入社した時にはやる気でみなぎっていた人が、徐々にやる気をなくしていく……。それは、リーダーや周囲の些細な言動が原因かもしれません。
社員のモチベーションが低下する職場風土の改善には、実は「関係密度」がカギになるのだそう。この「関係密度」とは何なのか、そして高めるポイントとは?
700を超える企業の職場風土改善に関わってきた中村英泰さんの著書『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』から一部を抜粋・編集し、〝社員のやる気を奪う間違った職場づくり〟を打破するヒントを紹介します。
制度や仕組みで、「静かなる退職者」を隠す
「クワイエット・クイティ 〜静かなる退職者」という言葉をご存じでしょうか。
実際に退職をするわけではなく、企業内にはい続けるものの、「やる気をもって一生懸命に働くという姿勢から退いている」人たちのことです。
もう少し具体的にいうと、仕事には意義や目的を見出さず、時間外に働くことはもとより、依頼された最小限の業務範囲を超えて働くことを拒む姿勢をもつ人たちのことです。
ウォールストリートジャーナルでこのような事象が取り上げられると、多くのビジネスパーソンの関心を集めさまざまな議論へと発展し、あっという間に日本でも知られるようになりました。
そうした「静かな退職者」に対するリスクは少なくありません。
まずは、1年の1/4近くの時間を「後ろ向きな気持ちで過ごすこと」に対する、個人のリスクです。
多くのキャリア理論では、「時間を投じて成せることは、その時間をどのような気持ちで過ごすのか」と正比例していることを示唆しています。
後ろ向きで、つまらない思いで過ごした時間が積み上がっていくほど、キャリア、そして将来は、個人の理想とはかけ離れたものとなるのです。
もう一方は、組織の視点です。
「正常なチームはかけ算である」という考え方があります。
これは、社員個々が前向きに取り組むことで、1人あたりのパフォーマンスが2にも3にも5にもなり、その集合体である組織の成果が予想を大幅に上回るものになるということです。
その一方で私たちの組織においても、誰か1人が「静かなる退職者」であったとすれば、かけ算の結果はゼロ、時にはマイナスになるのではないでしょうか。
これからの仕事への期待を胸に、「いずれは〇〇にかかわりたい」と、やる気に満ちあふれて入社したのに、月日が流れるなかでやる気はすっかり薄れ、気づけば日々を悶々と過ごし、夕日を見ながら訪れる明日を思って、憂鬱になる。
出勤初日のお昼どきに、「なんで、この会社を選んだの? うち、未来ないよ。斜陽産業だから」「うちの会社、社長と部長がバカだから」などとの会社批判を聞かされる。
仕事の引き継ぎを受けている際、「これまでやってきたことは忘れて、私の言うやり方でやってね」「いろいろ挑戦したい気持ちはわかるけど、私のラインは越えないようにね」と念を押される。
これは、私が実際に企業から依頼された、離職前面談を通じて対象となる社員から確認したコメントの一部です。
本当に問題なのは、「静かなる退職者」ではありません。
私が見てきた限り、「辞めようと思って入社する人」や、「ほかの社員や部署の邪魔をするために入社する人」、「『静かなる退職者』となることを目指して、自らの将来の灯りを消すために入社する人」はいません。
配属されたあと、職場の人間関係の問題によって、意欲を失い、「静かなる退職者」に追いやられてしまっているのです。
「やる気をなくす瞬間」は、職場(仕事をする場)のそこかしこに転がっています。
そうした「やる気をなくす瞬間」は、制度や仕組みを導入することで、覆い隠され見えづらくなっていきます。
それは、多くの社員が互いに気づけなくなる状態をより一層つくり出し、いつしか職場が「静かなる退職者」を生み出す製造装置になっているとも言い換えられます。
気づかないからこそ、「やる気をなくす瞬間」が幾重にも複層的に折り重なり、それがいつしか、「当社は働きづらい」などという決っして誇れないネガティブな文化を形成するに至るのです。
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いかがだったでしょうか?
社員のやる気を左右する「関係密度」が高くなると、「社員の不本意な離職率が低下する」「コミュニケーションの齟齬が減る」「他責志向が、自己課題自己解決型に向かう」などのメリットがあるそうです。
部下や後輩との接し方に悩んでいる人は、心地良い職場づくりのヒントが詰まった一冊『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』をぜひ書店でチェックしてみてください。
社員がやる気をなくす瞬間
間違いだらけの職場づくり
発行所/株式会社アスコム
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著者/中村英泰(アスコム)
株式会社職場風土づくり代表
ライフシフト大学 特任講師
My 3rd PLACE 代表
1976年生まれ。東海大学中退後、人材サービス会社に勤務したのち、働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創るために起業し、法人設立。年間100の研修や講演に登壇する実務家キャリアコンサルタント。
監修/田中研之輔