入社した時にはやる気でみなぎっていた人が、徐々にやる気をなくしていく……。それは、リーダーや周囲の些細な言動が原因かもしれません。
社員のモチベーションが低下する職場風土の改善には、実は「関係密度」がカギになるのだそう。この「関係密度」とは何なのか、そして高めるポイントとは?
700を超える企業の職場風土改善に関わってきた中村英泰さんの著書『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』から一部を抜粋・編集し、〝社員のやる気を奪う間違った職場づくり〟を打破するヒントを紹介します。
社員がやる気をなくす原因は、職場風土のタイプで違う
まずは、創発型風土の職場からみていきましょう。
創発型風土の職場には次のような傾向があります。
・社員が目標や方針を達成することを企業の目標としている
・社員が目標達成できるよう、話しあいや相互調整をしながら進めている
・社員のキャリア成長のため、企業の機能を生かすことに力を注いでいる
創発型風土の職場には次のようなタイプの上司がよくみられます。
・社員の目標や方針をどのように達成できるかを考えている
・社員同士の関係性を高めるため、社員の距離を近づけることに取り組んでいる
・目標の達成に、社員の成長、キャリアの充実が必要だと思っている
「創発=当初想定していた意図や計画を超えるイノベーションを生み出す」を冠している型だけあって、これまでの「職場は働く場所」であるという一般的な常識をもとに培われた「ものの見方」「考え方」「規範」「価値観」「想定する結果」のすべてを超越する職場風土です。
ほかの職場の型と同様に問題は常に発生しますが、その都度関係性が強化され、そうした問題をも推進力に変えていきます。
実際にあった例を紹介します。
ある職場の女性社員が結婚を機に、好きな仕事をこれ以上続けられないことを申し入れしました。
残業や不規則な休日が彼女を悩ませていたことが背後にはあったようです。
詳細は省きますが、上司と彼女、時に職場のほかの社員が議論を重ね、短時間勤務制度を創設することで働き続けることになりました。
今では当たり前の制度ですが、2012年に時短勤務制度が義務化されてはいたものの、特に中小企業では、あまりうまく機能していなかった時代の話です。
職場の仲間が彼女1人のために会社の仕組みでさえも変えてしまったわけです。
そのときの上司が口にした「企業を思って働く社員が働きやすいように職場を整えるのが私の役割です」の言葉に、カルチャーショックを受けたことを今でも鮮明に覚えています。
このように、特に、「個人」対「個人」、「企業」対「個人」の利害が相反する場面で、お互いの意見の細部まで根気強く妥協なく、結論ありきではなく互いの考えをオープンにし、議論を重ねながら物事を進めるのが、創発型風土の特徴です。
あなたの理想とする職場風土はどのようなものですか?
社員の満足度が高く、互いの成長を通じてワクワクしながら働き、結果として生産性を向上させる職場を理想とするのであれば、それは、創発型風土です。
その思いを理想で終えることなく、本書を読み進めながら、実現に向けて1つひとつ取り組んでいきましょう。
■やる気減退に上司が気づきにくい、能動型風土
接触の質は高いけれど、量が足りていない能動型風土の職場には、次のような傾向があります。
・企業の目標や方針、達成するための方法は全員で決める
・企業の目標達成に向けて話しあいや相互調整をしながら進めている
・企業の成長のため、社員を生かすことに力を注いでいる
そして、能動型風土の職場には次のようなタイプの上司がよくみられます。
・全員で決めた目標や方針のために上司としてできることを考えている
・1on1面談、評価面談による、接触を増やすことに取り組んでいる
・目標の達成に、社員の成長が必要だと思っている
能動型風土の職場は、接触の質はよく多くの社員が能動的に動いているので、一見するとうまくいっているように感じます。
気がつくと疲弊感からムラが目立つようになり、どこからともなく身内に敵を見つけ出し、愚痴や不満をぶつけるようになります。
その背景には、多くの場合、社員が「目的や目標を、企業や組織のものに照準し、自らでは未設定だったり、そもそも人生に目的や目標を持つことの必要性を感じていなかったりすること」が原因として見られます。
企業や組織が、自分の一生にわたって幸福をつくり出してくれるわけではないことを知りながらも、自分では将来や、幸福を定め切れていません。
