新卒の部下が配属されたり、異動を体験して、コミュニケーションの必要性を感じる毎日を過ごしていると、「話を聞く技術」や「傾聴」についての本が目に付くようになる。しかし、実際に良さそうな本を選び、読んで実践しても、なかなか思ったような効果は得られない。
プロカウンセラーの諸富祥彦(もろとみよしひこ)先生は、「これまでの本の多くは話を聞く側がスキルフルで有能であることに力点が置かれていたように思います。いくら聞く側が有能で技術に長けていても、話す側、聞いてもらう側にまったく意欲がなければ、それはよい結果にはつながりません。『聞く―聞いてもらう』『わかる―わかってもらう』という関係は、本来二人でつくり上げていくものです」と言う。
そして、一般の人が読んでも理解しやすいように「とことん、わかりやすく」、しかも「プロのカウンセラーの最高レベルの傾聴の技術」をふんだんに、わかりやすく示した本として、このほど『プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術』(SBクリエイティブ発刊、定価900円+税)を発刊。傾聴は、聞いてほしい側、聞く側の「お互いが協力して、二人でつくっていくプロセスだと主張している。
最大のポイントは「ていねいに聞く」こと
新刊書では相手を動かしたい、信頼を得たい、やる気を引き出したい時に効果的なセリフや行動を、豊富な例を挙げて紹介しているが、実際に上司と部下の1on1ミーティングを絶対成功させるプロカウンセラー技について具体例を上げている。
部下 取引先の〇〇さんにモヤッとしちゃって
上司 なんだか最近、グチが多いね。どうしたの?
部下 言われたとおりの条件で企画書をだしたんです。でも条件自体に間違いがあって、なのに、しれっと作り直しだって言ってきて・・・・・・
上司 でも自分では確認しなかったの?そうやって人のせいにばかりしていたら成長しないよ。私だったら確認するけどね。
部下 (こころの声)ああ、この上司にグチをこぼさなければよかった
ありがちな会話だが、部下の気持ちを察すると、理解されている気分にならず、ストレスフルで激しくやる気が削がれてしまうはず。「人のせいにばかりしていたら成長しない」とまで言われたら、腹も立つ。この会話の問題点は上司が部下の話をていねいに聞いていないことだと諸富先生は考えている。
上司と部下の1on1ミーティングの重要なポイントは部下の気持ちをていねいに聞くこと。そして、話の内容だけでなく、部下の思いを汲み取って聞くことだと諸富先生は言う。「あなたが上司の立場であれば、なんだそんなことか。ていねいに聞くなんてできていると思った人もいるかもしれません。
けれども、話の内容だけでなく、部下の気持ちを汲み取って聞くというのは、私達が思っている以上に、はるかに難しいことです。自分では聞いているつもりでも、ただ向かい合ってうんうんとうなずいているだけで、本当には聞けていないことがしばしばあります。部下の方は聞いてもらっていない、わかってもらえていないという不全感を募らせてしまいます」。
聞く側の大原則と4つのテクニック
そして、1on1ミーティングの聞く側の大原則として、「でもね」「そうは言ってもね」を言わないこと。せっかく話をしてくれた、せっかく話を聞かせてもらったら、そのままそれで終わることが大切で、「でも」と相手の話を批判しない、否定しない点をアドバイスしている。
諸富先生によると、人は相手から批判されない、否定されないという安心感があるからこそ、存分に、自由に自分の気持ちを語ることができる。1on1ミーティングでも絶対に相手を批判してはならない。「でも」や「そうは言っても」と否定しないことが大切だと教えてくれた。
そして、1on1ミーティングを成功させるには4つのテクニックがあると言う。
1)説教したいのをグッと飲み込む
2)「あなたはどうしたのかな」をたずねること
3)一分間「なるほど」「うん、うん・・・・・・」とうなずきながら黙って聞く。それ以外は言わない
4)最後に、「あなたなら、きっとできると思う」と信頼と期待を伝える
この4つを繰り返すだけで、関係は必ず改善していく。諸富先生によると、「まずは4つのテクニックを試してみましょう。形から入り、継続していければ、マインドは後からついてくるものです」と教えてくれた。
4つのテクニックを踏まえて前回の上司と部下との会話を再現してみよう。
部下 取引先の〇〇さんにモヤッとしちゃって
上司 〇〇さんにイライラしているの、どうしたの?
部下 言われたとおりの条件で企画書をだしたんです。でも条件自体に間違いがあって、なのに、しれっと作り直しだって言ってきて・・・・・・
上司 そうか・・・・・・それは大変だね。イライラしちゃうね
部下 (こころの声)ああ、わかってもらえた!
部下の立場で読み解くと、上司は自分の言葉を繰り返してくれた。自分の気持ちに共感してくれていると感じられる会話である。諸富先生は上司と部下との関係では、「本当に理解し合える関係」を求めるのは求めすぎで、完全に理解し合おうとすればどんな上司と部下とでもうまくいかなくなる。理解し合わず、相手のことがよくわからなくても、信頼し、期待することで、上司と部下との関係は必ず改善していくと言う。
上司に話をちゃんと聞いてもらえている。自分がどんな気持ちで日々の仕事に取り組んでいるかをわかってもらっている。自分に責任のある仕事を任されるのは、上司に信頼され、期待をかけられているからだと思ってもらえれば、優秀な部下が退職することはないとアドバイスしてくれた。