テクノロジー業界専門調査企業Coutnerpoint Research HK(以下カウンターポイント社)から、2023年のインド乗用車市場における出荷量調査が発表されたので、本稿ではその概要をお伝えする。
インド乗⽤⾞市場におけるEV急成⻑の理由と背景について
2023 年度インド乗⽤⾞(PV)市場における出荷量は、前年⽐10%成⻑だったが、電気⾃動⾞(EV※)に限ればほぼ倍増しており、PV販売全体の2%を占めるに⾄った。
※本稿ではEVとはバッテリー駆動EV(BEV)を指し、プラグインハイブリッド(PHEV)は含まれない。
インド乗⽤⾞市場におけるEVの急成⻑の背景には複数の要因がある。都市部の消費者の関⼼が⾼まっていること、政府が普及を推進していること、インフラが整備されてきたこと、気候変動への懸念などだ。
充実したラインアップとUberとの戦略的提携により、Tata Motorsはインドにおける2023年EV市場の2/3を超えるシェアを確保している。それでもシェアの⼀部はMahindra&MahindraとBYDに奪われている。
そのMahindra&Mahindraは、乗⽤EVのラインナップがたった1⾞種にも関わらず、2476%の成⻑を記録しており、2023年の最速で成⻑するメーカーとなった。これに次ぐのがBYDとMG Motorになる。
Mahindraの成⻑は、2023年に発売した完全電動SUVのXUV400を積極的にマーケティングしたことによると考えられる。
BYDもインドではe6 MPVとAtto 3 SUVの2⾞種しかEVを販売していないが、2023年は1500%を超える成⻑となった。⾼級⾞カテゴリの⾞種を展開しているにも関わらず、BYDはインドにおけるEVメーカートップ5社に名を連ね、成⻑するEV市場の中で成功していることを⽰したのだ。
そんなBYDが最近発売したSealによって、同社の市場でのプレゼンスと競争⼒がさらに⾼まるとみられ、インドのEV市場に⼤きな動きを起こす可能性がある。
<図1: インド乗⽤⾞市場におけるEVブランド市場シェア>
出典:カウンターポイント社India Passenger Vehicle Model Sales Tracker
今後の⾒通し〜EVがPV販売の約1/3を占める可能性
カウンターポイント社が提供するIndia Passenger Vehicle Model Sales Tracker によると、インド乗⽤⾞市場におけるEV販売は2024年に66%伸び、PV販売全体の4%を占めると予想される。
さらに2030年には、EVはインドにおけるPV販売全体のほぼ1/3を占めるまでに成⻑する可能性がある。
Maruti SuzukiのEV市場への参⼊により、Tataの独占状態に変化が起きる可能性も考えられる。さらにVinFastによるインドのTamil Nadu州での⼯場建設にみられるように、国内でのEV製造への関⼼や投資が⾼まっている。
これは、単に競争が激しくなることを意味するのみならず、⾃動⾞産業がサステナブルでエコフレンドリーな技術に進化していくことの表れと考えられる。
サプライチェーンの充実に関して、カウンターポイント社アソシエイトディレクターLiz Lee⽒は、次のように述べている。
「インドのEV市場は、急成⻑への変曲点にある。Ola、Reliance New Energy、ACC Energy Storageなどの主要プレイヤーが台頭してEV⽤電池の製造能⼒が⾼まったことに加え、政府のMake in India政策(2014年から政府が進める、インド国内での製造を促進する⼀連の政策)の後押しもあり、製造コストが下がりEV販売が加速した。
政府による政策、例えば、PLI(Product Linked Incentive/インド国内で製造された商品について、売上増加分の数%のインセンティブが政府から⽀給される)のスキームをAdvanced ChemistryCells(従来のリチウムイオン電池より⾼い性能を⽬指す様々な技術の総称。全固体電池もそのひとつ。)に適⽤したり、35,000⽶ドルを超える輸⼊EV⾞への関税を15%に引き下げたりしたことが、ゲームチェンジャーになっている。
これはTeslaに⾨⼾を開くだけではない。インドがEVや部品メーカーのエコシステムのために巨額投資を受け⼊れる準備が整ったことの表れでもある。つまり、インドが世界のEV市場における主要プレイヤーになるべく動き出したことの明確なサインと⾔えるだろう」
<図2: インド乗⽤⾞市場におけるEV市場シェア⽐較・2023年と2030年予測>
出典:カウンターポイント社India Passenger Vehicle Model Sales Tracker
インド乗⽤⾞市場における今後の⾒通しに関して、カウンターポイント社調査担当バイスプレジデントNeilShah⽒は、次のようにコメントしている。
「EVのエコシステムはまだ黎明期だ。インフラ整備が進み消費者の関⼼も⾼まれば、Teslaや例えばXiaomiのような急成⻑している中国メーカーが参⼊し、世界第4位のPV市場であるインドにおいてもイノベーションや競争が刺激されるだろう。
それだけではない。既存の⾃動⾞産業のエコシステムは成熟しているが、スマートカーを⽣産するためのエコシステムにとってもインドは魅⼒的だ。このエコシステムには、電池も、インフォテイメントも、ADAS/ADS向けセンサーの⼀式も含まれる。
インド国内での消費だけでなく、技術のR&Dやインドからの製品輸出という⾯でも、広範なバリューチェーン上の企業がインド市場を重視するだろう。
例えば、最先端の⾃動⾞⽤チップを製造するQualcommやMediaTek、安全関連のソフトを提供するBlackBerry、MIHコンソーシアム(⾞台などのハードから制御ソフトに⾄るまで、各社が得意な技術を提供して構成する、EV開発のオープンプラットフォーム)による設計・製造によってインド市場への参⼊の敷居を低くしたFoxconnなどが挙げられる」
調査概要
今回の発表は、チャネル情報、POSデータ、ディストリビューターアンケート調査、公開データなどボトムアップデータソースとトップダウンリサーチの組み合わせによるカウンターポイント社独⾃の調査⽅法で実施したものだ。調査時期は2023年1⽉1⽇〜2023年12⽉31⽇。
関連情報(英語)
https://www.counterpointresearch.com/
構成/清水眞希