静岡県の川勝平太知事が突然の辞意を表明し、波紋を広げています。
4月3日の会見では、職業差別とも受け取れかねない発言に対して「心からお詫びしたい」などと謝罪しました。誤解を招く発言をしたことが辞職する引き金になっているのは間違いありませんが、注目したいのは辞意を決断した理由にリニアの2027年開業延期で一区切りついたとの発言をしていること。
当初の計画通りに進まなかったことが、どのような意味を持つのか。改めて見返します。
安倍内閣の経済対策によってリニア構想は国策に発展
リニア中央新幹線は品川駅から名古屋駅を40分で結ぶというもの。現在の新幹線ではおよそ1時間半かかります。将来的には品川・大阪間が開通。67分で行き来ができるという次世代型の輸送インフラです。
JRがリニア構想を立ち上げたきっかけは、リスクへの備えでした。東海道新幹線は開業60周年を迎えます。経年劣化が進んでおり、大規模な改修工事が必要になります。
また、東海地方は100年周期で繰り返し発生する東海地震の懸念があります。前回の地震は1854年。すでに170年が経過しており、いつ起こってもおかしくはありません。
そこで、品川から山梨県の甲府を抜け、岐阜県の中津川から名古屋。大阪市へのルートを整備しようとしたのです。
※国土交通省「リニア中央新幹線の概要」より
潮目が大きく変わったのが、2016年に安倍晋三元首相が打ち出した経済対策。デフレ脱却、経済再生の起爆剤として財政投融資を活用し、リニア中央新幹線の全線開業を最大8年前倒しする計画を立てました。
事業規模は9兆円。名古屋間でも5.5兆円と巨額のプロジェクトでした。政府は3兆円の融資を行うことを決めます。
リニア構想は、政府を巻き込んだ一大プロジェクトに成長しましたが、安倍政権の狙いはインフラの輸出にありました。安倍元首相は2013年にオバマ元大統領にリニア技術の提供を提案。地道なロビー活動を続けていました。
アメリカはワシントン-ボストン間で、唯一の高速鉄道であるアセラ・エクスプレスを走らせています。しかし、735キロメートルの平均所要時間は6と3/4時間と高速とは名ばかりの代物なのです。
2015年11月にアメリカの輸送長官は、リニア導入の調査費用として34億円の計上を承認したと述べました。
もはやリニア構想は国策化しており、実績を作るためにも国内での迅速な敷設が望まれていました。