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「オンボーディング」が昨今の人材育成に欠かせない理由

2024.06.03

「オンボーディング」は近年、ビジネス用語として「新規で入社した社員の定着・戦力化を図る教育的プログラム」という意味で使われるようになった言葉だ。

しかし、オンボーディングという言葉がどんな意味を持ち、どのように実践するかを知らずに使っているケースも多い。

そこで本記事ではオンボーディングの意味や使い方、実践事例について解説していこう。

オンボーディングとは

まずは、オンボーディングという言葉の意味や、近年多くの企業で使われるようになった理由を明らかにしていこう。

■オンボーディングの意味

オンボーディングとは本来、船や飛行機などに「乗る」という意味の「on-board」から派生した言葉である。

船や飛行機に乗ることも、企業に入社することも「全員が同じ目的地に向かう」という共通点があることから、ビジネスでも用いられるようになった。

具体的にビジネスで用いられるオンボーディングは「継続的なサポートによって定着率を上げ、早期戦力化につなげるための教育的プログラム」という意味で使われる。

近年はキャリアが多様化し、転職市場も活性化していることから、新入社員だけでなく中途入社の社員に対しても、いち早く組織に定着し戦力化することが求められる。このことから、多くの企業でオンボーディングが注目されるようになった。

■OJTとの違いは?

これまで、特に新入社員研修で「OJT」が多用されたことからOJTと混合されがちだが、OJTは「On-the-Job Training」の略であり、仕事の実施訓練のことである。

OJTは仕事のスキルを身につけることを目的としているが、オンボーディングはスキルの習得に加えて組織への定着や順応にも重きを置いている点が特徴的である。

■オンボーディングが注目される理由・背景

ビジネスでオンボーディングが注目される背景には、新入社員や中途採用社員の早期離職問題がある。

早期離職の原因として、入社前に抱いていた理想や期待と、入社後のギャップから職場環境になじめないことが挙げられる。理想と現実の差により本来のポテンシャルを発揮できず、戦力化する前に辞めてしまうケースは珍しくない。

オンボーディングのプロセスには「企業の一員」として、新規社員を受け入れる体制を整えることも含まれている。

新入社員だけが入社の準備をするのではなく、新たに社員を受け入れる企業側も一丸となって受け入れ体制を整えることが、早期離職を防ぐためには必要なことなのだ。

※出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成」
※出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況を公表します」
※出典:厚生労働省「若者の希望と需要のミスマッチ」
※出典:厚生労働省「仕事を辞めた者の退職理由」

オンボーディングの使い方

オンボーディングという言葉は、どのような場面で使えばいいのだろうか。

一般的には「オンボーディングの導入」や「オンボーディングを行う」などと表現して使われる。

ビジネス用語のオンボーディングを言い換えると、「新規社員の定着率を上げ、即戦力となるように促すためのアクション」といえるだろう。

オンボーディングという言葉の中には、教育だけでなく精神的なサポートや人間関係の構築なども含まれるため、新たに入社した社員に対するサポートを行う場面全般で使うのが一般的といえる。

オンボーディングのプロセスと実践事例

オンボーディングを導入するには、以下の5つの流れが重要である。

  1. ゴール設定
  2. 環境づくり
  3. プラン・スケジューリング・リストの作成
  4. 実施
  5. ブラッシュアップ

今回は、よりオンボーディングについての理解を深めていくためにも、実際の大手企業で用いられている実例を紹介していこう。

■オンボーディングの流れ

 

 

オンボーディングを実施するためには企業全体でプロセスを把握し、受け入れ態勢を構築する必要がある。

具体的には以下のプロセスでオンボーディングを進めていく。

(1)ゴール設定

まずは企業として新規社員と既存社員との関係構築と必要な知識の共有をゴールとして設定する。

オンボーディングが長期的プログラムとはいえ、限られた期間の中で何をどこまで伝えるのかには一定の基準を設ける必要がある。

ゴールは研修中と研修後の配属先におけるものまで設定しておくと、研修期間終了後の社員への引継ぎがスムーズになる。

(2)環境づくり

オンボーディングは新規社員と教育担当だけが関係するのではなく、企業全体として取り組むプログラムである。そのため、既存社員の協力も不可欠となり、設定したゴールを達成するための環境を整えなくてはならない。

オンボーディングに最適な社員同士のコミュニケーションツールの選定や、チームの受け入れ環境、研修後のサポート環境まで考える必要がある。

(3)「プラン」と「スケジューリングリスト」の作成

オンボーディングは長期プログラムであるが、入社時研修などの短期的なプランの構築も必要である。

長期的なゴールを達成するために、短期的なスケジュールで「あるべき姿」を設定し、達成するための短期プランを設計することが重要なのだ。

教育担当以外の部署間で、「あるべき姿」と実施するプランに認識のズレがないよう、事前に共有しておかなければならない。あるべき姿とプランを明記したリストも作成しておくと、改善点や追加すべき項目がわかりやすくなる。

オンボーディングは、常に企業と社員が一丸となって取り組む意識を持つことで、新規社員への伝達もスムーズになる。

(4)実施

ゴール設定、環境づくり、プランとスケジューリングリストの作成が完了したら、実際にオンボーディングを実施する。

オンボーディング実施中も、受け入れ部署だけでなく企業全体でフォローすることが重要である。短期的なスケジューリングの共有や進捗管理、情報共有などを行うことで、改善点や課題を見つけて報告を行うとより効果的だろう。

(5)ブラッシュアップ

オンボーディングの期間終了後は、必ずブラッシュアップの実施が必要だ。

ブラッシュアップを行う際は、教育担当や管理職だけでなく、チームメンバーや現場の意見も取り入れると、より高度なブラッシュアップが期待できる。

■オンボーディングの実施例

日本を代表する大企業であるソニーグループも、2021年からオンボーディングを実施している。きっかけは、コロナ禍で入社した社員の「この組織の役に立てているのか?」という不安だったという。

従来の対面での研修とは違い、コロナ禍のオンライン研修では質問がしづらくなっていた。対面ではないために社風にうまくなじめず、思うように行動できないことを回避するため、オンボーディングを導入した。

一目でコンディションがわかるツールを導入し、状態があまりよくない社員をフォローする。オンボーディングの導入により悩みを抱える新規社員をすくいあげ、サポートすることを目的としたのだそうだ。

このように、オンボーディングを採用する大手企業は増えており、コロナ禍を経て社員同士の結びつきが希薄になってしまった昨今において、重要な人材育成の制度であることが窺える。

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