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「蜘蛛の子を散らす(読み方:くものこをちらす)」とは、何かのアクシデントを受けて大勢が逃げ散ることを意味することわざである。「蜘蛛の子を散らすように」と何となく使ってはいるが、正しい想像がついていないかもしれない。
本記事では、ことわざの意味・読み方と由来に加え、例文付きの使い方、類義語も解説していく。日常やビジネスシーンにも当てはめられる言葉のため、ぜひ覚えておいてほしい。
「蜘蛛の子を散らす」とは?
「蜘蛛の子を散らす」とは、大勢の人が四方八方に逃げていくことを表すことわざである。以下では、意味・読み方と由来を解説していく。
■ 意味・読み方
「蜘蛛の子を散らす」を辞書で引くと、意味は以下の通り。
《蜘蛛の子の入っている袋を破ると、蜘蛛の子が四方八方に散るところから》大勢のものが散りぢりになって逃げていくことのたとえ。「悪童どもは—・すように逃げ去った」 引用:デジタル大辞泉(小学館) |
上記の通り、「大勢がいろいろな方向に逃げていくこと」を意味するのが「蜘蛛の子を散らす」のことわざだ。蜘蛛の子が大勢の人々、散らすが逃げるを指す。蜘蛛の子どもが入っている袋を破くと、四方八方に逃げ出すことから来ている。
ちなみに、逃げ出すきっかけには、一か所に集まっていた大勢が逃げ出すに値する驚くことがあると仮定される。そのため逃げるのではなく、単に走る・広がる・動くといった意味は持たないと覚えておこう。
また、「雲の子を散らす」は間違いのため要注意だ。
■ 由来
「蜘蛛の子を散らす」は、上記にもあるように、蜘蛛の子どもの生態に由来している。蜘蛛のメスは一度に何十から何千という卵を宿し、少なくとも百単位の卵が孵化するという。卵は母親の紡ぐ糸で作られた袋(卵嚢)に入れられているが、じきに卵嚢から出るべき時がやってくる。次なる安全な場所を求め、蜘蛛の子が散っていく様子を元にしたのがこのことわざだ。
蜘蛛のなかでも一つの卵嚢に約300個の卵を持つアシダカグモは、「蜘蛛の子を散らす」のモデルにふさわしいと考えられるだろう。
「蜘蛛の子を散らす」の使い方
「蜘蛛の子を散らす」のことわざは、大勢が驚くべき何かが起こり、散り散りになっていくことを表すシーンに使用できる。たとえとして使われるため、「蜘蛛の子を散らす」+「~ように」となるのが一般的だ。
以下では、例文を交えてことわざの使い方を解説していく。
■例文
「蜘蛛の子を散らす」を使った例文は、以下の通り。
・突然のお天気雨に見舞われて、近くにいた人々は雨宿りのために、蜘蛛の子を散らすように屋根のあるところへ逃げ出した。
・駅の構内から爆発音がして、帰宅途中の私たちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
・夜遅くにゲームセンターで遊んでいたら、先生に見つかって「早く帰りなさい」と言われた。だから蜘蛛の子を散らすように逃げ帰ったんだ。
上記は驚くべきこと・逃げることになった理由はさまざまだが、大勢が散っていく様を表していることに違いはない。天候の変化や権力者・上の立場の影響、事故・事件など、その場にいる人々が逃げるに値することであれば、出来事の大小は問わず使用できる。
■NG例文
「蜘蛛の子を散らす」は、先述の通り、大勢が四方八方に散ることであっても、逃げるにいたること以外には使用できない。NG例文は以下の通り。
・先生の「よーいドン」の合図で、スタートラインにいた生徒たちは蜘蛛の子を散らすように走り出した。
・後の人のことを考えて一か所に固まっていたが、間隔をとって良いと言われたので、蜘蛛の子を散らすように広がった。
NG例文の一つ目は、起こることが事前に想定されていて、驚くべきことでもない。「蜘蛛の子を散らす」はどちらかというと、危機が迫るシーンに当てはめるのが自然だ。
「蜘蛛の子を散らす」の類義語
散る・逃げるといった意味の言葉は、ほかにもいくつかある。以下では、「蜘蛛の子を散らす」の代表的な類義語を2つ紹介しよう。
■「算を乱す」
「算を乱す」とは、「散り散りになる」「バラバラになる」といった意味を持つ言葉だ。奈良時代から室町時代にかけて使われた計算用具の算木が散乱する様に由来し、「蜘蛛の子を散らす」の意味に限りなく近い。「算木を乱す」「算を散らす」とも言い換えられる。
■「四分五裂」
「四分五裂」は、「無秩序に散る」「いくつもに裂け分かれる」を意味する。読み方は「しぶごれつ」で、元々まとまっていたものが乱れることを指す。そのまま訳すと4つに分かれ5つに裂けると捉えられるが、「蜘蛛の子を散らす」と同様に、数には限りがない。
世を生き抜く術が窺える「蜘蛛の子を散らす」
「蜘蛛の子を散らす」は、蜘蛛の子どもが袋(卵嚢)から出た時に、散り逃げる様子に由来することわざと分かった。例文で挙げた通り、「蜘蛛の子を散らすように」といった使い方が一般的である。代表的な類義語は、散る・バラバラになることを意味する「算を乱す」だ。
一か所に集まっていた多くの人々が何かのアクシデントを受け、安全のために逃げることは人間界においても稀ではない。会社や学校など、大勢が集まるシーンの表現として、覚えておくと重宝するだろう。
文/shiro