オリックス・クレジットの子会社化でドコモはどうなる?
房野氏:ドコモが組む相手として、オリックス・クレジットが選ばれたのには、なにか理由があるのでしょうか。
法林氏:クレジットと組んだのは、ローン系をやるためでしょう。オリックスグループの中で、ローンをやっている会社ですから。
房野氏:dカードの立ち位置は、今後はどうなるんですか?
法林氏:dカードは続ける。auが最初にauじぶん銀行を作った時は、なぜ? って思ったけれど、そのころから、決済は端末の中で行う未来が、KDDIには見えていたと思う。だから今、auには銀行もあるし、カードもauじぶん銀行の発行でやっている。ここまでうまくいく、きれいにまとまるケースは珍しいけどね。ソフトバンクは、ジャパンネット銀行にちょっとお金を出して、それをヤフーに絡めて納める。中国やインドの会社の技術をうまく取り込んで、PayPayを作る。独立でやっていたOneTap BUYを買収して、PayPay証券にした。ソフトバンクがうまいやり方をしている一方で、ドコモはできていない。
石川氏:やり方としては、KDDIやソフトバンクのように、ありものを買っていくか、時間をかけて作っていくかになる。
法林氏:クレジットとか、広い意味でのローンでは、今回オリックス・クレジットを買ったことで、ドコモは〝時間を買った〟ことになる。
石川氏:僕も住宅ローンを借り換えしようと思って書類を用意していましたが、途中で断念しました。
法林氏:あと、住宅ローンの次に、マイカーローンもある。オリックスは車にも強いからね。そのためには与信業務ができないといけない。
石野氏:説明会で、ドコモが「与信」とあんまり言うので、ドコモの契約者情報ではだめだったのかと突っ込んだけど、そういうわけではないと。
法林氏:金額が違うからね。数万円ならいいけれど、100万円を超えるローンを無担保でやるのは、ちょっと厳しい。
石野氏:irumoの契約者は、借入できる金額が減ったりするのかな(笑)
石川氏:上限は3万円くらいだったりするかもね。
NTT法をめぐる議論は一歩前進? 一歩後退?
房野氏:NTT絡みで言うと、先日NTT法に関する閣議決定が出ましたね。
石川氏:NTT法廃止が前提だったのが、廃止を含めて検討という形になった。181者の声が届いたのかなと。総務省としては、NTT法を残したいという方針は変わらないので、そっちの方向で議論を進めるはずです。
法林氏:落としどころをどこにするかだよね。なんでもかんでも今のままがいいとは言わないけれど、ユニバーサルサービスのことを考えると、この前の能登半島地震のような災害があった際に、管路や電柱はどうするのかという話になる。廃止が前提だったものが、廃止を含んで検討になった。一歩後退したのはいいこと。
それから、NTT法の廃止で、NTTグループで自由に献金ができなかったものが、自由になるというのは、その通り。自民党が裏金問題でごたごたしている状況を考えると、NTT法の廃止はなくなりそうな気がする。ただし、総務省案件ではあるので、今後も流動的。注意してみていかないといけません。
石野氏:総務省の役人自体は、NTT法を残したいと考えているが、政局がごたごたしてくると、うやむやになってしまう可能性があります。
房野氏:NTT法は、当時の郵政省が作ったんですよね?
法林氏:郵政省というか、政府だよね。
石川氏:作った後に見直しもあったし、整理したうえで残している。一方で、NTTが望んでいる、名前を変えたいとか、研究内容の開示義務を緩和したいとかは、誰もが認めている弊害なので、法の一部を改正していいかと思います。
房野氏:廃止はしないけれど、改正という形ですね。
法林氏:そこが落としどころだと思います。あとは、ユニバーサルサービスをどうするのか。NTT西日本が一部の地域でモバイル回線を使った「ワイヤレス固定電話」をはじめているけど、固定電話にについてはああいった形で、必ずしも有線にこだわらなくてもいいと思います。NTTは、なぜ自分たちだけがやらなければならないんだ、そんな主張をしていますが、そもそも基地局の鉄塔やそこにつなぐ管路、電柱などは、いつ作ったものですかという話。光回線と固定電話を含めたユニバーサルサービスは、最終的に誰がどこまで責任を持つのか、決めないといけません。
房野氏:NTTがやることになりますかね。
法林氏:個人的には、4社すべてが責任を負えるかはわからないけれど、場所によっては、大手3キャリアが担うこともあるかと思います。例えば、ワイヤレス固定電話のようなサービスは、各社がやっていることなので、「この地域はこのキャリアが強い」といった差分はある。
石川氏:限界集落のようなところで、たまたまソフトバンクだけが繋がるといったところもあるので、じゃあそこはソフトバンクが担当してね……となるかもしれません。NTTは、すべてのユニバーサルサービスを担いたくないという考え。なので、3社なり4社なりで協力して進める方向でいけば、NTTは納得するかもしれません。
法林氏:NTT法が廃止になったら、お金にならないことはやらない可能性があります。NTTが「絶対、責任持ってやります!」と担保すれば、廃止を考える余地はあるけれど、そもそもNTTは、NTT東西を競わせると閣議決定したのに、その決定をなかったことにする、そんな会社です。
房野氏:では、NTTの担当のみではなく、3社なり4社でユニバーサルサービスを分担するのでしょうか。
法林氏:そうですね。その場合、地域格差のようなものが生まれる可能性がある。あと、固定電話の光回線やケーブルテレビを含めると、一番しんどいのは、ケーブルテレビのJ:COMグループを持っているKDDIかも。そっちはそっちでカバーしてあげないと、不公平になるかもしれません。
今のケーブルテレビって、住宅の集まる途中までを光回線でつなぎ、住宅の集落内は同軸ケーブルでつなぐ仕組みになっている。なので、J:COMグループを持っているKDDIさんが頑張ってという話になるかも。ただし、これまでは音声サービスのために使われてきたユニバーサルサービス料がブロードバンドサービスにも適用されるかもしれないので、そのあたりをどうしていくのかが課題でしょうね。
……続く!
次回は、LINEヤフーの情報漏洩問題について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