大手企業および公共・公益法人向け統合人事システム「COMPANY」を展開するWorks Human Intelligence(以下WHI)は、大手企業の人事部と大手企業に勤務する従業員を対象に、女性管理職比率向上に関する施策の実施状況や従業員の意識について、それぞれ企業人事部向け調査(全15問)と従業員向け調査(全16問)を実施。結果をグラフにまとめて発表した。
本稿では同社リリースを元に、その概要をお伝えする。
企業向け調査の女性管理職比率の向上に関して何らかの取り組みをしている企業は84.6%
■従業員に最も効果を実感しているものについて聞くと「効果を感じているものはない」が最多
■企業向け調査で最も効果を実感している施策について聞くと「効果を感じているものはない」が最多
■従業員向けの調査で「管理職になりたいと思わない」と回答した女性従業員は85.3%
■理由は男女共通して「ワークライフバランスが悪化するから」が最多
■会社でどのような支援があれば管理職になりたいか
調査結果まとめ
◎解説:WHI総研 井上翔平 氏
<1>施策の定量的な効果測定とPDCAサイクルの推進
施策の効果を実感できていないのは従業員だけではない。企業向け調査において、自社で実施している施策のうち最も効果を実感しているものについて、22.5%が「効果を感じているものはない」と回答した。
さらに、「効果を感じているものはない」と回答した企業の定量的な施策効果測定状況を調べたところ、設問で挙げた8つの女性管理職比率推進施策について「すべての施策で定量的な効果測定をしていない」企業は40.0%、「すべての施策で定量的な効果測定をしている」企業は35.6%となった。
「定量的な効果測定をしていないために効果実感がない」場合と「定量的な効果測定をしたうえで効果を感じていない」場合では、PDCAサイクルを回すうえでとるべきアクションは大きく異なる。
まず、「定量的な効果測定をしていないために効果実感がない」場合は、自社で女性管理職比率が向上しない原因を、データ分析やエンゲージメントサーベイを通じて把握することが重要だ。
女性が管理職になりにくい要因として、働き方、キャリア形成、評価制度、教育、職場環境と様々なものが考えられる。これらのうち、自社では何がボトルネックになっているのかを主観ではなく、客観的に把握する必要がある。
例えば働き方という観点では、女性管理職比率が低い部署や職種で、残業時間が多くなりすぎていないか、育休取得率が低くなっていないかをデータで比較することが有効だ。
またキャリア形成という観点では、配属部署の偏りやジョブローテーション回数の少なさによって管理職に必要なキャリアを経験しにくくなっているケースが考えられる。
この場合、女性が男性に比べて異動回数が少なくなっていないか、配属部署に偏りがないかを異動履歴を使用して検証することが必要。また、育休を取得した女性とそうでない女性で評価に差がないかを過去の評価データから見ることもできる。
エンゲージメントサーベイによって従業員の声を直接収集することも有効だ。職場で任されている業務に男性と女性で差がないか、育児休暇や時短勤務に周囲の理解があるかどうかといった内容は現場の声を聞かないと状況を把握することができないからだ。
このようにデータ分析やエンゲージメントサーベイで客観的に原因を把握したうえで、それに対応するKPIを設定し、効果測定を実施することがPDCAサイクルを回す第一歩になる。
一方で「定量的な効果測定をしたうえで効果を感じていない」場合は、さらに原因を追求する必要がある。
前述したように、女性管理職比率が向上しない原因は一つだけではない。
そのため、まずは現在の施策でアプローチできていない原因は何なのかを明らかにしておきたい。
働き方を改善する施策をいくら実施しても、育休により、評価が下がってしまっている場合、管理職比率はなかなか上昇しないだろう。
この場合は自社の評価制度を見直す必要がある。効果測定ができていることで、初めてPDCAサイクルを一巡することができるので、別の原因を分析しながらさらに次のPDCAサイクルを回していくことが重要になる。
<2>経営層・現場(管理職・非管理職)への問題意識の共有と施策推進体制の構築
施策の実施に対する経営層、現場(管理職、非管理職)の理解度や協力度を5段階で問う企業向け調査の設問では、それぞれ約4割が「施策の必要性を理解しており、実施にも協力的である」と回答した。
施策に協力的な一方、他の選択肢である「主体的かつ具体的な提案や要望が寄せられる」「主管部門や担当者が主導しながら一緒に効果検証や問題の議論をしている」と比べて積極性は薄いため、より経営層や現場を巻き込めるようなコミュニケーションが取れると良いだろう。
<1>と関連するが、施策のデータ分析ができている場合、経営層や現場も女性管理職比率が向上しない原因を客観的に把握できる。
そして経営層、現場とともに、その原因に対して何ができるか、現在の人事制度や現場で何が問題となっているのか、共通の指標をもとに議論することもできる。
このように問題意識を共有したうえで、経営層や現場が主体的に参画し、人事部と協働しながら施策推進体制を構築していくことが重要だ。
<3>管理職の魅力付けと従業員への訴求
従業員向け調査では、性別に関わらず管理職を望まない従業員が8割を超える結果となり、「ワークライフバランスが悪化する」「能力不足」「責任のある仕事につきたくない」といった理由が多く挙げらた。
これらを踏まえると、管理職になるメリットや企業からの支援、施策の実施状況やその効果等、従業員への情報発信に苦労されている企業が多いことが推察できる。
特に、管理職になることに対し消極的な従業員が多いことについて、女性管理職のなり手を増やすという意味で、管理職の魅力付けや従業員への訴求といった対策を講じる必要性が高いと考えられる。
では、会社でどのような支援があれば管理職になりたいと思うのか。
従業員向け調査の結果で、女性では「管理職の職務定義の明確化」「特になし」「現在の仕事に対する評価」の順で回答が多く寄せられた。管理職の仕事の定義が曖昧であるが故に、仕事内容や働き方に対して漠然と不安を抱いている可能性がある。
昨今、大手企業の中にはジョブ型を導入する動きもあり、ジョブ型の実現によって、管理職としての職務や役割が明確になっているケースも見られる。
ただ、ジョブ型を導入しているのは大手企業でもまだ限られている。管理職をキャリアの選択肢として提示するためにも、まずは管理職の職務、役割を明確にすることが求められるのではないか。
そのうえで、女性に限らず管理職を目指したいという意向を高めるためにその魅力を発信していくことが必要となるだろう。
調査概要
調査名/女性管理職比率向上に関する施策実施状況の調査
期間/2023年12月11日~12月14日
調査機関/Works Human Intelligence調べ
対象/従業員数500名以上の企業の人事部610名、従業員数500名以上の企業に勤務する会社員631名
調査方法/インターネットを利用したアンケート調査
有効回答数/従業員数500名以上の企業の人事部610名、従業員数500名以上の企業に勤務する会社員631名
関連情報
https://www.works-hi.co.jp/news/20240326
構成/清水眞希