入社した時にはやる気でみなぎっていた人が、徐々にやる気をなくしていく……。それは、リーダーや周囲の些細な言動が原因かもしれません。
社員のモチベーションが低下する職場風土の改善には、実は「関係密度」がカギになるのだそう。この「関係密度」とは何なのか、そして高めるポイントとは?
700を超える企業の職場風土改善に関わってきた中村英泰さんの著書『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』から一部を抜粋・編集し、〝社員のやる気を奪う間違った職場づくり〟を打破するヒントを紹介します。
関係がぎくしゃくした職場で、「心理的安全性」を叫ぶ
組織の生産性と社員の関係性の脈絡で、最近では「心理的安全性」という言葉がごく当たり前のように用いられています。
意味としては「組織のメンバーの誰もが、非難される不安を感じることなく、自分の考えや気持ちを発言や行動に移せる状態」を表しています。
ただ、最近では、あまりにも概念的に用いられ、「誰にとっての、なんなのか」、疑問に感じる場面が少なくありません。
ある企業で、「心理的安全性」が大切だと口にしていた役員がハラスメントで訴えられました。
その役員は、口頭注意を受けただけで、そのまま続投。被行為者は、部署異動の末、離職することとなりました。
その会社の外部面談で多くの社員が「職場がぎくしゃくしている」と話してくれました。
その件を企業内で口にすることはご法度なのだそうです。
後日、その企業の経営会議に参加した際には「より一層、心理的安全性を高めて、部署間交流を図り、情報の共有と生産性向上に取り組んでいく」と、代表が発言しました。どうにも腑に落ちず、外部面談の担当者に「御社の心理的安全とはどこにあるのか」と尋ねましたが、深い意味はないと答えるだけでした。
「流行語を思わず口にしたい」感覚で使われているような気がしてなりませんでした。
心理的安全性とは、20年以上前に、組織行動学の研究者のエイミー・エドモンドソン氏が、論文のなかで提唱した学術用語です。
それが近年にわかに注目を集めるようになったのは、グーグル社が2012〜2015年に実施した生産性向上のための社内調査、「プロジェクト・アリストテレス」において、労働生産性を高めるために「心理的安全性」が欠かせない条件だと結論づけられたからです。
重要なのは、心理的安全性が、いくつかの要素が束になって、企業が変わった結果、おとずれる状態を示しているということです。
間違っても、「心理的安全性を守ろう」と、それ単体で取り組むべきものではないのです。
心理的安全性こそ、理論として語るのではなく企業全体で実践されてこそ価値があるものです。
では、どうしたら心理的安全性を高められるのでしょうか。
少なくとも、個人が、次の3つの行動を実践している必要があります。
・無表情をやめる
・交流の機会を積極的に増やす
・相手の意見を最後まで聴く
これらは、他者と関係を構築するためのソーシャルスキルの基本です。
職場で働いている人たちの関係性をよいものにしない限りは、心理的安全性が確保されることはありません。
それはそうですよね。
普通に考えても、対立や緊張を含む人間関係のなかで、他人の目を気にせず、自分の気持ちや考えを素直に表す「心理的安全性」が高まるはずがないのです。
まずは、職場の「関係密度」を高める。「心理的安全性」を唱え、実践していくのはそれからです。
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いかがだったでしょうか?
社員のやる気を左右する「関係密度」が高くなると、「社員の不本意な離職率が低下する」「コミュニケーションの齟齬が減る」「他責志向が、自己課題自己解決型に向かう」などのメリットがあるそうです。
部下や後輩との接し方に悩んでいる人は、心地良い職場づくりのヒントが詰まった一冊『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』をぜひ書店でチェックしてみてください。
社員がやる気をなくす瞬間
間違いだらけの職場づくり
発行所/株式会社アスコム
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著者/中村英泰(アスコム)
株式会社職場風土づくり代表
ライフシフト大学 特任講師
My 3rd PLACE 代表
1976年生まれ。東海大学中退後、人材サービス会社に勤務したのち、働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創るために起業し、法人設立。年間100の研修や講演に登壇する実務家キャリアコンサルタント。
監修/田中研之輔