そうした現状をどことなく企業や組織に裏切られたと感じている社員が少なくないのが、能動型風土です。
確認する意味で、職場の部下や後輩、上司に「我が社の仕事はなんでしょう」と質問してみるとよりハッキリすると思います。
この風土の職場には、不満ではないが満足でもないという人が多くいるため、潜在的離職者を抱えている可能性があります。
そのため、職場になんらかの変化が起きることで、売上の減退や離職、メンタル不調の申し出などが一気に噴き出す可能性をはらんでいます。
時折、「面談や飲み会などの機会を増やすことで、創発型の風土になるのではないか」との質問をいただきますが、結論からいえば、それは間違いです。
物理的な接触の量を増やすことで一層の負担が増し、忙しさを増長することになります。
知らず知らずのうちに、「やる気」がゼロになって離職というケースも少なくありません。
ではこの能動型風土が創発型風土に向かうためにはどうしたらよいのでしょう。
本書を読み進めていただければ、答えを見出すことができますが、まずは、「なぜ、この会社なのか、この仕事なのか、私はこの職場以外ではダメなのか」を職場で話しあい、互いの共通点、企業や組織との共通点を見出していくことが必要です。
■管理をするのが大好き! 受動型風土
接触量は多いけれど、1回1回の質が低いのが受動型風土の職場です。
受動型風土の職場には次のような傾向があります。
・企業の目標や方針は、社長や役職者が状況を判断して示す
・意思決定プロセスやマネジメントが細かく整備され、正解が示されている
・人を企業が成功するための機能として管理している
受動型風土の職場には、次のようなタイプの上司がよくみられます。
・社長や役員が決めた目標や方針を信じて従っている
・標準手順作業書やマニュアル、仕様書にないことは取り組まないようにする
・目標の達成に、社員の成長やキャリア充実は必要ないと思っている
この受動型風土の特徴は、企業や組織の事業方針やルール、目標が明確にセットされ、これを忠実になぞるように実行に移す傾向がみられます。
そして、当期のすべての行動は、当期の成果につなげなければならないとしている考えが、濃淡はあれど、職場においては優位です。
さらには、単年で、できたこともできなかったこともリセットされたり、急な退職もあるため、ノウハウを蓄積することが苦手だったりします。
制度改革が行われる際に、そうした課題をクリアにするため面談制度が組まれることもありますが、面談において欠かせないヒューマンモーメント(本来、人と人が接点を持つことの意味、人間らしいかかわりあい)に取り組むための方法・手段よりも、回数や時間、頻度やフォームに重きを置いた実効性を優先します。
職場の社員間のコミュニケーションが一層シンプルになり、面談における成果が出なくなっているのも特徴の1つです。
また、職場で突然の離職があっても、この場合も「結局うちには合わなかった」で片づけられるケースがよくみられます。
受動型風土から、創発型風土を目指すには、
・互いが組織や職場に属することで得られているメリットはなにか
・隣の社員になにができるのか、隣の社員がいないことで受ける影響はなにか
・今の仕事は組織に属さず、1人で成せるのか
を考える機会を職場内で持ちながら、ヒューマンモーメントを1つ1つ丁寧につくり出していくことが大切です。
■関係性が崩壊寸前! 離散型風土
接触の量も少なく、質も高くない。これが離散型風土です。
離散型風土の職場には次のような傾向があります。
・企業の目標や方針は、社長や役職者がこれまでの経験をもとに示す
・費用対効果がハッキリしないことには手を出さない
・モノ、カネ、情報は大切にするが、人は取り換え可能な歯車と考えている
離散型風土の職場には次のようなタイプの上司がよくみられます。
・社長や役員が経験にもとづいて決めた目標や方針を受け入れる
・目標がハッキリしない、新しいことには手を出さないようにする
・社員の成長やキャリアの充実は重要ではないと思っている
社員の関係性は、赤信号です。
実際このタイプの職場におうかがいすると、「いや、中村さんそうは言うけど、うちの会社はうまくいっているよ」や、「私が定期的に面談しているから、大丈夫」「定期的に飲み会や親睦会を開催していて交流も盛んだからね」という声が代表や役職者から聞かれます。
