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上司や取引先の担当者が「昇進」や「昇格」した。お祝いする必要があるが、「昇進」と「昇格」の違いがわからない、お祝いの仕方も難しそうで気が引ける、という人もいるのではないだろうか。
この記事では、いざという時にも困らないよう、「昇進」「昇格」など人事に関するビジネス用語の意味の違いから、メッセージや贈り物のマナーやタブーまで、社内と社外のシーン別にわかりやすく解説する。
昇進と昇格の違い
上司が主任から係長になった。お祝いのメールを送る場合、「昇進」「昇格」、どちらの言葉を使うのが正しいのだろうか。
■昇進とは
「昇進」とは、社内での職位や肩書きが上がること。例えば、「一般社員からリーダーに」「係長から課長に」なる場合。これが昇進だ。上記の主任から係長になったケースは、昇進にあたる。
■昇格とは
「昇格」とは、「職能資格制度」の導入されている会社において、社員の「等級」が上がること。
人事異動と同時に行われる時もあるが、役職が変わっても等級は変わらないこともある。つまり、昇進したが昇格しないケースだ。職能資格制度の等級が職務とリンクしていない場合もあるため、こういったことが起こる。
ちなみに職能資格制度とは、会社の求める職務遂行能力によって等級を定め、等級に応じた「職能給」として給料に反映させる制度のことだ。日本では一般的な制度で、全国証券市場の上場企業と資本金5億円以上または従業員500人以上の企業では、半数以上の企業が導入しているという調査結果もある。
※出典:労務行政研究所「等級制度と昇格・昇進、降格の最新実態」
■昇進・昇格・昇給・昇任・就任の違い
昇進・昇格とよく似たシーンで使われる、「昇給」「昇任」「就任」。それぞれの意味の違いは次の通りだ。
用語 |
意味 |
例 |
昇進 |
職位が上がる |
課長から部長に昇進した |
昇格 |
職能資格の等級が上がる |
1級から2級に昇格した |
昇給 |
給料が上がる |
4月の定期昇給で基本給が上がった |
昇任 |
公務員などの官位が上がる |
(地方公務員)係長から主幹に昇任した |
就任 |
新しい役職やポジションに就く |
取締役に就任した |
昇格・昇進のメリットとデメリット
ここからは、昇格・昇進のメリットとデメリットを解説する。
■昇格のメリットとデメリット
昇格により等級が上がると、どんなメリットがあるのだろう。
【メリット】
・給料が上がる
・責任ある仕事を任せてもらえるようになる
・勤続年数に応じて等級が上がる
・一度上がった等級は下がらない
このように勤続年数が評価の対象になるのが、昇格の特徴的なメリットだ。それが、仕事をするうえでの安心感につながることも多い。 しかし、次のようなデメリットもある。
【デメリット】
・評価基準が曖昧だと、結果に納得のいかないこともある
・能力だけではなく勤続年数でも等級が上がるので、能力以上に給料が高くなることもある
このため、昇格人事に不公平感を持ったり、モチベーションが下がるきっかけになることもある。
■昇進のメリットとデメリット
一方、昇進のメリットは次のとおりである。
【メリット】
・給料が上がる
・仕事のやりがいが増す
・肩書きが変わることで対外的にも出世が明らかになる
・部下が増える 等級は上がっても役職は変わらないこともある
昇格と違い、昇進は出世したことが明白だ。そのため、満足度が高くなる場合が多い。 しかし、次のようなデメリットも合わせ持つ。
【デメリット】
・責任が増す
・より高レベルの業務をしなければならなくなる
部下が増えるため、管理能力が問われる 人によっては、役職を背負うことがストレスになってしまうことも考えられるだろう。
昇格・昇進のお祝いの仕方と送り方
お祝いの準備を始める前に、ぜひ押さえてほしいことがある。 今回の異動がお祝いしてもよいケースなのかどうかだ。例えば、異動するといっても、昇格や昇進が伴うとは限らない。また、取引先によっては、コンプライアンスの関係で、贈り物の受け取りが禁止の場合もある。 上司などに事前に聞くなどして、昇進や昇格の正確な内容を把握したうえで、準備を進めるようにしよう。
■熨斗(のし)
贈り物につける熨斗は、水引 紅白または金銀の蝶結びを選ぶ。 表書きは、以下の通りだ。
・ 昇進:御昇進御祝
・ 昇格:御昇格御祝
・詳細の情報がないとき:「御祝」でも可
■メッセージの忌み言葉
お祝いのメッセージを送る際、次の言葉は使用できない。(忌み言葉)
・「変化」に関係する言葉:「変化」「変わる」「移ろいの早さ」など
・「衰退」を想起させる言葉:「失う」「終わる」「倒れる」「壊れる」「傾く」など
・「退陣」を想起させる言葉:「辞める」「逃げる」「消える」「去る」など
・悪い意味の言葉を重ねた表現(重ね言葉):「重ね重ね」「重ねて」「返す返す」「いよいよ」「続きまして」「もう一度」 特に「変化」に関する言葉や重ね言葉は、つい使ってしまうこともあるので注意しよう。
ここからは、具体的なシーン別に解説する。
■社内・身内の人が昇格・昇進した場合
予算相場は3,000円〜30,000円程度だ。贈るタイミングは、社内でも関係性の深い人や身内は、内定を知ってからすぐが望ましい。プレゼントは、相手の趣味に合うものを贈ると喜んでもらえる。
例えば、お酒が好きな方に名入れのお酒 、文具にこだわりのある方には名入れのボールペン、万年筆などが挙げられる。また、お気に入りのブランドがある方には、そのブランドのネクタイ メッセージを送る際は、お祝いの言葉とともに、上司や身内への尊敬や感謝の思いを言葉にすると良い。
■社外の人が昇格・昇進した場合
予算相場は5,000円〜10,000円程度。贈るタイミングは、正式な昇進辞令の発表からできるだけ早く送るのがベストだ。 プレゼントだが、取引先などの場合はチョイスが難しい。文房具、グラスなどの割れ物、現金、靴や靴下は、目上の方に贈るのはマナー違反とされているからだ。
こんな時は、フラワーギフトが安全だ。縁起の良い花を選べば、華やかでおめでたい雰囲気も演出できる。そのほか、好きな品物を自分で選べるカタログギフトという手もある。 メッセージには、送る方の功績を称える言葉や、取引先の発展や活躍を祈念する文言などを入れると良い。
まとめ
人事異動のお祝いは気後れしてしまいがちだが、昇進・昇格の違いやお祝いの仕方を知ることで、ハードルは一気に下がる。 この記事が、尊敬する上司やお世話になった取引先の担当者へのお祝いの気持ちを、正しく伝える一助になれば幸いである。
■プロフ文 文/木戸史(きどふみ)
立命館大学文学部卒業後、営業、事務職、編集アシスタントなどを経て、社会保険労務士事務所で社労士として勤務。現在はライターとして活動しており、社労士として多くの中小企業に携わった経験を生かし、ビジネスマンに役立つ法律知識をできるだけわかりやすく発信している。