田舎のわさび農場がなぜ命名権獲得?シントトロイデン本拠地に託した地域活性化の願い
シントトロイデンの本拠地・大王わさびスタイエンスタジアムに掲げられた看板(写真提供=シントトロイデン)
23-24シーズンの欧州サッカーリーグもいよいよ佳境を迎えている。最高峰クラブを決めるUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)も間もなくトップ4に絞られるところだ。
ベスト8に勝ち上がったアーセナル、マンチェスター・シティ、バイエルン・ミュンヘン、アトレチコ・マドリードのホームスタジアムを見ると、エミレーツ、エティハド、アリアンツ、シビタスといった会社がそれぞれ命名権を取得している。
ご存じの通り、エミレーツとエティハドはUAEに拠点を置く航空界会社であり、アリアンツは保険会社を軸とする世界有数の金融グループだ。そしてシビタスはスペインの巨大不動産会社だ。スタジアム命名権を取得する企業というのは、ファン・サポーターへの遡及効果が見込まれる旅客・旅行・金融などの分野、あるいはスタジアム建設に関連する建設や不動産などの分野が中心になっていると見てよさそうだ。
サッカーと地元愛に溢れる大王わさび農場の深澤社長(写真提供=シントトロイデン)
安曇野のわさび農場がなぜベルギーのスタジアムの命名権を?
しかしながら、目下、6人もの日本人選手を抱えるベルギー1部・シントトロイデンの本拠地・大王わさびスタイエンスタジアムは、長野県安曇野市の大王わさび農場が2023年1月から命名権を取得している。スタジアムとわさびというのは全く接点がないようにも映るだけに、なぜこのような形が成立したのか。そこは非常に興味深いポイントだ。
「シントトロイデンの経営権を持つ日系企業のDMM.comの関係者と縁があって面識を持つようになり、スタジアム命名権取得の話をいただきました。僕は2000年代にロンドンに滞在していた時期があり、当時、住んでいた家がエミレーツスタジアムの隣だったり、また自身もサッカー好きだったりと、何かとサッカーが身近な所にあるのは確かだったので、これは何かとんでもない縁なのかな…と考えました。
ただ、我々のようなわさび農園の名前をベルギーのスタジアムに出したとしても、営業的なメリットはほとんどない。自分としては、サッカーを通して安曇野という土地をより多くの人に知ってもらいたいという思いが非常に強かったんです」
熱っぽく語るのは、大王わさび農園を営む有限会社・大王の深澤大輔社長(40)。深澤社長は明治学院大学を卒業後、ロンドン芸術大学に留学し、靴職人に師事。高級靴仕事に携わっていたが、2018年に地元に戻って家業を引き継いだ5代目社長だ。
安曇野の名所となっている大王わさび農場(写真提供=シントトロイデン)