新しいテクノロジーを導入して戦略的価値を高める
75%が、テクノロジーを有効活用できていないことが最大または2番目に大きな課題と回答し、67%が、「データの質の低さ」を最大または2番目に大きな課題に挙げている。
興味深いのは、73%が、より高度な移転価格業務関連技術への投資はリスク管理の「中程度」または「重大な」向上につながると回答し、88%が、移転価格関連技術で今後3年間にコストを削減できると予想していると答えた点だ。
EY Global Vice Chair – TaxのMarna Ricker氏は、こう話す。
「企業が今、世界各地で直面する極めて複雑な新しい税務情報開示要件は数多くあり、近い将来さらに増える見通しです。この要件の多くには、取引の発生に伴う源泉地での課税が盛り込まれています。
こうした要求を税務の専門家が満たすサポートの鍵を今後握ると思われるのが、生成AIやロボティクスオートメーション、量子コンピューティングなどの新しいテクノロジーです。
とはいえ、現在のところ企業の多くが、こうしたテクノロジーの利用・導入の方法を学ぶ、ごく初期段階にあります。税務を重視した、データ/テクノロジートランスフォーメーションのロードマップを策定することが肝要です。チームがこうした課題に対処する体制を整える一助となります」
リスクの高まりで、移転価格の確実性確保の動きに拍車
今回の調査の結果から、事前確認(APA)に関心を持つ企業が劇的に増えていることもわかった。
事前確認とは、税務申告前に企業が複数年間、企業間取引の条件について税務当局と協議できる制度だ。
それにより、移転価格ポジションをめぐる確実性を高め、税源浸食と利益移転(BEPS)2.0導入後の環境で、より多くの価値を創造することができる。
二国間APAと多国間APAが「非常に役立つ」と答えた人は、それぞれ61%と59%で、2021年の34%と30%から大幅に上昇した。
また、国内APAは今後3年間、移転価格関連の係争への対応で「非常に役立つ」と回答した人は59%で、やはり2021年の29%から、ほぼ倍増している。
これについてFultz氏は、以下のようにコメントしている。
「移転価格部門は今こそ、まず計画、実行してから、最終的に税務ポジションを守るという従来の直線的なアプローチから脱却しなければなりません。今後は、自動化とデータの標準化を活用した係争解決計画の整備など、確実性を確保する最善な戦略に注力すべきです」
結局のところ、移転価格ポリシーを支えるのは企業の事実とデータとなる。現在の規制環境と財務環境の変化を受けて、移転価格の専門家は、経営幹部と協働し、今まで以上に先を見越して、移転価格問題に関わる確実性を高め、経済的・地政学的混乱に早期に対応することが求められるようになると考えられる。
EY Japan 国際税務・トランザクションサービス 移転価格アドバイザリーリーダー EY税理士法人 パートナー 谷津 剛氏は、以下のようにコメントしている。
「BEPS第1、第2の柱の最終化、実施時期が迫る中、サプライチェーンの複雑化やインフレの深刻化に伴う経営環境の複雑化と相まって移転価格対応の難易度は大きく高まっています。
これらの状況は、日本企業にとって非常に重要な経営課題と言えます。一方、移転価格対応のための人員、予算等のリソースは極めて限定的であることがほとんどであり、グローバルな範囲で包括的かつ高精度な対応を実現することは、従来の延長線上では非常に困難です。
税務ガバナンスの強化、現場を巻き込んだテクノロジーの活用、内外の専門家の有効活用など、さまざまな角度からの積極的なアプローチが求められていると言えるでしょう」
【本調査について】
2024年のEYの移転価格動向調査は、2023年9月から10月にかけて実施された。このダブルブラインド調査(調査する側も、される側も相手が分からない)では、47の国と地域における19業界の大企業の経営幹部1000名を対象に、国際税務と移転価格のさまざまな問題について質問した。EYが調査のスポンサーであることは明かされていない。
関連情報
https://www.ey.com/ja_jp/news/2024/04/ey-japan-news-release-2024-04-10
構成/清水眞希