2022年11月、アサヒ飲料「おいしい水」ブランドから、天然水を50度から60度に温めた「アサヒ おいしい水 天然水 白湯」が発売された。
8年前には一度、同じく天然水を温めた商品が登場したものの、売れ行きが伸びず販売終了に。時代のニーズを受け、再度「白湯」の名称を前面に打ち出し商品化したところ、2023年4月末までの累計販売本数は、当初の計画の3倍へ。現在の累計販売数は150万本を突破している。失敗から得た経験を生かしたことで、大ヒット商品となった。
今回は、アサヒ飲料株式会社 マーケティング二部 ウォーターグループ鈴木慈さんに、再度白湯の商品を開発することとなった経緯や、再挑戦するうえで苦労した点についてお話を聞いた。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
過去の失敗を活かし、「白湯」に再挑戦した理由
アサヒ飲料では2014年に「アサヒ 富士山のバナジウム天然水 ホット」を販売するも、売上が振るわず販売終了となった過去がある。当時の状況について鈴木さんはこう振り返る。
「お客様からのご要望を受けて2014年に白湯商品を発売しました。今回と同様、天然水を温めた商品ではありましたが、商品名やパッケージデザインは今と異なるものです。販売終了となった原因は2つあると考えています。一つは、白湯の飲用文化が定着していなかったこと。現在は白湯を習慣的に飲む方も多くいらっしゃいますが、当時は『白湯』の言葉自体があまり浸透していませんでした。そうした背景を考えると、時代の先を行き過ぎた商品になっていたのかもしれません。二つ目が商品名です。温かい天然水だという情報は伝えられていたものの、『白湯』の言葉は使用しておらず、白湯と商品が紐付けられていなかった可能性があると思っています」
時代の変化を経て高まる「白湯」へのニーズ
数年の時を経て、アサヒ飲料から再度白湯を発売するに至った経緯や背景について、鈴木さんは次のように話す。
「コロナなどの社会的な背景から、皆様の健康意識が高まり、2020年頃から健康や美容のために白湯を飲む習慣が流行しました。消費者の方から、弊社のお客様相談室へのお問合せはもちろん、スーパーやコンビニエンスストアのご担当者からも(「白湯」について)お問合せをいただいていました。そうした声やSNSで収集した情報などから、2022年の再発売に踏み切りました」
「客観的データ」を持って説得する重要性
一度販売を終了した商品を再び開発するプロジェクトには、社内から不安の声が上がったという。
「再度、商品を開発するために、白湯に関するデータ資料や周囲の社員からの意見を集めるなど、説得材料をとにかく集めました。開発期間の4か月の間に、さまざまな部署に説得をしてまわりましたね」
上層部を説得する際、鈴木さんは「客観的データ」の提示を重視した。
「商品開発は、客観的事実の寄せ集めの中から、開発担当が1個の気づきを得てスタートすることが多いと考えています。人はそれぞれ主観を持ってしまうため、その気づきを、いかに客観的な事実を持って証明するかが重要です。今回、白湯が流行していることを証明するため、白湯の飲用経験率が2009年から2022年の間で5倍になっているデータなどを活用しました。また、『本当に白湯商品がコンビニで売れるのか?』という点も議論になりました。それを説得するために、白湯を自宅で作る不便さに関するデータを集めたんです。結果として、『すぐに冷めないので飲むまでに時間がかかる』『朝は時間がない』などの不満や課題を抽出できました。そこに対して、この商品がどう解決できるかを示す方向性で説得を進めたんです」