考えているかもしれません。
部下が悩んでいたら相談にのったり、迷っていたらアドバイスをしてあげたりすることが重要であると考えます。また、会社の上層部から部下を守ることが上司としての責任と考えるかもしれません。
そのような上司が理想と考える人は、部下にとっては優しい上司で慕ってくれる部下もたくさんいることでしょう。そのため、ますます部下の立場で働きやすい環境をつくります。ですが、こうした「働きやすさ」ゆえに部下の成長速度を鈍化させるリスクがあることを忘れています。
優しい上司の下で働くということ
わかりやすく話を進めていくために、学校教育で考えていきます。自身が指導者の立場として、子供の学習を支援するケースを想定してみましょう。
その子は100点満点のテストで80点目標に勉強しています。結果は50点でした。
その子に対して、どのような話しをするでしょうか。「30点足りなかったけど、がんばって勉強していたのは見ていたよ」「前よりも10点も上がったよ」と子供を励ます方は多いのではないですか。
その言葉を聞くまでは悔しがっていた子供も、その言葉を聞くと「30点不足した事実」ではなく「がんばったことや前よりは点数があがったこと」に目が向き、次回からは「頑張った」という感触を評価してもらおうと考えるようになるのです。
子供の事例なので少し極端かもしれませんが、上司として、部下にこんな言葉をかけてしまっている方も多いのではないでしょうか。
もしかけていたなら、良かれと思ってフォローしていることが部下の成長を遅くさせているかもしれません。
次に、いつでも相談にのるよと普段から言っていて聞きに来たとします。相談にきてくれるつまり頼ってくれると思い嬉しいと感じることでしょう。そして一生懸命、自分ならこうすると教えます。教えてもらった子供は信じて勉強します。結果が出ない場合にどう思うでしょうか。結果はでなかったけど、言われたことは出来たので良かったと考えたり、教えてもらった方法が自分には合わない、もしくは間違っていて自分は悪くないと思ったりするかもしれません。
こちらも良かれと思って実施したことがマイナスになっていることが考えられます。
人は自分で決めなさいと言われると、失敗したときには自分の責任となるため、失敗することを恐れて他人に聞くという癖があります。
これは自分に自信がないからかもしれません。単に質問であれば指示が曖昧であったり、ルールが少なかったりと環境面かもしれません。
いずれにしても上司が曖昧にしているからです。その状況をつくっているのに、相談に来てくれると頼られていると考えるのは成長という観点ではよくありません。
優しい上司の下で働くと言うことは、上記のようなことが発生していると考えられます。
部下と友達のように接することの問題点とは
成長させるために、どう行動すべきかの前に、友達のように接すること、アットホームな職場の問題点を挙げておきます。決してアットホームな職場を否定しているわけではありません、リスクについて知っておくべきという観点からです。
フラットな関係というのは、人と人の関係です。それぞれのパーソナルな部分を理解してとなっていきます。仕事以外のプライベートに関しても接すると言うことです。昔は飲みにケーションなど、仕事以外の気遣いも大切でしたが、近年では6割以上の人が飲み会は必要ないと回答するなど、時代が変わってきました。(弊社調査結果より)
仕事とプライベートが完全に切り離されたといえるでしょう。
仕事以外のパーソナルな部分での繋がりができてしまうと、部下の采配にも影響します。厳しいことも言いにくかったりします。何より人により言い方を変えるなど、常に部下一人一人を確認し、気遣いをしていく必要も出てくることでしょう。その結果、上司として会社から求められる業績よりも下への気遣いに意識がいくことで自身の責任が希薄になります。
部下に対して「このままだと評価されないぞ、がんばれ」と言う言葉をかけている場合、注意が必要です。
部下が結果を出さなければ自身の評価が落ちます。他人事ではないのですが、他人事のような会話になっています。間に入る中間管理職は上と下をつなぐ役割だと間違った考えをしていたりします。
フラットが当たり前だと、部下の結果は部下の責任であり、自身の責任ではないと考えてしまったり、考えていなくても結果そのような行動になってたりする恐れがあることに注意が必要です。
これが、友達となってはいけない理由です。
成長させることができる上司とは
最後に成長させることが出来る上司とはどのような上司でしょうか。
子供の指導者の例で考えてみます。
80点目標で80点を取るのは子供です。つまり子供が勉強します。仮に30点足りないという結果が出なかったことを受け止めて、次に80点の目標で結果を出すために勉強するだけです。これを指導者が代わりにテストを受けることはできません。ただ子供に勉強してもらうしかないのです。
部下育成においても同様です。
つまり、結果は自分の責任であると認識させて、取り組ませるしかないです。
このために上司ができることは、この状態はOKであり、この状態はNGである、と正しく定義をする他ありません。つまり、現状あなたは〇なのか×なのかを明確にし、部下に不足を認識させるしかないのです。
つい友達感覚で△を出してしまえば、部下は変わりません。友達感覚の部下からあなたが奪っているのは、部下の時間だけでなく、成長機会だと認識しておく必要があるでしょう。
この記事はマネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」による寄稿記事です。