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安曇野のわさび農場がなぜ命名権を?ベルギー・シントトロイデン本拠地に託した経営者の願い

2024.04.25

コロナ禍真っ只中に社長就任。わさび作りを1から学ぶ

2020年4月から経営トップの座に就いたが、まさにコロナ禍真っ只中。観光客が激減し、事業の柱であるわさびの生育環境も芳しくないという二重苦で、非常に苦しいスタートを余儀なくされたようだ。

「僕が社長のなった時は、コロナとわさびの出来の悪さという苦境が重なって、本当に大変でした。家業とはいえ、自分自身もわさび作りに長く携わってきたわけではなかったので、奥深いところまでは知らなかった。そこで、外部の方から作り方を1から学び、畑の歩き方を変えたり、畑を作り直すなど、できるところから手を付けていきました。

日本のわさびは静岡と長野が2大産地で、2県で全国の9割を占めています。安曇野は長野県の中心で、扇状地の湧き水で育つところが最大のポイントです。僕の先祖に当たる初代が湧き水の出やすいこの場所に開墾したのが始まりで、今は15ヘクタールという広大な畑があります。

ただ、気候の変化によって近年は水量が大幅に減っているという課題があります。わさび自体も苗がなかなか手に入らなくなり、日本中のわさび農家が苦労しています。そういったことにも危機感を抱きましたし、このままじゃダメだと思ったんです」と彼は厳しい現実を痛感。少しでもわさびを取り巻く環境がよくなり、安曇野が活性化できるようにしたいと自ら動き出した。

昨今はわさびの苗がなかなか手に入らなくなっているという(写真提供=シントトロイデン)

スタイエンの命名権獲得もその一環。安曇野という土地、わさびのという日本特有の食文化をより多くの人々に認知してもらい、安曇野に足を運ぶ人を増やしたい…。地域活性化への強い思いが深澤社長を突き動かし、2023年1月から3年間の契約で資金を投じることを決断したのである。

「シントトロイデンには現日本代表の鈴木彩艶選手やパリ五輪を目指している山本理仁、藤田譲瑠チマ選手など将来性あるタレントが何人もいます。今季限りで引退する岡崎慎司選手も在籍していますし、世界的プレーヤーになった遠藤航(リバプール)、冨安健洋(アーセナル)、鎌田大地(ラツィオ)も羽ばたいていきました。

僕自身も海外で暮らした経験があるので分かりますが、異文化の中で過ごすことで人間的にもすごくタフになる。彼らが大きく成長し、活躍することで、サッカーを通して日本の人々に大きな希望を与えることができると確信しています」

インバウンド増加で来場者は増えているが、もっと地域活性化が必要

熱心にサッカーを見続けている深澤社長にしてみれば、シントトロイデンの躍進、選手のブレイクに伴って、安曇野がより注目されるようになれば理想的。近年は円安という追い風もあり、インバウンドの観光客が増加。ポジティブな方向に進んでいる様子だ。

「この1年間は概算ベースで80~90万人の来場者があったと見ています。農場自体の売上げもコロナ禍前よりも増えている。それは有難いことなんですが、地域全体が活性化したとは言い切れない部分もありますね。コロナの間に営業休止した宿泊施設や商店も数多くありますし、もっともっと地域経済が潤うように仕向けていきたいです。

松本・安曇野エリアは地理的な問題もありますね。新幹線が通っている長野・北陸エリアに比べるとアクセスが悪く、どうしても人が来づらい環境にある。先々を考えても、もっと積極的に人を呼び込むことが必要だと僕は考えています。

わさびそのものを知らない外国人も少なくない(写真提供=シントトロイデン)

4月にはベルギーで開催されたジャパン・フェスにも出店

そういった土地柄だからこそ、わざびという素晴らしい食文化の存在をアピールし、魅力を伝えたい。僕自身や農園のやるべきことは少なくないと思っています」と彼は目を輝かせる。

4月中旬にはベルギーへ赴き、シントトロイデンの隣町・ハッセルトで開催されたジャパン・フェスに参加。シントトロイデンとも協力しながら、わさびを使った食文化の提案などを行った。欧州ではすしブームが広がり、すし店の数も年々増えている。ロンドンやパリ、フランクフルトなどの大都市のみならず、地方都市にも日本食レストランの出店が目立つほどだ。

とはいえ、わさび自体の認知度はそこまで高くない。粉わさびと本わさびの違いを理解している人はほんの一握りではないか。そういった現状を変えていくことも、深澤社長にとっての重要テーマだという。

外国人には珍しいわさびを知ってもらういい機会になったという(写真提供=シントトロイデン)

命名権獲得でシントトロイデンと大王わさび農園がウイン・ウインに

「我々のシェフがさまざまなメニューを考えたんですが、わさびとクリームチーズ、サーモンを使ったカナッペなどは日常的に食べていただけると感じました。わさびという新たな味覚が加われば、食卓もより多彩になる。そういう魅力を知っていただければ、我々の農園や安曇野という町への興味も抱いてもらえるのかなと期待しています。

実際、我々の農園でもわさびアイスクリームは人気で、来場者の半数が購入されています。そうやっていろんな食べ方を考える楽しみもあるので、今回の命名権取得を機にアクションを起こしていければいいと考えています」

わさびとサッカーという日頃は接点のない異物が交わることで新たな価値や魅力が生まれ、メリットがもたらされれば、大王わさび農園とシントトロイデンの両方にとってプラス。両者がウイン・ウインになれる今回のケースは異業種コラボレーションの可能性を改めて示した好事例と言っていい。

「今の契約は2025年12月までですが、先も延長できるかどうかは自分たちの業績次第。サッカー、シントトロイデンとのいい関係性を持続できるように頑張ります」と笑顔を見せた深澤社長のさらなる奮闘に大きな期待を寄せたいものである。

わさびを使った斬新なメニューも提案(写真提供=シントトロイデン)

取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。

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