入社した時にはやる気でみなぎっていた人が、徐々にやる気をなくしていく……。それは、リーダーや周囲の些細な言動が原因かもしれません。
社員のモチベーションが低下する職場風土の改善には、実は「関係密度」がカギになるのだそう。この「関係密度」とは何なのか、そして高めるポイントとは?
700を超える企業の職場風土改善に関わってきた中村英泰さんの著書『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』から一部を抜粋・編集し、〝社員のやる気を奪う間違った職場づくり〟を打破するヒントを紹介します。
半径5メートルの職場風土が、企業風土を変える
企業の担当の方から「社員、1人ひとりの関係性を変えただけで、企業にとってどんなメリットがあるの?」と尋ねられることがあります。
確かに、社員、1人ひとりの関係性を変えることで、すぐに変わるのは、せいぜい職場風土です。
まず、職場風土とは、社員1人ひとりの「この会社は○○である」という価値観の集合体であり、最もわかりやすく表現するなら「職場の雰囲気」のことです。
そしてその範囲は、人数としては、5~10人、距離にすれば自分を中心とした半径5メートルほどです。
この職場の風土が変わったところで、範囲は限定的です。
ただ、どうでしょう。職場風土が変えられないのに、組織風土、ましてや企業風土を変えることはできるのでしょうか。
特に企業規模が大きくなればなるほど、長年かけて培われてきた企業風土は文化として定着し、数多くの社員や組織と密接にかかわりあいながら根付いています。
それを、一個人がマネジメントで、すぐに変えられるとはとても考えられません。
でも、職場風土を変えることくらいなら、できそうに感じませんか。
そもそも、人は自分の想像が及ばない大きなことには、実現の可能性を見出せず、失敗回避の選択(言い訳、行動しないなど)をします。
社員数の多い会社で、全社員に名前を覚えてもらうことは難しいものの、1人の社員に名前を覚えてもらおうとするなら、簡単です。
あいさつをすればよいのです。
風土づくりは、そうしたスモールステップを個人の行動の範囲、個人の影響の及ぶ範囲、個人の想像のつく範囲に対して行うことからはじまります。
企業というものは、組織の集合体であり、その組織はいくつもの職場から成り立っています。それぞれの職場風土が改善されれば組織の改善に、それぞれの組織の風土が改善されれば企業風土の改善に、一歩近づくのです。
日本人医師の中村哲氏は、500人もの人と協力しあい気温50度のアフガニスタンの乾いた大地に7年かけて用水路を引くことで、65万人の命を救ったとアフガニスタンの名誉市民に賞されるまで至っています。
最初は1人の医師として不慣れな土木工事を教科書とスコップを手に開拓をはじめています。
中村医師が用水路を引くに至るまでに、どのように職場をつくりあげたのか、次のような話が残っています。
・中村医師が行った診療に、山の民からは一杯のお茶が返礼された。それに対して中村医師は、笑顔で「ああ、おいしい ありがとう」と答えた
・中村医師は、用水路の用地確保のために、地元では恐れられている軍隊に赴き、交渉した。それ以降、周囲の人たちから認められるようになった
・中村医師は、国の政権がどうであろうと、どんな状況であっても、アフガニスタンを見捨てないという強い志のもと、取り組みを続けた
ここから学ぶべきことは、次のような、バウンダリー、スラブ、サイロの3つの距離を縮める行動をとっている点です。
・相手の返礼の中身や内容に関係なく感謝をつくすこと
・所属に関係なく、考えをしっかりと伝えること
・上下関係に影響されることなく、信念をもって行動すること
「関係密度」には突然、企業が生まれ変わるような即効性はありません。
ですが、中村医師の行動に限らず経験上いえるのは、1人の「関係密度」に対するマネジメント次第で、職場風土はよい方向へと変えることが可能だということです。
そして、それは間違いなく、企業風土の変容へ続く道となります。
社員が働いているのは、企業であり組織である前に、職場です。
職場の風土が変わることで、職場の人間関係、日々の労働環境、目に映る景色が変わります。
やる気も高まるため、仕事の能率も高まり、互いにかけあう言葉も変わります。
日々の仕事に影響するのは、企業風土よりも、間違いなく目の前の職場風土なのです。
なかには、企業のために動くつもりはないという方もいらっしゃるでしょう。
しかし、考えてみてください。働くのは企業のためだけではありません。
特に「関係密度」を高めることを意識しながら職場時間を過ごすと、そこから得られるものは「人と人との繋がり=人間関係」です。
一度、意識的につないだ人間関係は、意図的に断ち切ることをしなければ、個人の人脈として蓄積されていきます。
そしてそれは、ある困りごとに直面したときに「何人に相談できるか」としてあなた自身を助けるなど、効力を発揮します。こうした仕事を通じて蓄積される人脈がソーシャル・キャピタルなのです。
さらには、人と人の関係は、「相手のための行動」を選択することで太くなるばかりか、もらった相手は、「お返しをしなければならない=返報性の法則」と感じるため、いずれ相手に与えた行為は返ってきます。
施せし情は人の為ならず おのがこゝろの慰めと知れ
我れ人にかけし恵は忘れても ひとの恩をば長く忘るな
そうです。ほかの社員への情けは我がためなのです。
職場の「関係密度」を高めるためには、誰かがしてくれるのを待つのではなく、自分から距離を縮めていくことが基本なのです。
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いかがだったでしょうか?
社員のやる気を左右する「関係密度」が高くなると、「社員の不本意な離職率が低下する」「コミュニケーションの齟齬が減る」「他責志向が、自己課題自己解決型に向かう」などのメリットがあるそうです。
部下や後輩との接し方に悩んでいる人は、心地良い職場づくりのヒントが詰まった一冊『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』をぜひ書店でチェックしてみてください。
社員がやる気をなくす瞬間
間違いだらけの職場づくり
発行所/株式会社アスコム
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著者/中村英泰(アスコム)
株式会社職場風土づくり代表
ライフシフト大学 特任講師
My 3rd PLACE 代表
1976年生まれ。東海大学中退後、人材サービス会社に勤務したのち、働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創るために起業し、法人設立。年間100の研修や講演に登壇する実務家キャリアコンサルタント。
監修/田中研之輔