入社した時にはやる気でみなぎっていた人が、徐々にやる気をなくしていく……。それは、リーダーや周囲の些細な言動が原因かもしれません。
社員のモチベーションが低下する職場風土の改善には、実は「関係密度」がカギになるのだそう。この「関係密度」とは何なのか、そして高めるポイントとは?
700を超える企業の職場風土改善に関わってきた中村英泰さんの著書『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』から一部を抜粋・編集し、〝社員のやる気を奪う間違った職場づくり〟を打破するヒントを紹介します。
「関係密度」の向上を阻害する「心理的な溝」
「関係密度」を高めるためには、接触の量と質が大切だと述べてきましたが、実際に取り組むには、気をつけなければならない大きな2つのポイントがあります。
まずは、社員同士が縮めなければならない距離です。
「役割や階層の距離」「部署間の距離」「個人の心理的な距離」の3つがあります。
続いてはそれぞれの距離が開くことによって、知らない間に発生する「溝」です。
特に溝は、職場風土の改善やあなたのキャリア成長をも阻害するため、慎重に取り除いていく必要があります。
ここでは「3つの距離」に発生する溝について説明していきます。
1つが、「役職や階層の距離」に発生する溝です。
「社長は、こう考えるはず」「部長からこう言われた」といった会話を聞いたり、思ったりしたことはありませんか?
一言でいえば忖度です。
相手に直接真意を聞けば、距離はなくなるのですが、「偉い人だから」ということで距離は遠くなり、憶測や推測、意見の齟齬が生まれてしまう。そういったことが職場内ではよく起きているように感じます。
企業の成長とともに、業務の効率化を図るために築いてきた、責任と権限の委譲、さらには専門的知見に立った迅速で適切な判断を行うためのシステムが、職場の「関係密度」を高める際の阻害要因となっているのです。
一介の社員が、社長や役員といった上位層の人と話すのは簡単ではありません。
社長や役員、役職者が偉ぶっていなくても、心理的な溝が生じているものです。「社長室はガラス張りで、常にオープンにしている、どんどん話しかけてほしい」と言っていたとしても、「はい、そうですか」とはなりにくいのが現状です。
続いては、「部署間の距離」に発生する溝です。
支援先企業において、「営業は、なにも考えていない」と企画や製造の人間が言い、営業からは「あいつらろくなものをつくらない、売れるものをつくってほしい」「人事は、現場を知りもしないでのんきなものだ」などという話が聞かれるのは、特別珍しいことではありません。
企業の成長とともに、業務の効率化を図るために築いてきた、専門性の向上と、専門家の育成、オペレーションの最適化を行うためのシステムが、いつしか職場の「関係密度」を高める際の阻害要因となっているのです。
本来、同じ会社、同じ商品、サービスを提供する社員のはずなのに、部署が違うとそれぞれの立場に立った話をするため、責任の譲りあいと、成果の奪いあいが発生します。
企業によっては、製造部が、特定の情報を営業に説明しない、開示しないという場面にも遭遇しました。
週一度の会議においても、自分たちの主張のみで、話は平行線です。
私が、「会議室やWeb会議ではなくお互いの現場で話してみませんか?」と働きかけると、必要性はわかっていても、腰が重く、気乗りしないとの声が聞かれます。
部門間に知らずと広がった心理的な溝は大きなものです。
そして最後は、「個人の心理的距離」に発生する溝です。
松尾芭蕉の「秋深き隣はなにをする人ぞ」の句ではないですが、「会社員隣はなにをする人ぞ」といった感じで、近くにいるのに、どんな仕事をしているのかがわからないというケースがよく見受けられます。
「弊社は、フリ―アドレス制なので、隣の社員は日々変わります。なにをしているのか知るなんて無理です」とは言わないでください。
この溝は、物理的な話ではなく、社員個々の心の内にある心理的な話です。
少し、話が脱線しますが、本来、フリーアドレスは固定化した社内の関係性をMIXして、創発が起きることを目的としています。
関係性がない状態でフリーアドレス制を導入することで交流が減ったり、互いの理解が減ったりとすることも十分に考えられます。
話を戻すと、個人間の心理的な溝とは、
・いつも忙しそうにしていて、話しかけづらい
・話しかけて、逆に難しいことを言われたら面倒くさい
・そもそも、話しかけなくても仕事では困らない
などがあります。
溝が深まれば深まるほど、「話しかけてつながることの必要性」より、「話しかけなければならないと思うストレス」のウェイトが大きくなります。
すると関係性は加速度的に疎遠になっていき、社員間の距離は加速度的に広がっていきます。
これには、部下も上司も関係ありません。
ある企業のイノベーション推進室の室長と、社員が自由交流するためのコミュニティを創設するプロジェクトの打ち合わせにおいて次のような話をしました。
「同じ職場の社員であれば、互いがつながるための動機やきっかけも、こじつければなんとでもなります。あとは、溝を『ぴょんと』飛び越えてみるだけです。まずは室長が中心になって、イベントを立ち上げてみてはいかがでしょうか」
答えはこうでした。
「いやぁ、私はそういうタイプではないので……」
このように、どんな職位にいる人でも、「個人の心理的な溝」はできてしまってます。
3つの距離によってできる「心理的な溝」は、接触の量や質を弱めるバリアのような役目をしてしまい、関係性を阻む要因となっているのです。
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いかがだったでしょうか?
社員のやる気を左右する「関係密度」が高くなると、「社員の不本意な離職率が低下する」「コミュニケーションの齟齬が減る」「他責志向が、自己課題自己解決型に向かう」などのメリットがあるそうです。
部下や後輩との接し方に悩んでいる人は、心地良い職場づくりのヒントが詰まった一冊『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』をぜひ書店でチェックしてみてください。
社員がやる気をなくす瞬間
間違いだらけの職場づくり
発行所/株式会社アスコム
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著者/中村英泰(アスコム)
株式会社職場風土づくり代表
ライフシフト大学 特任講師
My 3rd PLACE 代表
1976年生まれ。東海大学中退後、人材サービス会社に勤務したのち、働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創るために起業し、法人設立。年間100の研修や講演に登壇する実務家キャリアコンサルタント。
監修/田中研之輔