裁判所のジャッジ
裁判所
「Xさんの請求を、すべて棄却する」
全敗です。以下、順に解説します。
▼能力主義への変更はOK?
たしかに今回の就業規則の変更は従業員にとって不利益な変更なのですが(基本給と職能給に分けられ、人事考課の結果いかんでは給料が減るおそれがあるから)、裁判所は労働契約法10条の要素を検討して「今回の就業規則変更は合理的だ」と判断しました。
労働契約法 第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(以下、略)
〈理由〉
・変更の必要性あり
グループ会社出身の従業員との間で労働条件を統一する必要があった。
仕事に対する意欲を高める必要があったetc.
・昇給、昇格などの平等性が確保されている
・人事評価制度は合理的だ
・変更に先立ち従業員とも話し合っている
▼ Xさんへの人事評価は?
Xさん
「としても、私への人事評価は会社が権限を濫用しています!」
裁判所
「いや、権限濫用してないね。人事評価は妥当だ。理由は以下のとおりです」
〈理由〉
■ Xさんのチョンボ
・非通知で電話をかけて留守電メッセージを残し苦情を受ける
・1時間平均の電話をかける件数が他のスタッフと比べて少ない
・契約データ処理も遅い(他のスタッフは1時間あたり6~7件なのにXさんは1~2件)
・他のスタッフとコミュニケーションを取ろうとしない
・上司の指導を聞かない
――上司のYさん、Xさんは他にもトンデモ行動を取ったようですね。
上司Y
「はい。私が話をしているのに、Xさんは背を向けたまま答えるんです」
―― ナメてますね……。
上司Y
「私が『どこを見て誰と話しているんだ』と聞くと「文書で回答する」と答えてきました。まったく理解できなかったので私が『話をしている人へ体を向けないのはなぜなんだ?』と聞くと、Xさんは『身体的、肉体的拘束を伴う命令は、不安、屈辱、あきらめといった精神的苦痛を与えるものであり、到底同意できるものではない』と答えてきました」
――うざっ。
上司Y
「まだありますよ。私がXさんにメールで指導したところ、Xさんは『誠に申し訳ございません。私の不徳の致すところでございます。自らの身をもって償わせていただく所存でございます』と返信してきました。その意味を問うと『死んでお詫びいたします』と返信してきました」
――おおげさなヤツですね。死ななくていいから、元気に生きたままさっさと会社辞めてくれって感じですね。裁判所さん、Xさんの行動やメールはいかがですか?
裁判所
「常軌を逸した内容ですね。社会人として明らかに常識を欠いていると評価せざるを得ない」
――Xさん、「死んでお詫びいたします」とはどういうことですか?
Xさん
「自殺を考えるほど精神的に追い詰められていたんです……」
――裁判所さん、いかがですか?
裁判所
「んな状況であったことを窺わせる証拠は、ねぇ」
というわけで、Xさんにつけた人事評価はOKとなりました。
ただ、人事評価も違法になることがあります。人事評価については会社側に大きな裁量権があるのですが、不当な動機や目的に基づいて評価を下した場合は違法です。
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取材・文/林 孝匡(弁護士)
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