日本国内で企業が経験したクライシスは、「人材・労務関連」が増加
国内本社が2022年から2023年にかけて経験したクライシスの種類は、「人材・労務関連」が2022年の8%から2023年は9.5%と上昇した(図表3)。長時間労働やサービス残業、ハラスメントといった労務課題に加え、個人の労働観の多様化などが背景として考えられる。「経済環境関連」は2022年の7.4%から2023年は6.8%と若干減少したものの、国際情勢は不安定化しており、不確実性が高まっていることも背景に、引き続き高い傾向にある。一方、「自然災害関連」は2022年の14.2%から2023年は7.7%と減少傾向にある。
図表3 2022年・2023年にクライシスを経験した企業において経験したクライシスの種類と発生時期
特定のクライシスに係るプラン策定は50%強の会社が対応する一方、リスクマネジメントと連動した体系的なプランを策定している企業はわずか
「BCPや不祥事マニュアルなど、特定のクライシスを対象としたプランを策定済み」と答えた企業は51.4%と、約半数の企業が対応していることがわかった(図表4)。一方で、「クライシスマネジメントプランは未策定で今後策定予定または策定中である」と回答した企業は、本社で18.2%、国内子会社では20.0%、海外拠点は17.5%と、策定には至っていない企業も一部存在することがわかった。
また「リスクマネジメントと連動した体系的な枠組みで整理されたクライシスマネジメントプランを策定済み」と答えた企業は本社では4.0%、国内子会社2.2%、海外拠点1.8%と著しく低い結果となった。近年の自然災害の発生や感染症の流行、戦争の勃発なども踏まえ、非常事態時に陥った際に、円滑な平常時への復旧を実現するためにも、クライシスに係るプラン策定に加え、リスクマネジメントと連動したプラン策定の検討も多くの企業で推進する必要がある。
図表4 「クライシスマネジメントプラン(リスクが顕在化した場合に被害を最小限にするための基本方針や対応計画)」の策定状況
<調査概要>
2023年10月中旬~10月末に、デロイト トーマツ グループが日本の上場企業を対象にアンケート形式で調査を実施し、有効回答数325社の結果を分析した。詳細な調査結果は「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査2023年版」を参照にしていただきたい。なお、本調査における「リスクマネジメント」と「クライシスマネジメント」の用語については、以下のとおり定義している。
○リスクマネジメント
企業の事業目的を阻害する事象が発生しないように防止する、その影響を最小限にとどめるべく移転する、または一定範囲までは許容するなど、リスクに対して予め備え、体制・対策を整えること
○クライシスマネジメント
どんなに発生しないよう備えても、時としてリスクは顕在化し、企業に重大な影響を与えるクライシスは発生し得ることを前提に、発生時の負の影響・損害(レピュテーションの毀損含む)を最小限に抑えるための事前の準備、発生時の迅速な対処、そしてクライシス発生前の状態への回復という一連の対応を図ること
○調査目的
・国内上場企業における、「リスクマネジメント」および「クライシスマネジメント」の対応状況を把握し、現状の基礎的データを得ること
・本調査の実施および結果の開示を通じ、国内上場企業における「リスクマネジメント」ならびに「クライシスマネジメント」の認識を高めること
○調査対象
日本国内に本社を構える上場企業より、売上の上位 約3,500社を対象(有効回答数:325社)
○調査方法
2023年10月中旬~10月末日にかけ、郵送による調査を実施
○調査項目
【第1部】……上場企業が着目しているリスクの種類
【第2部】……上場企業が経験したクライシスの分析
あわせて、2023年11月~12月に、デロイト トーマツ グループがアジア地域(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、中国、台湾およびインドなど) に進出している日系企業に対して、リスクマネジメントの対応状況、不正への取組み状況についての調査を実施した。詳細な調査結果は「アジア進出日系企業におけるリスクマネジメントおよび不正の実態調査 2023年版」を参照にしていただきたい。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/risk/articles/asia-pacific/risk-and-crisis-managment-survey-asia.html
出典元:デロイト トーマツ グループ
構成/こじへい