入社した時にはやる気でみなぎっていた人が、徐々にやる気をなくしていく……。それは、リーダーや周囲の些細な言動が原因かもしれません。
社員のモチベーションが低下する職場風土の改善には、実は「関係密度」がカギになるのだそう。この「関係密度」とは何なのか、そして高めるポイントとは?
700を超える企業の職場風土改善に関わってきた中村英泰さんの著書『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』から一部を抜粋・編集し、〝社員のやる気を奪う間違った職場づくり〟を打破するヒントを紹介します。
ピラミッド型組織とアメーバ組織の間をつなぐフラット組織
職場の「関係密度」を高めて形成された文化が行き渡った組織。
私は、このような組織のことを、イメージがしやすいように「フラット組織」と名付けました。
具体的な特徴はざっと次の通りです。
・役職や部署にとらわれずに、自由なコミュニケーションがとれる
・企業が存続する目的を共有し、達成するためにどうすべきかを全員が考えている
・企業は、個人の成長を考えて、意見を最大限に取り入れている
・上司の判断の真意がわかる、部下の判断の真意もわかる
一般的な言葉でいえば「活発な意見交換がされている風通しのよい企業」といえるでしょう。
従来のトップダウンのピラミッド型組織と、社員それぞれの主体的な活動が尊重されるアメーバ組織の間をつなぐ組織に位置づけられます。
一定の規模を超える企業の多くは、オペレーションを迅速に行うためにピラミッド型組織になっています。
ピラミッド型組織では、メンバーの上下関係で秩序が保たれやすく、安定した組織運営が可能になる反面、特に新しいことに取りかかろうとすると意思決定に時間がかかり、停滞するデメリットが指摘されています。
また、下位層社員の意見は、主に経験値が少ないことを理由として、ほとんどは採用されません。
組織の目的やビジョンの決定に関与することができないことから、意欲低下を招く要因の1つにもなっています。
こうしたことをふまえて、ピラミッド型組織は今の時代にはそぐわないとの声も聞かれます。
そうしたなか、これからの変化社会にふさわしいのは、アメーバ組織だといわれています。
京セラの故稲盛和夫氏が実践したアメーバ経営では、組織をアメーバに見立てて、リーダーのもとで5〜10人程度の小集団に細分化し、各組織を独立採算制で運営するというものでした。
最新の組織論におけるアメーバ組織は、さらに先鋭的になり、上下関係はもちろん、チームも意思決定者も固定されていません。
すべての社員が意思決定者であり、その時々に応じて、最適な意思決定を行っていきます。
しかし、ここで疑問がわいてきます。
これまでピラミッド型組織で培ってきた文化を横に置いて、突然アメーバ型組織に変貌を遂げられるものでしょうか。
■組織の形は変えられても、人の意識や行動はすぐ変えられない
ピラミッド型組織からアメーバ組織への移行が容易ではないのは、想像がつきます。
なんといっても、企業の組織構造の中核である指揮命令系統を入れ替えるのは、組織を一度解体するようなドラスティックな変革です。
ただ、いざとなれば組織の形自体は、変えられないわけではありません。
それよりも、問題は、そこで働く人たちの意識や行動です。
ピラミッド型組織の会社で働いていた人が、上下関係がなくなったからといって、「年齢や経験、以前の職位にとらわれずに振る舞ったり、組織の目的にとらわれずに自ら目標を定めたり、組織横断で仲間を集めてプロジェクトを立ち上げる」ことがすぐにできるようになるでしょうか?
