本当にAIは人類の脅威なのか
生成AIの話に戻りますが、私達の生活にはすでに、生成AIだけでなく数多くのAIやその周辺技術が溢れています。しかし、単体で人間の活動を脅かせるレベルの人工知能は一つとしてなく、いずれもツールの域を出ていません。
小説を書いている身で、夢のないことを言いますが、現時点ではAIが何らかの職業の職務を代行することも、人の手から仕事を奪うことも難しいでしょう。その理由は、いずれも人が使用し、人が出力結果を扱うものだからです。
先の絵の例で言えば、どれだけ精緻で既存のイラストレーターの画風を模した絵をAIが描けるようになったところで、発案から構図の策定から作画をし、果てはそれをSNSにアップして他者から称賛を得て収益化に辿り着き、人間を蹴落としてコミュニティを牛耳るなんてことはあり得ません。
人がディレクションをし、人が操作して用い、人が発表し、人がビジネスをする必要があるのです。
しかしながら、単一機能に特化したAIを各分野・各種取り揃え、連携させることでより一層複雑な課題解決に用いることができると私は考えていて、その点においては人間一人の能力を軽々と超えていくと予想できます。その仮説に立って、連載小説の『TOKYO2040』へと反映させています、
そして未来社会の到来を待つまでもなく、身近なところではスマホがまったくそのものと言え、すでに各種AIの総合窓口となっています。
生成AIを脅威であるという観点で評価するならば、特に優れているのは人間よりも出力のスピードが速いことです。速い故に一定時間での出力が人間よりも遥かに大量となること、速い故に間違いのやり直しも物量でカバーできることです。
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」と言いますが、その鉄砲がマシンガンになっているので当たるまでの試行回数の増加を人間ほど気にしないで済むというわけです。
さらに、これは生成AIに限りませんが、インターネットを用いる以上あらゆるデータや出力物は国境を容易に超えられるというという点も忘れるわけにはいきません。
国境を超えてくるのですから、国内で内輪揉めをしているうちに、海外勢にいいようにやられるというのは、今に始まった話ではありません。
資源の無い日本かつ、人口減少が確定している今。可能な限りAIを使いこなして効率化を図り、DXを進めていくことで、本来人がすべきこと、人でなければできないことに注力していく。これが本来のあり方だと思っています。
最大の懸念点は人間の適応能力の高さ
私が思うAIにまつわる懸念なのですが、生成AIが普遍的に使われるようになったとして、生成AIの開発指針に出力が偏り、人間がそれに慣れてしまうという点です。
現在、文章を生成するAIも、絵を生成するAIも、一定の倫理に基づいて、出力を拒否されることがあります。
例えば時事ネタとして「スポーツ賭博に興じる人々」に関する出力をさせようとしても文章生成AIは賭博に関する詳細を語ってはくれませんし、ヌードグラビアを絵の生成AIサービスは作ってくれません。ヘイトスピーチなどもってのほかです。
けれど、人間社会にはこれらを話題にし、論じ、AIによる整理に頼りたくなる機会はたくさんあります。出力としてふさわしくないからと利用上、その概念まで否定するかのようにAIが振る舞うのは、それこそAI開発企業による私的な規制であり、独善的な言葉狩りや倫理の押し付けに等しいとさえ思っています。
反AIを掲げるとするならば「AI開発企業の倫理を正しいものとして良いのだろうか?」という観点で議論するのはとても有意義だと思っています。
もうちょっと身近な例を挙げると、私はこういうところには神経質なのですが、自分の文章がスマホのAI予測変換によって乱されていると感じることが多くあります。AIによって、多くの人が使う単語や熟語が優先的に出てきますから、明らかな誤用や誤字が変換候補に出てきて驚くだけでなく、次候補をタップしてもなかなか目的の語が出ず、これじゃないんだけどなぁと思いながらその語を探すのを諦めて、他の熟語を変換して出てきた漢字をコピー&ペーストしたり、言い換えをしてしまったりします。
特にこだわりがない人なら予測変換に出てきた表現を「お、いいな」と辞書も引かずに使ってしまうことだってあると思います。
こういったことを繰り返すと、人間には適応能力がありますから「AIが予測変換した単語をつなげて作文してしまう癖」や「予測変換で出てきやすい単語・熟語を用いた文章を入力する癖」がついてしまうというわけです。
これは由々しき事態です。
今回は生成AIにまつわる数々の話題を出しましたが、いずれも「最終的に使うのは人間である」という点に変わりはありません。
立場や視点によって、懸念されるべきポイントは様々ですが、最終的なゴールは人類そのものの将来にあり、そこへ向かっていくというコンセンサスのもと、冷静な議論を繰り返し、実装や運用に反映させていくことが肝要です。
文/沢しおん
作家、IT関連企業役員。現在は自治体でDX戦略の顧問も務めている。2020年東京都知事選に無所属新人として一人で挑み、9位(20,738票)で落選。
このコラムの内容に関連して新作小説を展開。20年後、DXが行き渡った首都圏を舞台に、それでもデジタルに振り切れない人々の思いと人生が交錯します。
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