■連載/ヒット商品開発秘話
ハウス食品が2023年8月に発売した『X-BLEND CURRY(クロスブレンドカレー)』の売れ行きが好調だ。発売から5か月で累計出荷数が500万個を突破した。
『X-BLEND CURRY』は同社が約10年ぶりに発売した大箱ルウカレーの新ブランド。スパイスの華やかな香りと家庭でつくるカレーらしい旨みが融合した、大人も子どもも一緒に楽しめるスパイス感あふれる味わいが特徴だ。
ターゲットは食べ盛りの子どもを持つ子育て世帯。家庭でつくるカレーにもスパイス感を求める大人と、新しい味に挑戦したい年頃(小学校高学年以上)の子どもに味わってもらうべく開発された。
辛さは3種類。まず甘口と中辛の2種が発売され、2024年2月に辛口が追加された。
パッケージはカレールウでは珍しいブルーを採用。スパイスの上質な香りと深く広がる旨味を表現した。商品名のXには「香るスパイス」×「広がる旨み」/「スパイスの複雑さ」×「家カレーのおいしさ」/「子どもの成長を後押ししたい大人」×「新たな味にチャレンジしたい子ども」という想いが込められている
ルウカレーにもスパイス感が求められている
大人も子どもも一緒にスパイス感が楽しめることをコンセプトにした『X-BLEND CURRY』誕生の背景には、コロナ禍などをきっかけにして家庭でのスパイス使用量が増えたり、外食やフードデリバリーなどの中食でスパイス料理に親しむ機会が増えたりしていたことがあった。それを裏づけるように家庭用GABANスパイスの購入金額が、2023年3月期(2022年4月1日〜2023年3月31日)は2020年3月期(2019年4月1日〜2020年3月31日)比で130.5%(同社出荷ベース)に伸長している。
このような現状から、食品事業本部食品事業一部 チームマネージャーの髙田浩平氏は、『X-BLEND CURRY』開発についてこのように明かす。
「家庭内でのスパイス接触率が向上していたので、お客様はルウカレーにもスパイス感を求めているのではないか?という仮説にたどり着きました」
ハウス食品
食品事業本部食品事業一部
チームマネージャー
髙田浩平氏
大人はカレーにスパイス感を求めても、子どもは大人と同様のスパイス感を求めるわけではない。刺激的なものよりも、子どもも一緒に食べられるスパイス感を追求してくことにした。
実施した試作は3000回超
味づくりを始めたのは2022年2月頃から。香りだけではなく味もスパイス中心でつくった。スパイスは種類を増やせば増やすほど、クセがなくなる特性があることから、大人も子どももおいしく食べられるスパイス感のあるカレーができると判断した。
「香りも味も、全部スパイスで表現したい」という想いから、(1)〜(3)まですべてスパイス中心に風味を構築
とはいえ、スパイスの組み合わせは無数にある。同じスパイスでも産地、粒度や焙煎度合いといった加工の程度によっても香りや風味が変わる。
それに、旨みについては小麦粉や油、各種調味料を組み合わせたカレーベース(カレーの素)との調整も欠かせなかった。
「スパイスの香りを立たせると旨みが弱く感じられます。逆に旨みをつけすぎると香りが弱くなってしまいます。香りと旨みの両立は非常に困難でした」と髙田氏。カレーベースはスパイスの香り立ちを良くする観点から見直した。長年様々なカレールウをつくってきたが同社だが、『X-BLEND CURRY』のカレーベースはいままでのカレールウに使ってきたそれとはだいぶ変わったという。
スパイスについては、選定だけで通常の3倍以上になる7か月を要した。「時間がかかることは想定していました」と髙田氏。何を使うかを決め、それらをどれだけ配合するかを検討するだけでも手間がかかるのに、産地や加工の程度も考慮しなければならない。試作をつくっては検証することを繰り返してスパイスの調合を決めていった。
『X-BLEND CURRY』中辛(上)と『バーモントカレー』中辛(下)の原材料比較。『バーモントカレー』には表記がないアニス、オールスパイス、ディル、セージなどのスパイスが『X-BLEND CURRY』には表記されている
髙田氏は「開発は、時間をかけてでも納得のできるものをつくりたいという想いで進めていきました」と振り返る。使ったスパイスの種類は同社史上最多級に及ぶ。他の大箱ルウカレーと比べると圧倒的に多くなった。
カレーベースの開発、スパイスの選定なども含めると、試作は完成までに3000回以上実施。一番時間を要したのはスパイスとカレーベースを調整し香りと旨みが両立できるバランスを取るところだった。
開発では、スパイスの香りが立ちすぎたこともあれば、その逆で旨みが強く香りが控えめになってしまったことなどがあった。髙田氏は次のように振り返る。
「最初からスパイスの香りと家庭でつくるカレーの旨みが感じられる、両者のいいところ取りをしたものはできませんでした。つくる過程で新しいスパイスや加工の異なるスパイスをプラスしたり、逆にあるスパイスを使わないようにしたりと、原材料を足したり引いたりしながら目指す味わいを実現していきました」