ピラミッド型組織からの脱却を真剣に検討しているのなら、ステップ・バイ・ステップで進めていくほうが良策でしょう。
具体的には、次のような経験を積むことです。
・役職や階層の溝を越えて活発な意見を交換する経験
・部門間の溝を越えたチームをつくる経験
・ほかの社員との心理的な溝を越えて自由なコミュニケーションを図る経験
これは、アメーバ組織を目指す土壌をつくるために、まずはフラット組織に移行するということです。
ポイントとなるのは、フラット組織では、ピラミッド型組織と同様に、特定のリーダーが意思決定を行うということです。
そのため、組織の体系を変えることはなく大がかりな外科的手術を用いる必要はありません。
フラット組織は、そうした組織の形式的側面ではなく、組織自体の職場風土や文化といった生的側面に焦点を当てた考え方です。
それは、社員間の会話などによって関係性が活性化する、すなわち「関係密度」を高めることを基盤としています。
つまり、組織の体型を変える外科的手術と違って「人本来が持つ回復力に視点を置いた自然治癒的療法」と考えることもできるでしょう。
時間はかかります。
何度もいうように、変えるのが本当に難しいのは、組織の形ではなく、働いている私たちの考えや意識、行動なのですから。
■「関係密度」が高いことが自律型に動くための最低条件
このところ、自律型人材の育成という言葉を打ち合わせで耳にする機会が増えてきました。
企業がワンマンやトップダウンの体制でなくても、自分の所属する部署の上下関係が厳格だったり、職場風土が悪かったりすると、自律して働く難易度が一気に高まることを、社員の外部面談をしていても切に感じます。
ここで、話の展開をスムーズにするためにも、「自律」とは、「自律型人材」とは、なにかを整理したいと思います。
まず、自律とはなにか、ネットで検索すると、「自分で立てた規範に従って、自分の事は自分でやっていくこと」と書かれています。
次に、自律型人材はどうでしょう。
響きのよい言葉ですが、正式には「キャリア的側面から自律(キャリア自律)している人材」のことを指しています。
そこでキャリア自律とはなにかを探っていくと、産業組織心理学会では、「自己認識と自己の価値観、自らのキャリアを主体的に形成する意識をもとに、環境変化に適応しながら、主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組んでいること」と定義しています。
この2点を整理すると、自律型人材に必要とされるのは、次の5つの要素です。
・自己認識と自己の価値観、キャリアを主体的に形成する意識がある
・自分で規範が立てられる
・自分のことは自分でやっていくという主体的行動ができる
・環境変化に適応できる
・継続的にキャリア開発に取り組んでいること
申し訳ありませんが、キャリアの専門家として10年間以上取り組んできた私も、この5つを備えているかと問われれば、首を縦に振る自信がありません。
とても難易度の高いことを要求しているわけです。
それでも「自律型人材を目指すこと」を部下や社員に告げるのであれば、まずそれが可能な組織・職場になっているかどうかを考える必要があります。
職場風土が悪いのなら「ムリを承知で申し上げます」もしくは「当社は諦めて、他社で働くことで」と、枕詞を添えるべきなのではないでしょうか。
考え自体は正しいことですし、流行りの言葉なので使いたくなる気持ちもわかりますが、創発型風土と認められた組織やチーム以外では簡単に用いないほうがよさそうです。
言っても実現できないムダなことを宣言すると「また、無理なことを言っている」とか「理想を押し付けられている」などと社員は感じ、やる気をなくしていきます。
実現しようとする一定期間、質の低い接触が繰り返されて「関係密度」が低くなる危険性があるでしょう。
☆ ☆ ☆
いかがだったでしょうか?
社員のやる気を左右する「関係密度」が高くなると、「社員の不本意な離職率が低下する」「コミュニケーションの齟齬が減る」「他責志向が、自己課題自己解決型に向かう」などのメリットがあるそうです。
部下や後輩との接し方に悩んでいる人は、心地良い職場づくりのヒントが詰まった一冊『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』をぜひ書店でチェックしてみてください。
社員がやる気をなくす瞬間
間違いだらけの職場づくり
発行所/株式会社アスコム
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著者/中村英泰(アスコム)
株式会社職場風土づくり代表
ライフシフト大学 特任講師
My 3rd PLACE 代表
1976年生まれ。東海大学中退後、人材サービス会社に勤務したのち、働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創るために起業し、法人設立。年間100の研修や講演に登壇する実務家キャリアコンサルタント。
監修/田中研之輔