収益性を高める準備を進めていたか?
ヨーロッパ事業はコロナ禍で2021年8月期から2期連続の営業赤字を計上しました。ただし、売上高は力強く回復しています。2022年8月期は前期比36.5%、2023年8月期は14.7%それぞれ増加しています。
見逃せないのは、2023年8月期に営業黒字に転換している点。この時点で本業では黒字化を果たしているのです。ただし、最終利益は出ておらず、純損失を計上しています。
※「欧州事業の事業・財務基盤強化を目的とした企業グループの再編に伴う英国統括子会社の清算」より
欧米エリアの2023年8月末の店舗数は53。前年と比較して4店舗減少しています。
小売店の撤退は、原状回復費用などが必要で、特別損失を計上することがほとんどです。また、当初の収益性が得られない店舗については減損損失を出すこともあります。減損損失は一時的に多大な損失を出す要因になりますが、中期的には減価償却費が減って利益が出やすくなる会計効果があります。
つまり、良品計画はヨーロッパを統括する会社を清算する前に不採算店の撤退を行い、減損損失を計上した可能性が高く、清算後の再生においては利益が出やすい状態になっていることを示唆しています。
2023年9-11月の欧米事業の営業利益率は11.3%。前年同期間の9.0%と比較すると2ポイント以上高まっています。良品計画の国内事業2023年9-11月の営業利益率は10.2%で、欧米事業は国内よりも稼ぐ力が強いのです。
しかも、店舗数は減少している一方で、増収を重ねています。1店舗当たりの稼ぐ力も高まっているのです。
出店エリアで戦略を変えるしたたかなMUJIブランド
下のグラフは2024年8月期の出店計画と業績予想に基づいて独自に算出した、1店舗当たりのエリア別売上高です。欧米エリアは1店舗当たり年間6.9億円稼ぎ、国内を含むあらゆるエリアで最も高くなっています。消費力旺盛な中国エリアを含む東アジアのおよそ2倍を稼ぐ計算です。
※決算説明資料より筆者作成
欧米の店舗は収益性が極めて高いのです。
これは物価高が関係しているでしょう。欧米の無印良品では日本と同じ商品が数倍の値段で売られていることも珍しくありません。それでも1店舗当たりの売上高が増加しているということは、根強いファンに支えられている証拠。無印良品というブランドは簡素なものを好む、意識が高い消費者に支持されているのです。
ただし、ヨーロッパの店舗数は50店舗前後。500店舗近い東アジアなどとは大きな差があります。これは当然で、東アジアは価格を下げてでも店舗数の拡大で稼ぐことが戦略の一つとなるため、出店を重ねることが必要なのです。
その一方で、高単価のヨーロッパはブランドの育成が最重要。過剰出店は命取りになります。店舗を増やして在庫を抱えると安売りをせざるを得なくなり、ブランド価値が毀損するためです。
良品計画はヨーロッパのローカライズに成功しており、日本の小売店では極めて貴重な例だと言えるでしょう。
ユニクロもヨーロッパで受け入れられていますが、注目されているのは機能性の高さ。ブランドが支持されているという面では、まだまだ弱いというのが実情です。
良品計画のヨーロッパ事業の再編は、再成長に向けた注目すべき動きだと言えるでしょう。
取材・文/不破聡