喉が渇けば何かを飲もうとするし、トイレットペーパーが品薄になるとわかれば急いで買出しへ向かうなど、人が〝せっかち〟になるのは仕方がない部分もある。
その〝せっかち〟が功を奏するのか否かは別問題だが、安易に性急な判断を下して後で後悔はしたくないものだ。そこでそうした軽率な行ないに〝待った〟をかけられるライフハックが最新の研究から報告されていて興味深い。そのポイントは〝結果重視〟にある。
軽率な意思決定に〝待った〟をかける方法とは
たとえば「今もらえる1万円」と「1か月後にもらえる1万1000円」のどちらか選ぶことを求められた場合、多くは今すぐに1万円をもらおうとすることが先行する研究で示されている。
報酬のうれしさには時間が関係しており、なるべくすぐにもらえるほうが価値を大きく感じ、喜びが大きくなるのだ。後でもらうと多少は高い金額になるとしても、待たなければならない時間の長さでその価値は割り引いて感じられてくる。これは心理学で「時間割引」といわれている。
時間割引の〝割引率〟は人それぞれで、1か月後にもらえる金額が1万500円であっても待つという者もいれば、1か月後に2万円もらえたとしても待たずに今すぐ1万円を手にしたいという者もいる。1万1000円程度であれば、多くは待たずに今すぐ1万円を入手するほうを選ぶという。つまり我々の多くは程度の差こそあれ〝せっかち〟なのである。
しかし落ち着いてよく考えてみれば、1か月待って10%多い金額を手にするほうが、特に今の低金利の世の中ではかなり得である。今すぐもらった1万円をギャンブルの原資にしようとする者もいるかもしれないが、それはきわめてリスキーであることは明らかだ。
〝せっかち〟な意思決定がうまくいくのかどうかはもちろんケースバイケースなのだが、後から思い返せば軽率であったと後悔することがあるかもしれない。
面白いことに最新の研究で、この〝せっかち〟さに〝待った〟をかけられる可能性が示唆されている。情報開示の順序を考慮することで〝結果重視〟のマインドに導き、拙速で軽率な意思決定を防ぐことができるというのだ。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校と中国の浙江大学、杭州師範大学により合同研究チームが2024年4月に「Nature Communications」で発表した研究では、〝せっかち〟になるかどうかは選択肢の提示方法に関係がある可能性が指摘されている。
合計353人の大学生ボランティアが参加した実験で参加者はコンピュータ画面上で忍耐強い選択肢とせっかちな選択肢のどちらかを選択することを求められた。
その中にはたとえば、7日以内に40ドルを受け取るか、30日後に60ドルを受け取るか、どちらかを選ぶ設問があった。前出の「時間割引」の観点に基づけば、7日以内に40ドルを受け取るほうを選ぶ者が多いと予測でき、実際の結果もそうであった。
しかし今回の実験では情報を提示する順番を変えたり、判断に要する時間にタイムリミットを設けるなどのさまざまなバリエーションが施されたのである。
収集されたデータを分析すると、最初に待つ期間である「7日」と「30日」を示されたあとに報酬の金額を提示した場合、予想通り「7日」を選択する者が多かったのだが、逆に最初に「40ドル」と「60ドル」という報酬を提示した後に、待つことになる期間を知らせた場合には、興味深いことに30日待つ「60ドル」を選ぶ者のほうが多かったのである。
我々は基本的には〝せっかち〟なのかもしれないが、得られる報酬という〝結果〟を先に知らせて重要視させることができれば、より賢明な判断に導くことができる可能性が示されたことになる。予期される結果を先に知るなどして〝結果重視〟になることができれば忍耐強く賢明な意思決定ができそうである。