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「オフショア」とは、何を指す言葉なのでしょうか。これは、業界ごとに意味や使い方が異なる用語になります。
今回は、金融業界とIT業界を例に挙げ、オフショアの目的やメリット・デメリットを解説します。また、オフショアの関連語である「オンショア」や「ニアショア」の意味も確認しましょう。
「オフショア」とは?
「オフショア」は、金融業界やIT業界でよく用いられます。
ビジネスシーンで、「オフショア投資」や「オフショア開発」という用語を見聞きしたことがある人も多いでしょう。「オフショア」には、どのような意味があるのでしょうか?
■「海外」「自国から離れた場所」という意味
ビジネスで使われる場合、オフショアは「海外」や「自分の国・地域から離れた場所」を意味します。とりわけ、東アジアや東南アジア、中南米などの新興国・開発途上国を指すのが一般的です。
日本をはじめとする先進国では、海外に子会社を設立したり、現地企業と契約したりして、コストが安い国に業務の一部を移管する場合があります。
工場だけでなく、コールセンターやバックオフィス業務などを移管するケースもあり、「オフショア」を活用したアウトソーシングのグローバル化が進んでいます。
■英語の「offshore」が語源
オフショアの語源は、英語の「offshore」です。「off(離れて)」と『「hore(岸)」から成る言葉であり、単語自体には「岸から離れた(沖合の)」「海外の」という意味があります。「offshore」が付く単語には、以下のようなものが挙げられます。
- offshore banking(オフショア金融)
- offshore development(オフショア開発)
- offshore market(オフショア市場)
ちなみに「offshore」には、「陸風(りくかぜ)」の意味もあります。陸から海に向かって吹く穏やかな風のことで、サーフィンをするのに適しています。このように、一口に「offshore」といってもさまざまな意味を持つ単語になっています。
業界別の「オフショア」の使い方
ビジネスシーンにおける「オフショア」は、業界ごとに使い方が異なります。
例を挙げると、金融業界では「オフショア投資」、IT業界では「オフショア開発」という言葉がよく使われます。それぞれの意味を見ていきましょう。
■金融業界における「オフショア投資」
「オフショア投資」は、「海外から海外への投資」を意味しますが、日本においては「タックスヘイブン(tax haven)」を指すのが一般的です。
「タックスヘイブン」とは、税率が著しく低い「低課税地域」や、税金が完全に免除されている「租税回避地」を指します。これらの国・地域は、資源や産業が乏しい傾向があり、税制や金融規制の優遇によって海外の企業・投資家を誘致しています。
また、非居住者間の金融取引に優遇措置を設けている国際金融市場を、「オフショア市場」と呼ぶことも覚えておきましょう。非居住者向けの投資信託は「オフショアファンド」と呼ばれます。
■IT業界における「オフショア開発」
オフショア開発とは、自社のシステム開発業務の一部または全てを、海外の企業に移管することです。現地に自社の子会社を設立してオフショア開発をすることもあれば、現地の企業に委託することもあります。
日本では、システムエンジニアをはじめとするIT人材が不足しています。優秀な人材を確保しようとすると、給与・報酬を大きく引き上げざるを得ないため、人件費の安い国でオフショア開発をする企業が増えているのが実情です。
オフショア開発先として人気があるのは、ベトナム・フィリピン・インド・バングラデシュ・中国・ミャンマーなどです。中でもベトナムは、国がIT人材の育成に力を入れており、市場には優秀なIT人材が多いといわれています。
「オフショア」のメリット
グローバル化が進む現代、「オフショア投資」や「オフショア開発」は、ごく当たり前に行われています。
■金融業界「オフショア投資」のメリット
前述の通り「オフショア投資」とは、低課税地域や租税回避地に投資をすることです。多国籍企業や富裕層が税金を抑えるための行為と見なされがちですが、「オフショア投資」で資産運用をする一般の個人投資家も少なくありません。「オフショア投資」には、以下のようなメリットがあります。
- 金融商品のラインアップが幅広い
- 利回りが高い金融商品が多い
- 非居住者に対する税金の優遇措置がある
資産運用では、値動きや性質が異なる複数の金融商品に分けて投資をするのが基本です。先進国だけでなく、新興国のさまざまな金融商品に資産を分配することで、リスクの分散による収益の安定化が実現します。利回りの高いファンドを選べば、短期間でも一定の利益を上げられるでしょう。
■IT業界「オフショア開発」のメリット
オフショア開発の最大の魅力といえるのが、コストの削減です。IT人材の育成に力を入れている国であれば、若くて優秀なIT人材に業務を委託できます。海外で現地法人を立ち上げれば、人件費はもとより、オフィスの賃料・設備費も抑えられるでしょう。
IT人材の不足が加速する日本では、社内でIT人材を育成する動きもあります。ただし、育成には多くの時間と労力がかかる上、人材が必ずしも会社にとどまるとは限りません。一部の業務を海外にアウトソーシングすれば、国内ではコア事業に経営資源を集中投下できます。
また、少子高齢化により、日本市場は縮小傾向にあります。オフショア開発をきっかけに、海外で事業を展開する企業も少なくありません。
「オフショア」のデメリット
「オフショア」には、大きなメリットがありますが、リスクがあることも忘れてはいけません。続いては、「オフショア」のメリット・デメリットを解説します。
■金融業界「オフショア投資」のデメリット
「オフショア投資」の魅力は、税制面での優遇です。しかし、日本居住者が「オフショア投資」で得た利益に対しては、日本国内で税が課せられる点に注意しましょう。そのほかにも、以下のようなデメリットが存在します。
- 手続きが難しい
- 為替リスクがある
- 口座を凍結される場合がある
- 現地の法律によって課税される場合がある
「オフショア投資」の手続きは、英語で行われることが多く、語学が堪能でない人にとってはハードルが高いといえます。外貨建て資産を運用する以上、為替の変動による損失も覚悟しなければなりません。また、海外の口座を長く放置すると、凍結される恐れがあります。
■IT業界「オフショア開発」のデメリット
「オフショア開発」で問題になりやすいのが、言葉や文化の壁です。細かい要望やニュアンスをきちんと伝えられなければ、意図せぬプロダクトが納品される可能性があるでしょう。
国内と海外では、仕事の進め方や意思決定の方法が異なるケースが多く、認識のずれによるトラブルが生じやすい傾向にあります。打ち合わせに時間がかかりすぎて、担当者が疲弊してしまうことも珍しくありません。
近年は、新興国が急速な発展を遂げています。人件費が日本と大きく変わらない水準になっている国もあり、コスト削減という恩恵が享受できなくなりつつあるのが現状です。