発案に積極的すぎる青山先生とのトリック打ち合わせマル秘エピソード
──今後の展開に必要な伏線や必要なキャラクターを出す際は、どのように決めていくのですか?
堂本 だいたいは青山先生から「今回はこれを言っておきたい」「この話を入れたい」というのが出てきます。それを先生が上手に入れてくれる。うまくいかないなら次回以降に見送ることもあります。
──青山先生との打ち合わせで印象に残っていることは?
舟本 出来上がった原稿を受け取ったり、目の前で色紙を描いているのを見られたりする瞬間は、いつもうれしいです。
堂本 舟本のクシャミってちょっと変なんですけど、青山先生は毎回、それを新鮮な表情で笑うんです。その人らしいところを喜んでいるんだと思います。ああ、これがキャラクターを生み出せる人の感覚なんだなって。
石川 青山先生はものすごく記憶力がいいんですよ。設定メモとか特に何もない。それなのに、作品のすべてが頭の中に入っていて「あれどうでしたかね」って聞くと、すぐ「あれはああだよ」って。
堂本 一度すごく驚いたのは「小は大を兼ねる」というセリフにちなんだトリックづくりに苦戦した時ですね。打ち合わせを翌日まで持ち越してしまったんですけど、妙案が浮かばず、僕は半ば諦めて青山先生宅のドアを開けたら、青山先生が「(トリックが)できたよ!」って。どんな時でも決して逃げず、諦めないで考え続けて、最後には目的にたどり着くところが、とんでもないなと思いました。
以前、アイデアを出す時は「10本ぐらいのパターンを同時並行で考えて、その中から1つを選んでいる」とおっしゃっていました。青山先生でも行き詰まる瞬間があって、その時にどの前提まで戻れるかがとても大事。「ここまで戻れば突破できる」みたいなチョイスをするのが青山先生はうまいし、迷いなく戻る決断ができるのもすごいと思います。
ネットの情報だけでなく理科の実験本なども参考にトリックのネタを必死に探します
堂本強介さん
──ほかにも青山先生のここがスゴイと思うところはありますか?
堂本 世の中がおもしろいと思う感覚と、青山先生の感覚が全くずっとズレていないところですね。
舟本 私が「風見さんが好きです、カッコいいし!」と伝えると「カッコいいよね」と、先生は共感してくれるんです。
先生の中でキャラクターが生きていて、すごく大切にしていることを常々感じています。
堂本 何かあるたびに「ファンが喜ぶね」「ファンがビックリするね」という言葉はよく聞きますね。
舟本 ファンの期待を裏切らないという面でも青山先生は妥協しません。毎週月曜日に更新しているゲームのアプリがあるんですが、必ずご自分で行なっています。更新が1時間でも遅れると「ファンが心配してるかも」と焦ってて。担当編集としても周年のイベントごとなどでは、ファンが喜ぶタイミングを逃さないように気をつけています。
石川 驚いたのは、ファンから届いた年賀状にも必ず返事をしていて、しかも署名は自筆でした。今は忙しいので直筆ではないですけど。
担当編集を驚かすことも楽しんでいて「このキャラクター、実はこうなんだよ」と。僕がビックリすると、とても満足そうでした。
舟本 おもしろさでは妥協しないですよね。創作への熱意がすごい。
石川 「まぁこれでいいか」といった言葉は、青山先生の口から聞いたことがありません。
近藤 だから、青山先生が「これがいい」と思えるまで一緒に粘って考えるようにしてきました。歴代の担当者はみんなそうだと思います。青山先生の天才性を発揮できるよう集中できる環境を整えることが、我々の大事な仕事です。
ファンが喜ぶと先生も本当にうれしそう。
その関係性を損ねないようにしたい
舟本りあるさん
30年続くと、担当者の仕事も変化する。しかし『名探偵コナン』に対する姿勢はずっと変わらない。青山先生の仕事環境を整え、トリックのネタを探す。何よりもファンの期待を裏切らない作家ファースト、ファンファーストを貫く。