弥生時代から存在していたとも言われる日本伝統の履物「下駄」。それを現代人の足にフィットするように再設計し、誕生した人気シューズブランドが「Re:getA(リゲッタ)」だ。
下駄の機能性に洗練されたデザインを取り入れた、“オシャレで歩きやすい靴”とのことだが…正直、下駄って歩きにくいイメージしかない。何よりバランスが悪く、軽やかに歩けるとは思えない。
なのにだ!下駄の特長を活かしたシューズやサンダルで業績を伸ばしているという。一体なぜ株式会社リゲッタは成功したのか?
今回、代表取締役の高本泰朗さんに伝統を現代に伝える術と斬新なアイデアで成功を勝ち得る秘訣を伺った。
――「リゲッタ」立ち上げの経緯から教えてください
「立ち上げたのは2005年1月なんですが、ブランドコンセプトにはかねてから3つの柱を考えていました。1つは下駄の機能性を現代に復刻させたい、2つ目は日本製の履き物をダイレクトに伝えたい、そして3つ目は中国製によって減少してしまった地元生野区の靴の生産を復活させたいという想いです」
――なぜ下駄に注目されたんでしょうか?
「当時、日本の履き物と言えば?と考えた時、真っ先に浮かんだのが下駄でした。実はわらじも候補にあったんですがシンプルに『下駄=日本』という絵が浮かんだんです」
「その後、下駄のことを調べていくとテコの原理で足が前に進むこと、地面からの距離が空くことで地面の熱や冷えの影響を受けにくいなどの発見がありました。これは当時、僕が学んでいたドイツ靴の機能性や足の不自由な方のための技術(技師装具士の技術)と同じだったんです。この発見から下駄を現代に復活させた方がいいと、より強く思うようになりました」
そんな高本さんは神戸のメーカーで修行した後、靴の下請け業を営んでいた家業へ。その直後だった、人生を変える転機に遭遇したのは。
「2000年の年末、取引先のメーカーから呼び出され、突然発注を打ち切ると通告されたんです。安い海外製品の影響で零細企業の我が家は生活に苦しむほど仕事がなくなりました。地元生野区で共に靴を作る職人さんにも仕事を出せず惨めな気持ちでしたが、「その状況をなんとかする。昔のように日本製の活気をつくる!」という想いの表れから日本古来の履き物・下駄に望みをかけようと思ったんです」
「必要なものを作れば売れる!」 崖っぷちから復活を遂げた戦略とは?
突如訪れた廃業という大ピンチ。しかしそれがチャレンジを加速させ、チャンスへと導いていく。
2001年、高本さんは単なる下請けを脱却し、自らのアイデアで勝負する靴メーカーへ事業転換。代表取締役ながらデザインや設計も行い、日本製にこだわったシューズを次々と開発していった。
2005年、初めて手掛けたオシャレで歩きやすいコンフォートシューズ『リゲッタ』が大ヒットすると、続けざまに唯一無二のサンダル『リゲッタカヌー』を発表。
当時、海外ではクロックスのような無骨なサンダルが流行し、その人気は日本にも到来。同様に大胆で遊び心のあるデザインの『リゲッタカヌー』は高本代表の狙い通り、売れに売れた。
「いつかやりたいと思って温めていたサンダルだったんですが、正直めっちゃ自信ありました笑」
ずっと心に秘めていた“必要なものを作る”を素直に実践した。その想いが会社を救い、多くの職人を救った。そんな高本代表が心血を注いで生み出す商品は、とにかくこだわりが凄い。下駄の魅力に時代の潮流を添え、我々の足元をそっと包み込んでくれる。
「大事にしているのは、履いていただいた時に「土踏まずが気持ちいい」「程よい弾力のおかげで足の裏のカーブに寄り添ってくれる」と感じてもらえるような設計です。足裏の使用面積を格段に広げることができる設計なので歩くことにも立ちっぱなしの環境でも疲れにくくなっています」
そして歩き心地も追求した。
「靴底の踵とつま先に独特のカーブ、そして1.5cmの厚底がポイント。かかとの着地部分は最初からすり減ったような形状になっているので、着地時にスムーズに地面をとらえることができるんです」
ここに下駄のようなテコの原理が活かされている。つま先に少しの力を入れるだけで踵が持ち上がり、次の一歩が楽になり歩幅が広がる。
さらに1.5cmの厚底は硬い路面の衝撃を吸収し、アスファルト特有の熱や冷気を緩和してくれるため、蓄積される足への負担を減少。まさに「下駄」の応用。
機能性だけではない。履き心地に加え、イタリア靴の洗練されたデザインのエッセンスを取り入れた。
丸みを帯びたつま先のフォルムは可愛らしさに加え、指先の開放を促し、冷えやむくみになりにくい配慮が施されている。オシャレで歩きやすい靴は確かな戦略と職人の技で日本中を魅了したのだ。