宮城県仙台市の方言に「なんだか不快」「しっくりこない」「違和感がある」といったマイナスの感覚を表す『いずい』という言葉がある。
宮城を中心に東北や北海道でも使われているそうだが、地元の”いずいユーザー“でも他県民にその意味を説明するのはかなり困難らしい。人によっては「いずい は、いずいと しか言えず代わりの言葉なんてない!」と言い切ってしまうほど。
筆者も東北出身だが、この方言は最近知ったばかり。初めて耳にしたのは、宮城県出身の乃木坂46久保史緒里さんがラジオ番組「オールナイトニッポン」で、『いずい』を全国区にさせるためのコーナーだったと記憶している。
一部では知られている方言だが、長きに渡り地域に根ざした温かみのある言葉「いずい」。それをモチーフに世界を目指すアパレルブランドが2024年1月、仙台に誕生した。
その名も「SENDAI IZUI & Go.」。
“いずい”をローマ字表記でプリントした「IZUI Tシャツ 」や「IZUIトートバッグ」が巷で話題になっている。
方言という美しく豊かな言葉と東北の魅力を武器にブランドを立ち上げた理由、展望を代表を務める村田小栄子さんに聞いた。
「いずい・IZUI」で互いに理解して助けあう社会へ
――ブランド立ち上げの経緯から教えてください
「数年前から、IZUI (いずい )をモチーフにした缶バッジをマルシェなどで販売していましたが、もっとIZUIという言葉とコンセプトを広げたいと思い、昨年秋からTシャツとトートバックを製作し販売しています」
「当初は一人でやっていましたが、その後、友人の一人がサポートしてくれて徐々にメンバーも増えていきました。今では9名の仲間がIZUIプロジェクトの名刺を持っています」
ここで改めて仙台出身の村田さんに「いずい」という方言の正確な意味や使い方を聞いてみた。
「謂わば仙台人のSoul wordでしょうか。例えば「身体に感じるなんともいえない違和感」「異物感がり気持ち悪い」「なんだべや、すかねごた」といったマイナスの感覚なんですが…微妙なニュアンスは簡単に標準化できず、他県民にはなかなか説明しづらいんですよね。それがまた「いずい」んですけど・・・(笑)」
元々は同じような意味の言葉で「いんずい」「えんずい」「いじい」などが西日本で使われており、それが江戸を通じて奥州に伝わったという説も。
兎にも角にも「なるほど!」とスッキリ理解できないところもまた、いずい。
そんなふしぎな言葉「いずい」をアパレルブランドのコンセプトに選んだ理由はなんだったのか?
「私自身が『いずい』に取り憑かれていたためです。というのも私は20年前に突然希少難病になり、15年以上も病名が判明しなかったことで社会としっくりいかず、いつも”いずい“を感じていました。常に生きづらく苦しい日々が続いているのに周囲にはなかなか理解されない…」
「私と同じように病気が原因で『いずい』と思う人もいれば、仕事や人間関係など様々な悩みによって自分だけの『いずい』を抱えて暮らしている人も多いと思ったんです。そんな誰もが心に秘めているかもしれない『いずい=IZUI』という思いを、互いに理解して助け合う社会になってほしい、そんな願いを込めて名付けました」
「『いずい』という言葉は傷つきやすかったり、支えが必要だったりする状態を表す英単語「vulnerableボーナブル」に似てると思って。つまり、人と人をつなぐ『魔法の言葉』なんじゃないかと思うんです。人間関係の希薄さや思いやり、助け合いが失われているかのような昨今、『いずい』というちょっと不思議な言葉から手助けや配慮がしやすくなるのではないかなと思っています」
村田さんが患った病は「ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)」。難病のせいで体力が極端に奪われやすく、販売や営業の仕事では辛く苦しい日々も少なくないという。しかしその一方で、やる気とアイディアだけは泉のように湧き上がってくる。
「仕事がなければ社会と繋がれず、人間らしく生きることができない。だから私は諦めずにチャレンジしました。私を支えてくれる仲間たちの支えもあり、なんとか頑張っています!」