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AIから守られるべきものは何か?生成AI利用イベントを中止に追い込んだキャンセルカルチャーの問題点

2024.04.19

何故生成AIと著作権が火種になるのか 

 ここまで述べたように、相当なプロセスを踏んで、現行の生成AIそのものは適法であり、不法な用法があるとしたら悪用する人の問題であるということがコンセンサスとなってもなお、「生成AIは人間のイラストレーターから搾取している」という論が後を絶ちません。

 それは生成AIや著作権法を理解するコストよりも、絵を見て判断するコストが低いからに過ぎません。

 判断コストというのはお金のことではなく、対象物を詳しく見たり読んだりしてそれが何であるかを理解するための労力のことです。絵は「誰だってパッと見りゃわかるだろう」と思われていて、実際にほとんどの人がそうしている。並べた。似てる。AIだ。技術による盗作だ。これではあまりに短絡的ではありますね。

 こういった切り口で煽るSNS投稿も紋切り型ですし、煽るに足るエビデンスをつけることなく、i2i(Image to Image)の画像を貼り付けて「元絵の画風を無断ですぐ盗める!」と囃し立てるのは、刃物や車を指して「人を傷つけることができる!」と騒ぐのとまったく同じです。適法かつ安全に便利に使っている人からしたら余計なお世話ですよね。

 イージーな情動に対して、法律や正論を含めた長い文章は判断コストが高いので、読み込まなければならないですし、まったく刺激的ではありません。

 権利というのはそもそも自然界に存在しないものなので、社会においては法によって規定されることで、人間が扱えるようになっています。その先人の叡智と苦労を無視してしまうのは勿体ないことです。

 重要なことだからこそ、読み込み、偏見に左右されることなく、対象と向き合って時代や社会に照らして解釈していく必要がある、そういうものです。

 こういった非対称性があるとはいえ、人々は反AIの過激で刺激的なSNS投稿や誘導的なまとめ、共感レジャーともいうべき居心地の良さと、怒りで他者を処断するカタルシスに引っ張られてしまいます。本来かけるべき判断・理解のコストを支払わずに易きに流れるのは致し方のないものなのでしょうか。

 例えば、生成AIの良い活用法について、例えば下記のように目を見張るものがあるのですが、こういったものも反AI派からは無視されがちです。

【関連記事】
RIETI – 漫画制作における生成AI活用の現状:2024春(独立行政法人経済産業研究所)

 生成AIによって、人々の創作・文化活動がワンステップ上がれる、そういう時期が今であると言えます。

安易な行動がデジタルタトゥーになってしまう

 冒頭のニュースもそうですが、こういった件もありました。

【関連記事】
署名「画像生成AIからクリエイターを守ろう」が賛同1万件間近に 「AI生成物のみ非親告罪に」などを主張(ITmedia)

 内心の自由や表現の自由は保障されているので、どのような意見を持ち、表現していくかについて、誰かがそれを止めるというものではありません。

 しかし、技術そのものと人間が悪用した事例を混同したまま他者に責めを負わせよう、規制の発端にして罰してもらおう、というのは社会の発展の足かせになると言わざるを得ません。AIへの得も言われぬ不安を持つ人がいる中で、先走りともいえるSNS上での賛同を募る行為や、無理解からの地に足のついていない反対運動は、いかがなものかと思います。

 例えば上記の署名活動の根拠の一部を取り上げると、対象をAI生成物に限ることは大変に難しいことです。現代社会においてAIは多種多様で、様々な機器に搭載されているからです。例えば「既存の絵を読み込ませてプロンプトを入力したら似た絵が出力されるサービス」という狭い見方だけならその企業相手に何らかの訴訟を起こせばよいという話ですが、そうではないところにこの問題があります。

 同様に、一般の人々の目に触れ、幅広く影響力があるという点で、出力されたものを取り扱うのはネット上のSNSやデータ販売サイトといったプラットフォーマーになりますので、掲載や販売されるものの信頼性は各種プラットフォーマーが方針と実態でそれぞれ評価されるものであります。

