家庭にはどんな影響がある?
昨年、長期金利が上がったことで、長期の国債金利や社債金利が上がったり、35年のような長期の住宅ローン金利が上がったりした。今回のマイナス金利解除は以下のような短期金利を参考とするものへの影響が考えられる。
(1)1~2年の短期の預金金利が上がる
(2)住宅ローン変動金利が上がる
普通預金金利や定期預金の金利が多少上がるのは喜ばしいことだが、その一方で、変動金利が上がるのは大きなデメリットだろう。
現在7割の人が変動金利で借入れしているため、もし変動金利の参考とされる基準金利が上がると大きな影響が出る。しかしながら、今回のマイナス金利解除では、住宅ローンの変動金利の参考とされている短期プライムレートは上がっていない。
■適用金利
基準金利(短期プライムレート等を参考)-優遇金利=適用金利
短期プライムレートとは、銀行が優良企業に向けて1年以内で貸し出す際に適用する最優遇貸出金利だ。概ねの銀行が、変動金利の基準金利をこの短期プライムレートを参考としている。短期プライムレートは2009年以降下がって以降上がっていない。そのときは、実質の政策金利である無担保コール翌日物金利が0.3%から0.1%へ下げられたときであるから、今のマイナス解除後の無担保コール翌日物金利が0~0.1%であることを考えると、短期プライムレートが上がる可能性があるのは、この後にさらなる追加利上げがあったときと考えられる。
ただ、最近のような適用金利が非常に低くなったのは、基準としている短期プライムレートが低くなったからではなく、銀行が他行との競争により独自で基準金利から差し引く優遇金利が大きくしているからで、結局は各銀行が適用金利を上げるかどうかにゆだねられている。
また、既に借入れを行っている人は基準金利から差し引く優遇金利は契約時から変わらないため、基準とする短期プライムレートが上がらない限り、金利は上がらない。
つまり、今の政策金利である無担保コール翌日物が追加利上げで0.3%まで上がった時に、適用金利が上がる可能性を覚悟した方がよいだろう。
上記は金利が上がった場合の返済額の違いである。変動金利は6ヵ月ごとに適用金利が変更され、そのときに基準金利が上がっていれば適用金利も上がる。今、変動金利で借りている人は以下の点に注意した方がよいだろう。
(1)「5年ルール」「1.2倍ルール」があるか確認する
住宅ローン変動金利には、金利変動により急激に毎月の返済額が増えないよう、金利が上がっても5年間は毎月の返済額を据え置き、さらに増額される場合でも1.2倍までに抑えるルールがある場合がある。この2つのルールは、一部ネット銀行の住宅ローンにはなかったり、返済方法が元金均等返済だと適用されなかったりする可能性があるため、適用金利が上がる前によく確認しておくとよいだろう。
(2)増額に備えてボーナスを貯めておく
住宅ローンは借入れであり、大事な自宅を担保にいれているため、確実に返済したいところだ。金利が上がり、返済額が増えても対応できるよう備えておくことが大切だ。
(3)慌てて固定金利に変更しない
長期金利は既に上がっているため、長期の固定金利は既に高い。例えばフラット35の金利は年利1.82%程度(当初5年は優遇される場合あり)となっており、変動金利がここ10年でそこまでになるとは考えづらい。多少金利が上昇したとしても、固定金利の適用金利ほどにはならないため、慌てて固定金利に変更するのは早計だ。
それよりも、金利上昇に備えてある程度支払える余裕を持てるように、家計を見直す、貯蓄をしておくようにしていくのが最適だ。
今後金利はどうなる?
3月の金融政策決定会合時に公表された、日銀の「経済・物価の現状と見通し」によると、日銀の今後の経済見通しは以下の通りだ。
日銀は全体的には緩やかに上昇すると考えており、このまま続けば追加利上げもありうるだろう。
ただし、リスク要因として海外の経済や資源価格動向、企業の賃金や価格設定には不確実性があり、そのような外部環境によって下押しする可能性もあるとしていることから、このマイナス金利解除の影響をじっくり見極めたうえでの利上げであろうから、早くても追加利上げは秋ごろ、来年となるだろう。日銀が目標としている2%の物価上昇目標は達成しているが、米国のようにそこからどんどん物価が上がっていく様子もないため、今後急激に金利を上げる可能性は低い。
したがって、変動金利で住宅ローンを借りているからといって、急に焦る必要はなく、利上げになって多少返済額は増えたとしても大丈夫なよう備えておくことが大切だ。
(参考)
日本銀行2016年1月29日 「マイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入」
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入 (boj.or.jp)
日本銀行2024年3月19日「金融政策の枠組みの見直しについて」
k240319a.pdf (boj.or.jp)
文/大堀貴子