この懐中時計のために生まれたムーブメントのめくるめく世界をのぞく
100周年記念 懐中時計のために開発された新型のムーブメントCal.0270
@DIME:シチズンのメカニカル回帰を象徴するムーブメントとして、2021年にCal.0200を誕生させています。あれからわずか3年ですが、この懐中時計は新型のムーブメントCal.0270を搭載しています。
土屋さん:今回のCal.0270は、時分針と小秒針との位置は100年前の懐中時計と同じ配置に倣っています。これはCal.0200の設計のままではできないことでした。そのため、Cal.0200で培った技術やノウハウを活かしながらも輪列をはじめ、装飾までほぼ新開発に近いムーブメントになっています。
@DIME:100周年記念モデルはシースルーバックなので、そのムーブメントをのぞくことができるわけですね。では、記念モデルが今のシチズンを表現している特徴的なところをクローズアップしていただけますでしょうか。
土屋さん:シチズン初の懐中時計はシースルーバックではありませんでしたが、今回は、ムーブメントをぜひ見ていただきたいということで、シースルーバックに。なおかつ、ガラスの外径をやや大きめにとりまして、ムーブメントがよく見渡せる形に外装が設計されています。そして、“懐中時計とは”というところで注目していただきたいのが、ムーブメントのデザインとバランス感です。
まず、ブリッジ(歯車類を支持する部品)の曲線を基調としたブリッジの幅をやや細目に改めるなど、モダンな懐中時計のスタイルを追求しました。歯車や軸受となるルビーの配置は直線的に並ぶのではなく、バランスよくちりばめるようにおさめ、美観を高めています。こうして、昔の懐中時計のムーブメントの良さを継承しつつも、より洗練された形にもっていきました。
宮原さん:1924年の初号機の裏ぶたを開けるとムーブメントにしっかりとコート・ド・ジュネーブの模様が入っているのが見えるのですが、当時から審美性を意識してきたことがうかがえます。今回のモデルも同様にコート・ド・ジュネーブをいれていますが、今の時代の感覚を加え、ムーブメントの美しさを意識したものに仕上がりました。
土屋さん:コート・ド・ジュネーブのブラッシュアップもひとつのテーマでした。コート・ド・ジュネーブというのは伝統的な波のような仕上げで、オリジンに倣ったというより、数多く試作した結果、この懐中時計においてはコート・ド・ジュネーブがもっともバランスがよいと感じられたのです。今回は一本一本の筋目を入れる技法を見直し、陰影とエッジ感のあるメリハリのある仕上がりを目指しました。
@DIME:ということは、ムーブメントの装飾の工程だけでも多くの人たちの手がかかっているのですね。
土屋さん:美しいメカニズムを見てみたいという願望は、昔の人も現代の我々も違わないと思います。特に今回は特別なモデルということもあり、装飾の作業は限られた技術者が特に集中して実施しています。
見応えのあるムーブメントになっていますので、その装飾の美しさも楽しんでいただきたいです。
オリジンを踏襲しながらもとてつもないシチズンの技術で魅せる文字板の仕上がり
@DIME:やはり、文字板にも、100周年を記念するモデルであることを象徴するこだわりがあるのではないでしょか。
宮原さん:ムーブメントの話でも出ましたが、時分針と小秒針の位置関係をはじめ、アラビア数字のインデックス等はオリジナルを踏襲しています。
そして、シチズンの今を象徴するこだわりとして紹介したいのが、電気鋳造と塗膜研磨という技術を組み合わせて「時の積み重ね」をイメージした文字板の生地(ベース)です。
指紋すら再現してしまうほどの細かい模様を金属につける電気鋳造という技術で、オリジナルの細かい模様を描きました。その上に透明の塗料をのせて、それを磨き上げ表面を平滑にします。今回は、さらにそこに艶消しを施して、その上にインデックスを肉盛り印刷という、インクの厚みのある印刷で載せています。
土屋さん:文字板を横から見ると、透明な膜の上にインデックスが浮いているような、立体感というか、深みを感じていただけると思います。さらに小秒針のところは一段低くなっているので、ここだけ透明層が深く見えるのです。
宮原さん:インデックスの肉盛り印刷も、試行錯誤を繰り返し、理想の質感に近づけていきました。