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本業の不調をカバーするコーエーテクモ襟川恵子会長の凄すぎる投資術

2024.05.10

 短期売買を目的とした株式が7倍に膨張

しかし、20243月期は営業外利益が大幅に増加しました。資産を見ると、株式への投資を加速しています。

20243月末時点で、流動資産に分類されている有価証券の総額は5839300万円。1年で7.3倍に膨らんだのです。

決算短信より筆者作成

流動資産の有価証券は、短期的な売買を目的として保有する金融資産。20243月期においては、上半期までは債券中心のポートフォリオだったと説明していましたが、決算書を見る限りでは手持ちの資金を株式に移転している様子がわかります。

今のアメリカの株式市場は好調そのもの。202413日にはS&P5002年ぶりに最高値圏を突破。その後も高値を更新し続けました。AIブームでハイテク株のナスダックも過去最高を突破してヒートアップしています。日経平均は34日に4万円を超えました。

このチャンスを的確に捉えているのでしょう。ゲーム会社という特性を考えても、GPUを開発するNVIDIAなどのハイテク株関連の知見は深いものと考えられ、AI関連に人気が集まれば情報力において優位に立てるでしょう。

パッケージの売上は2割減

ただし、コーエーは本業のゲーム事業では苦戦しています。

20243月期の営業利益は、もともと前期比4.2%減の375億円を予想していました。その予想が大きく外れ、前期比27.2%減の2849400万円となったのです。

これは売上高が伸び切らなかったのが主要因。期首予想では前期の2割増となる950億円を予想していましたが、着地は7.9%増の8458400万円でした。見通しよりも100億円少ない数字だったのです。

特に苦戦しているのがパッケージゲーム。20243月期の売上高は、前期の2割減となる2986600万円でした。

2024322日に『Rise of the Ronin』というゲームをリリースしています。販売本数ランキングでは上位に食い込んでいるものの、力をかけた大型タイトルの割に数字が伸びません。

このタイトルは『仁王』や『NINJA GAIDEN』といったヒット作を手掛けるTeam NINJAの集大成とも言えるもの。コーエー得意の歴史ロマンを盛り込んだストーリー展開、刀や重火器を使った派手なバトル、坂本龍馬や土方歳三などの魅力的なキャラクター。どれをとっても申し分ない内容になっており、ユーザーの評価も悪くはありません。

それでも大ヒットしないというのは、現在の大作ゲームの難しさを物語っています。

2024430日にスクウェア・エニックスがHDゲームタイトルの開発方針の見直しを決定し、コンテンツ廃棄損として20243月期に221億円を計上すると発表しました。

HDゲームとはハイ・ディフィニションゲームのことで、ゲーム機向けの『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などのこと。スマートフォンゲームは含みません。つまり、200億円以上もの開発費を捨て、超大型タイトルからの撤退を表明したのです。

このことからも、ゲームをヒットさせる難易度が業界全体で高まっていることがわかります。

幸いにもコーエーはアトリエシリーズが好調で、スマートフォンゲームがパッケージの穴を埋めています。海外にも収益基盤を持つなど、収益構造が多層化されているために一つの事業の業績悪化の影響が限定的だという特徴があるのです。

代表取締役社長の襟川陽一氏は、成長産業で仕事をすることを信条としていることで知られています。ゲーム業界はこれまでのような伸び盛りの産業とは言えなくなりました。今後の経営方針に注目が集まります。

取材・文/不破聡

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