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薬もあって、治療もできる、それでも難しい「パーキンソン病」との付き合い方

2024.04.08

「ビジネスパーソンに忍び寄る身近な病たち、働き盛り世代が知っておくべき健康寿命を延ばす術とは」シリーズ。今回はパーキンソン病である。昨年秋に公開されたパーキンソン病を扱った映画、『いまダンスをするのは誰だ?』。全国のミニシアター等で上映され、映画好きやこの病気に注目する人々の間で話題になった。

仕事一筋で生きてきた40代後半の主人公はある日、若年性パーキンソン病と診断される。妻や娘と不仲だった彼は、事実を受け入れられず、職場の同僚も離れて孤独を抱える。そんな中、同じ病の人が集う自助グループで、人とのふれあいの大切さを痛感させられる。やがて自助グループで知ったダンスを通して、不仲の妻や娘と関係を修復していく物語だ。主人公のシンガーソングライターが、実際に若年性パーキンソン病であることも話題になった。

脳内のドパミン不足が引き起こす

「この病気は40代、50代、特に65歳以上の方に多いです。高齢化が進む今日、患者さんは、1000人中2名ぐらいはいると考えられます」

こう語るのは、今回レクチャーをお願いしたパーキンソン病のエキスパート、国立病院機構、仙台西多賀病院の武田篤院長である。昨今、よく聞く疾病だが現役世代、そして急増しているのは高齢化に伴いビジネスパーソンの親の世代だ。

武田篤先生はまず、パーキンソン病の原因を解説する。

「身体は大脳皮質からの指令が、筋肉に伝わることによって動きます。それを司っているのが、ドパミンです。ドパミンが大脳皮質の指令を調節して、スムーズに身体を動かしているのです。ところが、ドパミンが減ると動作が緩慢になったり、身体に震えが起こりやすくなったりする。それがパーキンソン病です。稀に家族性に発症し、遺伝子が特定される場合もありますが、なぜ発病するのかは、わかっていません」

誰もが襲われる疾病だと、先生はその症状をさらに詳しく解説する。

「患者さんの半分ぐらいは、手足に震えが出るので、早く診断に繋がりますが、この病気に共通していえることは動作の緩慢さで、ゆっくりとした動作になる。身体を動かしづらい。疲れやすい」

“すくみ足”といって、普段と異なる姿勢や異なる動作をするときに、うまく組み立てられない。“姿勢保持障害”はとっさに足を前に出そうとしたとき、動作が小さかったり。足を出すタイミングが遅くなって、転びやすくなる。症状が進むと、転倒したときに立ち上がるのが難しい。

映画『いまダンスをするのは誰だ?』の中のシーンで、題名にもなったダンスをするように身体が勝手に動く症状は、“ジスキニジア”といって、薬が過剰に効いてしまい、自分の意思とは関係なく身体が動いてしまう。

※出典:パーキンソン病療養指導士テキストブック

代表的な薬は“横綱”「エルドーパ」

パーキンソン病の治療について問うと、武田篤先生は“そもそも”と、この疾病の根本原因から語る。

「中脳の黒質にあるドパミン神経細胞が異常をきたし、ドパミンが急激に減るのは、ドパミン細胞の中のアルファ(α)シヌクレインというタンパク質が蓄積するからで。αシヌクレインの蓄積が、パーキンソン病の根本原因です。溜まったαシヌクレインの治療方法はありません。主な治療は不足したドパミンの補充です。そのための代表的な薬は一つだけ。ま、その薬を横綱に例えるなら、他の薬は前頭といったところですか」

――その横綱級は何という薬ですか。

「エルドーバ(L‐DOPA)という薬です」

――その薬はパーキンソン病の諸症状によく効くのですか。

「飲めば劇的に効きます。薬がうまく効いている間は身体がよく動き、健常者と変わりない日常が過ごせます」

――それなら症状が出る前に薬を飲めば、障害から解放されて問題ないように思いますが……。

ところが、そんなに簡単にはいかないと、武田先生はこちらの質問に応える。

「エルドーパを使い続けると、効果がだんだん短くなるんです。8時間は効いていたのが、4時間、3時間、2時間となっていく。その他にも薬の副作用は、前記した身体が不随意に動いてしまうリスキニジアや、他にもいろいろあります。

時には精神障害が伴うこともあって、高齢者だとエルドーパの過剰摂取で幻覚や妄想が出たり。天井裏で知らない人が暮らしているとか、知らない人が刃物を持って、刺しに来ようとしているとか。恐怖心を伴う患者さんもいます。高齢者の患者さんは認知症の発症も想定して、治療が必要になってきます」

健常者と変わらぬ動作を求めて、薬の量を上げれば、副作用のリスクも上がるというわけなのだ。

運動と薬は症状改善のための二大柱

“衝動制御障害”といって、薬の副作用には依存症もある。競馬やパチンコが止められないギャンブル依存症。女性の患者さんの中には買い物依存症に陥り、クレジットカードで払いきれない買い物をしたり。海外ではギャンブルに大金を注ぎ込み財産を失ったのは、パーキンソン病の薬の副作用のせいと、製薬会社に損害賠償を求める裁判を起こした患者さんもいます」

外来で診るたびに、新しい時計を身に着けている患者には、「あれ、また新しく買ったんですか」と武田先生はそれとなく声掛けをして、衝動制御障害の有無を確かめることもあるという。

病気の進行とともに、薬だけに頼るわけにはいかなくなる。症状改善に有効だと武田先生がまず、挙げるのが運動である。『いまダンスをするのは誰だ?』の中で、自助グループが取り組んだ運動の一つがダンスであった。

「運動と薬は症状改善のための二大柱ですね。例えれば、油が切れた自転車をスムーズに動かすための潤滑油、それが運動です。ドパミンの減少は止められませんが、運動は今あるドパミンの量でできる、身体のコントロールを広げます。障害の進行を遅らせることにつながるのです」

奥が深い病、その理由は?

今の医療で完治は不可能。病気の進行とともに身体の動作は不自由になるが、死に至る病ではない。そんなパーキンソン病をなぜ、武田篤先生が専門にしたのか。その理由にもこの病気の特徴が垣間見られる。

「脳の病気には治療法がないものも多い。その点、パーキンソン病は薬もあって、治療もできます。ところがこの病気は5年、10年、20年と患者さんの人生と付き合っていくことになる。奥が深い病なんです」

症状を劇的に改善する薬はあるが、その薬を使い続けると効果が徐々に短くなる。薬が効いている間がオンなら、薬が切れて身体の自由が利かない状態はオフだ。オンとオフの身体の落差をいかに緩和させるか。

さらに薬の様々な副作用、抑うつや不安を生じさせる疾病なので、精神面のコントロール等々。ドクターは患者一人一人に応じて適切な薬の処方と、副作用の状態。運動等を勧めて、患者と伴走するようにして励ましていく。

医師は文字通り、患者に寄り添っていく疾病なのだ。

明日公開の後編では、武田篤先生の失敗談も含め、パーキンソン病と告げられたとき、いかにこの病気と付き合っていくか、詳しく解説する。

取材・文/根岸康雄

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