組織が自走型に転換する時の二つの罠
メリットばかりのように見える自走型社員への転換だが、森田先生は二つの問題点があると言う。
1)正しいマニュアルの存在
森田先生は、「マニュアルを読んで学び、自分で仕事ができる」という自走型社員の仕事のやり方に、引っ掛かりを感じたと言う。
「いろいろな捉え方はあると思いますが、マニュアルは自分が作ってこそ自分の実力になるものであって、他人が作ったマニュアル通りにやって、正しく仕事ができる人は少ないでしょう。
また、変化が激しい今、仕事のやり方はすぐに変わってしまう。マニュアルに新しいやり方を反映させる時間や手間を考えると、いつも正しいマニュアルが存在するとは考えにくい。特に中小企業ではそんな時間も人も豊富ではありません。
自分で仕事を創って自分で働けるようになるためには、ある程度のキャリアが無ければ難しいと思いますし、本当に正しいマニュアルが必須です」(森田先生)。
2)目的達成のための手段が増えにくい
もう一つの問題点は、仕事が個人で完結するため、新しい仕事のやり方や、目的達成のための新しい手段を生み出しにくくなる点である。
自走型への転換には、正しく導ける上司の存在が不可欠で、組織が正しく機能している必要がある。さらに、人はなかなか成功体験を棄てることができない。マンネリ化せずに改善しながらスキルアップするのは意外と難しい。絶えず自分で客観的に仕事の進め方を見直しながら、新しい方法を身に付ける必要がある。
働き方改革と自走型社員の接点
森田先生は自走型社員について、「個人で組織の中で結果を出しながら自走できる社員がいれば、それは会社にとって、本当にありがたいことです。さらに、自走を許せる上司がいてくれて、正しく見守ってくれて、きちんと成果が出ていれば、素晴らしいことでしょう。でも、マネジメントにおいて理想と現実は異なります。
私のコンサルティングでは、自分の目の前にある問題を、ひとつずつ解決していくことを繰り返していきます。それによって、達成感を味わいながら、本当の実力が備わっていきます。人を育て戦力化させることは、とてつもない労力が必要です。自ら学びながら自走する自走型社員への転換と言いますが、そんなに簡単なことではないでしょう。
また、これから政府の働き方改革が推進されて、長時間労働の禁止や社員格差解消、労働力確保などが強力に推し進められてきます。会社は対応に追われて、ヘトヘトだと思います。
そんな中、具体性のないまま、従業員に生産性向上を押し付けるようなやり方は問題です。自走型への転換は、果たして社員の幸せを願ってのものなのでしょうか」と言う。自走型社員への転換が、よりよい働き方を実現させてくれるものなのか、これからも見守って行きたい。
業務改善コンサルタント 森田 勝 先生
長野県出身。メーカー勤務を経て、1991年から(株)長野ケンウッドの改革推進室長として生産革新活動の実践にあたり、 1999年に業務改善コンサルタントとして独立。利益を生み出すプロセス改善、モノ作りの改善(コストダウン・在庫管理・生産リードタイム短縮・品質改善)、 役に立つISOの導入などのテーマについて、現場主義に徹した指導を、 多くの企業に対して展開している。
企業のお医者さん 森田勝 (corporatedoctor.jp)
注意1:マネジメントの新しい思考法「OODA」を理解するための3つのポイント
文/柿川鮎子