 それらをせずにAI生成物へ全体的に網をかけたいとすると、二次創作における著作権侵害の非親告罪化にまで及んでしまいます。

 また、この反対運動はそれを望んでいるように見えます。

 著作権侵害の非親告罪化については、かつてTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に合わせて著作権法が改正された際に、二次創作は海賊版等の犯罪行為を除き非親告罪化を免れました。

【関連記事】
環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第70号)について


2)著作権等侵害罪の一部非親告罪化(第123条第2項及び第3項関係)
改正前の著作権法においては,著作権等を侵害する行為は刑事罰の対象となるものの,これらの罪は親告罪とされており,著作権者等の告訴がなければ公訴を提起することができませんでしたが,今回の改正により,著作権等侵害罪のうち,以下の全ての要件に該当する場合に限り,非親告罪とし,著作権等の告訴がなくとも公訴を提起することができることとしています。

[1]侵害者が,侵害行為の対価として財産上の利益を得る目的又は有償著作物等(権利者が有償で公衆に提供・提示している著作物等)の販売等により権利者の得ることが見込まれる利益を害する目的を有していること
[2]有償著作物等を「原作のまま」公衆譲渡若しくは公衆送信する侵害行為又はこれらの行為のために有償著作物等を複製する侵害行為であること
[3]有償著作物等の提供又は提示により権利者の得ることが見込まれる「利益が不当に害されることとなる場合」であること
これにより,例えばいわゆるコミックマーケットにおける同人誌等の二次創作活動については,一般的には,原作のまま著作物等を用いるものではなく,市場において原作と競合せず,権利者の利益を不当に害するものではないことから,上記[1]~[3]のような要件に照らせば,非親告罪とはならないものと考えられる一方で,販売中の漫画や小説の海賊版を販売する行為や,映画の海賊版をネット配信する行為等については,非親告罪となるものと考えられます。


 明らかな海賊版でもない限りは、二次創作をしたからといって国家権力によって犯罪とされることはないのですが、もしこの時点で十分な議論がされず、社会的なコンセンサスもとれずに非親告罪となっていたらと想像すると背筋が凍る思いがします。自身の創作物が国家によって犯罪と認められるというのは有り得ませんからね。

 こういった過去の議論や社会的なコンセンサス、そして日本国としての落とし所があったものを、言葉を選ばずに言えば、反AI派のAIへの無理解と社会への無知蒙昧が先人の偉業に傷をつけ、創作者が自らの首を絞めようとさえしていると言えます。

 これは老婆心ではあるのですが、SNS隆盛の現代においては、一般市民がデジタルタトゥーを負ってしまうきっかけは無数にあります。目立ちがちな不謹慎な写真投稿や迷惑行為の動画だけではなく、誰かに煽動されて乗ってしまい稚拙な投稿をしてしまった、ということが後世まで残されてしまうのです。

 そういうことを避けるために、次のようなことが役立ちます。これは生成AIの話題だけでなく、政治や社会、権利が話題になったときに、果たしてこの議論にどういった立ち位置で参加すべきかを考えるのに役立ちます。

● 感情を議論から切り分ける。自分に直接関係のないことで怒らない。
● 法的課題、社会・経済的課題を整理し、既存の法律、法解釈、あるいは商慣習や運用で対応できていることとできていないことを理解する。
● 議論に使用する情報がどこから来ているかをチェックし、信頼性のあるソースからの情報を使用する。
● 統計を用いる場合は、それが主題に対して因果なのか、相関なのかを追求し、間違ったエビデンスを採用しない。
● 文章内の仮定や条件を正確に読み取る。
● 現在までに実際に発生していない事件や、実在しない被害者のことは考えない。
同様に、一部の特殊な事例を誇大に扱って問題であるとしない。
● 自身の思い描く筋道で相手が叩きのめされた上で敗北宣言をし、相手から何らかの権利が奪われることをゴールとして定めない。

 SNSでは匿名で投稿することが多いかと思いますが、誤謬などをもとに万が一他者を傷つけた場合、名誉毀損等で訴えられることが無いとは言えません。日常的な話題での放言は楽しいものではありますが、思い込みの正義感からの暴言など、誰が守ってくれるわけではないのです。迂闊さがデジタルタトゥーとならないように留意することは大切です。

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