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SNSマーケティングと推し活の意外な親和性

2024.05.28

創刊から38年、常に最前線でビジネストレンドを追いかけてきたメディア『DIME』と国内電通グループ約150社で構成される「dentsu Japan」がタッグを組んで、次のトレンドを探求する『DIME Trend Lab』。

第2回では「企業のSNSマーケティングの未来像」をテーマに両者のクリエイターたちが、この課題のソリューションについて議論をする。

近年、企業SNSでは動画広告を使用したマーケティングが増えてきている。文字や画像だけでなく、映像を使った広告は消費者の印象に残り、より効果的だと考えられているからだ。最も身近な動画広告であるSNS用のショート動画だろう。

その一方でSNSのショート動画の作成には技術的な課題だけでなく金銭的コストや時間的コストなど多くの課題が付きまとう。このジレンマに企業はどのように向き合っていくのがいいのか。そして、この課題にソリューションはあるのだろうか――。

(中央右)武藤隆史さん
株式会社 電通 第1統合ソリューション局 マーケティングコンサルティング3部 GM シニア・マーケティング・ディレクター
広告、空間、アニメ、事業などのコンセプトメーキングや、自動車、タイヤ、テーマパーク、飲料、消費財、通信など国内外クライアントのブランド/コミュニケーション戦略立案、クリエーティブディレクションに従事。2012年から4年間、上海電通(中国)に赴任。「Dentsu Japanimation Studio」代表。「Dentsu China Xover Center」(Dentsu CXC)設立メンバー。

(中央左)田中秀幸さん
株式会社 電通 BXクリエーティブ・センター ビジネス・ディベロップメント部 アート・ディレクター
ブランディング、広告コミュニケーション、グラフィックデザイン・デジタルなど幅広いジャンルのアートディレクションを手掛ける。SPIKES ASIA、毎日新聞広告賞など、国内外の広告賞を多数受賞。

(右)北川廣野さん
株式会社 電通 データ・テクノロジーセンター 次世代テクノロジー開発部
データ分析、数理モデルを用いたソリューション開発、AIを活用した研修や事業推進に従事。社会人博士として大学のコンピュータサイエンスの学科に所属しながらAIの研究を行っている。

(左)井上一樹
@DIME編集部で編集、書籍PR、SNS運用、動画制作など幅広い業務を担当。特に最近は書籍のPR動画制作に力を入れ、電車で流れる動画広告も制作している。また、クリエイター仲間とは映画製作にも挑戦し、国際的な自動車の映画祭『International auto film festa』では最終候補作品に選ばれた。Xのアカウントでは、クリエイター間のつながりを大切にしている。https://twitter.com/inoue0727199

SNSマーケティングが抱えるジレンマ

井上:僕も普段から@DIMEでSNSの運用やSNS用の動画制作を担当している社内クリエイターの一人なのですが、僕と同じように多くの企業の担当者はSNSの活用に苦労をしていると思いますね。

というのも、多くの企業がSNS担当に人材を割いていないのが現状です。担当者がたった一人でSNSを運用しているというケースも珍しくありません。SNSの投稿ひとつひとつにお金をかけることは難しい中で、ブランド訴求をしていかないといけないじゃないですか。

企業のブランドSNSを運用する井上は投稿ひとつひとつにまでこだわる大切さを誰よりも知っている

武藤:そうなんですよね。動画広告では実写だけでなくアニメーションを使ったマーケティングも増えてきています。電通では企業・団体のブランディングに資するオリジナルアニメを作る電通ジャパニメーションスタジオという電通グループ横断組織があります。。これまで2018年の設立から20本以上のオリジナルアニメ動画を制作してきました。

井上:確かに、最近はオリジナルアニメを使ったPRは多いですよね。とても効果的だと思います

武藤:マーケティングにおけるコンテンツには二つの軸があると考えています。ひとつがオリジナルアニメのようなコンテンツ「強コンテンツ」です。消費者に大きなインパクトを与えられるのでブランドムービーなどには適しているのですが、クオリティを追求するためにどうしても作ることに時間がかかってしまいます。

一方で、普段のSNSの投稿などを「頻コンテンツ」と定義していています。文字をはじめ、写真や動画などSNSを使って高頻度で商品やサービスを伝える手法です。エンゲージを高めるために、いまではどの企業にとっても必須になってきています。

井上:僕は『DIME』の最新号の告知動画を毎月、Xに投稿しているのですが、これは「頻コンテンツ」というわけですね。

武藤:まさに。「強コンテンツ」「頻コンテンツ」の両輪で進めていく中で、「頻コンテンツ」のエンゲージをさらに高めるためにマンガやアニメを使って訴求をしたいという企業も多くなってきています。

しかし、クオリティを追求してしまうと「頻コンテンツ」の強みでもある時間やコスト面のメリットが失われてしまうことでもあります。これは多くのSNSマーケティング担当者が抱えている問題です。

井上:なるほど。それを解決するのが『MAFA』なんですね。

武藤さんは上海への赴任経験を経て電通ジャパニメーションスタジオを設立。アニメやマンガを使ったマーケティングの効果について誰よりも知っている

マーケティングツール『MAFA』だと15秒のアニメが1時間で製作できる!?

井上:先月、電通さんから発表された『MAFA』はクリエイター目線ではかなり衝撃的なツールでした。武藤さんの言葉を借りると「頻コンテンツ」のこれまでの常識が変わりますよね?

