地方創生のハブとなる、廃校の名前を残したヘリポート
それと同時に、離着陸できる場所の開発も行っている。航空法で、ヘリは飛行場(空港及びヘリポート)の他、場外離着陸場でのみ離着陸できると決められている。
「一定の条件を満たした土地の申請を出し、許可が下りれば、場外離着陸場は確保できます。かつて、ヘリが離着陸できる場所は、全国約 1万 3000 か所以上ありました。私たちは大手旅行会社と提携し観光や出張という目線から土地を選定。場外離着陸用地契約と許可申請支援も行っています」
この過程で、ヘリ輸送が地方創生につながることも実感した。
「2023年11月28日に、三重県と『ヘリコプター活用促進実証運航ツアー』を行いました。そのとき、廃校になった志摩市立越賀中学校のグラウンドを場外離着場にする申請書類に、『旧越賀中学校グラウンド(ヘリポート)』と学校名を残したのです。すると、地元の方から“こうして母校の名前が地図に残るのがうれしい”とお話しくださいました。ここは、今後も地域創生のハブとなる施設になる可能性があります」
こういった場外離着陸場の申請には、自社のヘリコプター開発部門の技術者から話が聞けたことも大きいという。
「私は2002年に入社してから、発電所の開発や誘導機器の開発を行っていたので、ヘリのことはわからなかったんです。ヘリの単発機と双発機の違い、離着陸時の条件、洋上飛行の場合の陸岸からの距離などを教えてもらえるプロフェッショナルが社内に多い環境だったことも『Z-Leg』のリリースに繋がっていると思います」
要介護の方にも旅行の楽しみを提供したい
ヘリの旅客利用は、高齢化社会の旅の移動の選択肢になりうる。2021年に観光庁が発表した『観光を取り巻く現状及び課題等について』をひもとくと、世代別旅行者数は70代以降減っている。旅行しなかった理由について、70歳以上の約30%が健康上の理由をあげているのだ。
「ご高齢の方や、お体が不自由な方にも、旅の喜びを感じていただきたいのです。でも、旅となると、移動が長時間になり、途中のトイレなども大変です。その点、ヘリなら移動が速い。東京―草津温泉(群馬県)間が48分ですから、本人はもちろんのこと、ご家族にとっても負担が軽いです」
また、移動にハードルがある人は見ることを諦めざるを得なかった風景も、ヘリならその場所に行ける。
「例えば、尾瀬国立公園や屋久島などには物資用のヘリポートがあります。そこに旅客輸送できれば、お体が不自由な方も、素晴らしい風景を堪能し、その日のうちに自宅に帰ってこられる。今、私たちは国や自治体、山小屋などの現地の事業者、環境保護団体と話し合いを重ね、一定の条件付きで、旅客輸送ができないか方向を探っているのです」
国立公園が抱える問題は、し尿用のポリタンクやごみの搬出だ。そのヘリ輸送もできないかと、解決策を考えているという。ヘリの旅客移動が社会実装されれば、社会課題の解決にもつながっていく。
「ヘリは安全性も高く、優れた乗り物です。ヘリなら、旅先の滞在時間を長くできる。例えば、夕方まで仕事をして、ヘリで旅先に行き、その地域の食材を使ったディナーを食べられる。そして朝ご飯をゆっくり食べてから、都市に戻ることもできます」
「また、空飛ぶクルマが活用される時代も見据えて活動しております。空飛ぶクルマが出来る前に準備できることは進めていきます。そして、将来的には空飛ぶクルマも含め選択肢を増やすことで、お客様にとってより利便性が高いサービスを実現致します。」
いま、有名シェフが地方に移住してレストランを開いたり、高級宿泊施設や、タイムシェア別荘が増えている。そういう宿泊施設の近くに、ヘリポートや場外離着陸場はある。
2023年10月、岸田首相が「ライドシェア」に言及してから、「移動」が注目されている。ヘリもまた、ハイエンドな移動手段として、需要は増えていくはずだ。
「Z-Leg(ゼータ・レグ)」
スマホからヘリコプターを手配できるプラットフォーム
日時・出発地・目的地を入力するだけで、ヘリコプターはもちろん、搭乗前後のタクシーやハイヤーの予約も可能。現時点では、東京へリポート、県営名古屋空港、神戸空港を拠点としている。
車なら3時間かかる、東京-草津温泉は48分で、奥飛騨、上高地、熊野、日光への運航手配が可能。今後、仙台空港、佐賀空港、八尾空港、広島へリポートなどの他の空港やヘリポート、九州や淡路島など、航路や目的地を順次拡充している。
ゼータ・レグ https://www.z-leg.com/
メールアドレス z-leg.info@khi.co.jp
川崎重工業株式会社 航空宇宙システムカンパニー 新事業戦略総括部 新事業推進部
■連絡先
川重岐阜サービス株式会社
エアトランスファ推進部
(岐阜県知事登録旅行業 第3-361号)
〒504-8710
岐阜県各務原市川崎町1番地
営業時間:平日9:00~17:00
取材・文/前川亜紀