我々は経済的に思いのほか堅実だった!?
たまに訪れる〝大勝利〟よりも、頻繁に得られる〝小さな勝利〟のほうが好まれるという「頻繁な勝者効果」は、ほかにもいろいろな対象に適用しそうだ。わかりやすいのは競馬などのギャンブルで〝大穴〟を狙うよりも手堅く〝本命〟を選んで賭ける傾向だろう。
また、たとえばレジャーにおいて、年あるいは数年に1度、時間とお金をかけた豪勢な旅行をするよりも、〝安近短〟の旅行を頻繁に行うのを選ぶ者のほうが多いのかもしれない。
あるいは限られた食費の使い方を「頻繁な勝者効果」にあてはめてみれば、普段は粗食に留めてたまに高級食材を楽しむよりも、そこそこ満足できる食事をコンスタントに味わいたいと考える者のほうが多いということになるだろう。
もちろん決められた予算の中で何をどうしようと当人の自由であり、あえて〝一攫千金〟や〝一転豪華主義〟を志向する者もそれなりにいるのは事実だ。
勝利体験や成功体験は、脳内にドーパミンという報酬物質を放出し、喜びをもたらしている。この報酬があるからこそ仕事でもプライベートでもさまざまなチャレンジができるのだ。そして〝大勝利〟であればあるほど、ドーパミンの放出量が増え、このうえない至福の極みを実感することになる。
ぜひとも〝大勝利〟によるドーパミンの大放出で至福の極みを味わってみたいものだが、たとえば株式投資で大儲けをしたり、競技会やコンテストで優勝して多額の賞金を手にしたりする〝大勝利〟はその後の人生を変え得るビックイベントにもなるだろう。経済的には恵まれることになるが、場合によってそれは悪いほうにも転がりかねない。
この成功体験によってさらなる投資を行い、〝大勝負〟に出て惨敗したり、大金を稼いだプロスポーツ選手に詐欺師が近づいて来るケースもご存知のように枚挙に暇がない。また多額の利益を得た場合には税金の問題もある。
あるいは満を持して年に1度の豪勢な旅行に出たものの、予期せぬトラブルで台無しになった場合の心理的ダメージは大きいだろう。一方でそれが〝安近短〟の旅行であったなら、仕切り直して数か月先にまた旅行計画を立てればよいことにもなる。
こうしたことを考慮してみれば、「頻繁な勝者効果」を好む傾向があるというのは、我々が思いのほか堅実であることの証しであるのかもしれない。
もちろん〝ロマンチスト〟においてはこの限りではないが、一歩間違えば失うものの大きい一世一代の〝大勝負〟についてはくれぐれも慎重でありたいものだ。
ささやかな幸せで「優勝」を味わっていればまずは大過なさそうである。
※研究論文
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2317751121
※参考記事
https://neurosciencenews.com/psychology-investing-risk-taking-25804/
文/仲田しんじ