三菱地所設計は「都市・建築・人をつなぎ合わせるツール」として、建物の内外を問わずに人の移動をシームレスなものとする、新時代のモビリティ『SMS:Seamless Mobility System』の構想を提唱しているが、先日、新たに『SMS』のアイデアを都市の上空にまで展開して、より自由な空間利用を可能とするeVTOL(※) のあり方が発表された。
本稿では同社リリースを元に、その概要をお伝えする。
※ eVTOL:電動垂直離着陸機。都市型の次世代航空交通として注目される乗り物(次世代エアモビリティ、空飛ぶクルマ)。
「未来のモビリティの仕組み」から「未来のまちの仕組み」「建築のすがた」の提案へ
『SMS:Seamless Mobility System』の延長・発展としてデザインしたeVTOLである「Passenger VTOL」。3つのユニットの合体・分離で空・陸のシームレスな移動を実現している。
この提案では、建築設計事務所からのアプローチとしてeVTOLそのものの姿を描くだけでなく、「進化したモビリティがインストールされた未来のまちのあり方」を追求している。
『SMS:Seamless Mobility System』として提唱した、新しい移動のあり方をさらに発展させるものとして、都市における移動の利便性を一層向上させ、都市空間を、より可変的で、自由に使えるものにしていくための構想であるとともに、ここで提案するeVTOLを介して、人やモノがビルの屋上や中間階に直にアクセスできるようになることで、ビルという建物のタイポロジー(建築の型)に大きな変革をもたらす。
■可変的なシステムでシームレスな移動を可能とするモビリティ「Passenger VTOL」
同社が提案するeVTOL「Passenger VTOL」は、プロペラ・キャビン・走行の3つのユニットから構成される、4人乗りの全自動操縦型電動式のモジュラー型モビリティシステムだ。
バーティポート※(後述)と一体的に機能し、ポートからポートの空中だけでなく、空中と地上の「間」の移動をも、シームレスにつなぎ合わせる。こうしたデザインの独自性が認められ、このたび欧州における意匠権(欧州共同体意匠DM/235029)を取得した。
※ バーティポ―ト(Vertiport)は「垂直離着陸用飛行場」を指す、垂直(Vertical)+空港(Airport)からなる言葉。
各ユニット・パーツが着脱できる、3Dプリンタを用いたモデル作成(縮尺1/12)を行ってデザインの検証が行なわれている。
■新たなモビリティにより変化し、空中と地上の移動をつなぎあわせる「ビル」の姿とは
eVTOLの登場で、従来までの地上のエントランスに加え、「新たな玄関」となるのがビルの屋上や中間階だ。ここは「Passenger VTOL」の離発着のためのバーティポートとなり、旅客乗降、荷物の積み下ろし、「Passenger VTOL」のモード転換などが行なわレル。
ビル外壁面には、人を乗せたままで「Passenger VTOL」を地上との間で昇降させる機構が設置される。
これによって、都市における新たな物流・人流の拠点としての役割を、ビルに与えることができる。
バーティポートが設けられたビルのイメージ
(1)上空を飛行する「Passenger VTOL」。
(2)シームレスな離発着を可能とする、プロペラユニットを装着するパーゴラ屋根。
(3)プロペラユニットを切り離し、屋上を移動する走行モードの「Passenger VTOL」。
(4)新たなビルのエントランスとなった屋上階には、ロビーをはじめとする利用者待合スペースとしての機能が設けられる。
(5)屋上と地上との間で、エレベータのゴンドラのように「Passenger VTOL」を昇降させる搬送システム。各階への着床も可能な、外壁部に設けられる新たなビルの建築要素。
(6) 地上に降りた「Passenger VTOL」は、そのまま都市内を移動していく。
■新たな人とモノの流れを生み出すバーティポート
(1) パーゴラ屋根。フレーム内のガラス面では高効率の太陽光発電を行なうことも想定。懸架された「Passenger VTOL」プロペラユニットが充電されている。
(2) エレベータでせり上げられたキャビンユニットは、プロペラユニットと合体し、飛行モードへと切り替わる。
(3)充電中の走行ユニット。バーティポートに到着した飛行モードの「Passenger VTOL」は、走行ユニット上に着陸・ドッキングし、自走できるようになる。
(4)「Passenger VTOL」は、物流の仕組みとして展開させることも可能。さまざまなモビリティを組み合わせた一連のシステムで、ビルは都市の新たな物流の拠点となる。
■「新たな都市のあり方」の提案への展開:三菱地所のコンセプトムービーに登場
三菱地所プレスリリース上での提案の展開
本提案における「Passenger VTOL」とバーティポートの一連の構想は、2024年2月13日に三菱地所株式会社より発信されたリリース『空飛ぶクルマの社会実装に向け、都心でのヘリコプター運航実証を開始』(https://www.mec.co.jp/news/detail/2024/02/13_mec240213_sorakuru)と、そのコンセプトムービーなどに登場している。
■コンセプトムービーはこちらから
関連情報
構成/清水眞希