ただ、いざ社員面談に入らせていただくと、「職場に関係性はありません」「あの社長と、なんでも話せると思いますか」「親睦って、役員が経費で飲みたいだけですよ」「言うことは立派ですけど……」などのコメントがため息交じりに聞こえてきます。
職場がこのように、「風土に無関心」になってしまう背景には、「誰にとっての職場なのか」「誰の視点に立った関係性なのか」という問いに対する答えの「誰」の部分を、代表や役職者が自分自身にしてしまっているのです。
「裸の王様」という物語があります。
王様は周りの意見を取り入れず、批判者や反対者がいないため、自己を常識として生きています。あるときそうした思考が災いして、「透明の生地のよさは、下位層には理解できない」と思い込み、「裸で街を歩く」という、大失敗をする童話です。
心理学において「確証バイアス」という言葉があります。
これは、自分の価値観や考え方に都合のよい情報を集めて注目する一方で反証となる証拠や情報を無視したり、探す努力を怠ったりする認知のゆがみを示すものです。
仕事において物事を評価する立場であれば既知の方も多いと思います。
いわば、「人が見ることができるのは自分が認めたこと、人が行動として選択できるのは自分が知っていること」にとどまるのです。
常に真実の半分は、自分には知ることができない外の世界にあります。
代表や役職者が、「組織は自分の思いや考えを実現するためのものであり、社員は、給料をもらってその一部を担うもの」だと少しでも思っていると、社員は人材=材料でしかありません。
すると、「材料にまともな考えなどあるわけがない。ましてやその意見など聞いても仕方ない。わきまえなさい」となるわけです。
大学の非常勤講師としてキャリアの授業を担当していると、学生の働くことに対する考え方が、私が社会に飛び出した20年前とは別物になっていることを痛感します。
次世代を担う学生たちは、職場に対して、「単に目の前の仕事をする場所」から「働くことを通じてキャリア成長する場所」であることを期待しています。
そのために、ブラック企業に対する定義も、数年前までの「過重労働、賃金未払い、労働問題を隠蔽する企業」から、最近は「入社から5年たったときに、経年や経歴ではなく、能力の獲得とともに何者になれているのかを説明できない企業」へと移り変わっています。
代表や役職者が、組織は「自分と社員の思いや考えを実現するための場所」ととらえ、社員は「人生の資源である時間を投じて成功を模索している存在」だと考え、そして職場は「その実現に向けて、確かな関係性をもとに互いに試行錯誤する場所(キャリア成長する場所)」だととらえ直すことが大切だとあらためて感じます。
さて、先ほどの職場風土診断、あなたの職場はどこに分類されましたか?
チェックリストに真剣に答えるためには、今の職場をしっかりと観て(創発的な行為は「見える」や「見る」ではなく「観る」です)、考えなくてはなりません。
そして、現状を知らなければ、解決策をみつけることは不可能です。
つまり、このチェックリストに答えるために、今の職場をしっかり観たことがすでに、職場風土の改善、社員の関係性をよくし、やる気を上げるための大きな一歩を踏み出したといえるのです。
☆ ☆ ☆
いかがだったでしょうか?
社員のやる気を左右する「関係密度」が高くなると、「社員の不本意な離職率が低下する」「コミュニケーションの齟齬が減る」「他責志向が、自己課題自己解決型に向かう」などのメリットがあるそうです。
部下や後輩との接し方に悩んでいる人は、心地良い職場づくりのヒントが詰まった一冊『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』をぜひ書店でチェックしてみてください。
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間違いだらけの職場づくり
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著者/中村英泰(アスコム)
株式会社職場風土づくり代表
ライフシフト大学 特任講師
My 3rd PLACE 代表
1976年生まれ。東海大学中退後、人材サービス会社に勤務したのち、働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創るために起業し、法人設立。年間100の研修や講演に登壇する実務家キャリアコンサルタント。
監修/田中研之輔