『MAFA®(Manga Anime For All®)』とは
企業がSNSなどのマーケティング活動で使用するマンガ・アニメ風の動画を簡単に作成できるアプリケーション。Getty Imagesの日本法人、ゲッティイメージズ ジャパンが提供する「生成AI by Getty Images」を搭載した国内初のマーケティングツールであり、動画の背景を生成AIで作成できるようになります。

武藤:ありがとうございます。おっしゃる通り『MAFA』は、「頻コンテンツ」をもっと手軽に、そしてクオリティの追及を目指したツールになります。

ケースバイケースですが、実写の動画/画像よりもアニメ/マンガを使った広告の方が興味を持たれるというデータもあります。『MAFA』はマンガ・アニメ風の動画をもっと多くのマーケティング活動で気軽に活用できるツールとなります。

北川:『MAFA』ではキャラクターモデルがあれば、15秒程度のマンガ・アニメ風動画をたった1時間で作ることができます。いままで難しかった年間100本等、動画の量産も可能となります。

武藤:高品質オリジナルアニメと比べると、クオリティは当然そのレベルに達することはできませんが、頻度コンテンツとしてのクオリティは担保したライトなマンガ・アニメ風動画を、比較的安価に高頻度で制作することができます。需要としては、SNSに投稿するコンテンツやバナー広告などが多いと考えています。電通ジャパニメーションスタジオとしては、高品質オリジナルアニメを強コンテンツ用として、『MAFA』を頻コンテンツとして、どちらも大切にしながら、クライアント様のニーズに合わせて、ご提供して行ければと考えております。

MAFAのテクノロジーを担当した北川さん。「動画制作経験がない人でも、簡単に使えるよう工夫した」と語る

井上:いま、一つの会社にSNSの中の人が「一人」いる、というか「一人」しかいない。彼らは会社から何かをしろと言われていて、試行錯誤をするもなかなか結果が付いてこないんです。

僕も10年以上、SNSを一人で運用していて、文字・画像。動画、いろいろな形でブランドイメージを訴求してきましたが、やっぱり難しい。

『MAFA』はクリエイティブな会社だけでなく、むしろ普通の小さな会社にこそ可能性があると思うのですが、どうでしょう。例えば町のお肉屋さんが『MAFA』を使いたいとなった場合でも活用できるのでしょうか?

武藤:おっしゃって頂いたとおり、幅広い方々にサービス提供をしてゆけるよう、さらなる、研究、開発を進めていこうと思っております。自由にマンガ、アニメ風動画を作ることができると言っても、いきなりゼロから作るのは難しいと思いますので、まずは基本フォーマットも整備して行きたいと考えております。

田中:例えば、後ろに画像を置いて、キャラクターのフキダシに文字を入れると完成するようなテンプレートですね。こういったパターンを一つ5秒×3パターンをつなぎ合わせるだけでも15秒の動画が完成できます。

キャラクターの活用でSNSマーケティングが「推し活」と交わる

井上:SNSは企業でも「中の人」に人格やキャラクターを持たせられている企業がバズりやすい。ただ発信するだけでなく、キャラクターに落とし込むとユーザーもすごく親近感が持てるんです。

例えば、小学館でも担当者がつぶやくのと『江戸川コナン』がつぶやくのでは反響が全然違います。

『MAFA』を活用することで、企業がキャラクターを持つことができ発信することができれば、SNS運用においてはそれだけで大成功ですよ。

武藤:これまでもさまざまな企業の「強コンテンツ」のお手伝いをしてきましたが、単発のキャンペーンで終わってしまうケースも多いんです。やっぱり次につなげるという点では、井上さんの言うようにキャラクターを活用し愛着を持ってもらうことも大切です。

MAFAのアートディレクターを担当した田中さん。「MAFAのマスコットキャラクターもサービスとの親和性を考えデザインしました。今後、MAFAではそれぞれの企業さんがイメージする自社のキャラクターを作っていくお手伝いをすることを考えています。例えば、『DIME君』なんかも大歓迎ですよ」

井上:カギとなるのは、やっぱり「頻度」ですか。

武藤:はい。キャラクターが毎日、企業の商品・サービス情報だけでなくとも、何か情報を発信したりしゃべってくれるだけでもファン作りには重要なんじゃないかなと思っています。

井上:そうですね。文字だけで伝えるよりもぐっとコミュニケーションを感じられますもんね。あと背景に生成AIを使っている一方で、教師データがクリアになっている点も、クリエイターとしては非常に嬉しいんですよ。

北川:そうですね。そこは私たちも非常に気を付けているポイントです。

井上:今後の展開として、どのように考えているんですか?

武藤:まずは電通ジャパニメーションスタジオの関係者がMAFAツールを使ってコンテンツを制作しクライアント様にサービス提供を実施。その後は、BtoBサービスとして、クライアント様が自分たちで使っていただけるツールの開発を目指して行きたいと考えています。、

田中:現在、『MAFA』でモデリングしたキャラクターは動きをつけたり、表情を変えるなどにとどまっていますが、今後は自由にカスタマイズを行なえるようにしたり、自社のIPとして活用する、場合によってはVTuberとしてデビューさせるなど、企業にとっても独自で活用できる方法も考えています。

井上:いいですね。こういったツールが普及すれば既存のSNSマーケティングはより身近で、もっと面白くなる。何よりSNS担当者の負担も減る。

企業としても、キャラクターに愛着を持ってもらってファンができれば推し活のようなかたちで消費者との関係を構築できる。

「SNSマーケティング」が「推し活」と融合するという未来のカタチに気付くことができました。今日は本当にありがとうございました。

武藤:こちらこそありがとうございました。

話は尽きず、クリエイター談議に花を咲かせる4人

取材・文/峯亮佑 撮影/木村圭司

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